介護業界では多くの施設や事業所で退職金制度が導入されており、退職金相場は勤続5年で約50~150万円、勤続15年では約80万円~600万円と、加入している制度によってばらつきがあります。この記事では、退職金をもらえるかどうかを確認する方法や、勤続年数別の退職金相場、制度の種類を解説します。
退職金制度のある介護施設は多い
退職金をもらえるかどうかは勤務している施設(法人)によって異なります。その理由は、法律上、退職金制度を絶対に設けないといけないという決まりがないためです。
2018年の就労条件総合調査(厚生労働省)によると、医療・福祉分野で退職金制度がある法人の割合は87.3%。全産業平均が80.5%なので、介護業界は比較的、退職金制度が充実している業界だと言えます。
退職金制度がある・ないの割合は法人の種類や雇用形態によっても変わります。2012年度に介護労働安定センターが行った介護労働実態調査(特別調査)によると、医療法人や社会福祉法人の多くに退職金制度があり、株式会社などの民間法人はそれに比べると少ないことがわかります(正規職員の場合)。
法人種別 | 調査法人数 | 退職金制度あり |
---|---|---|
社会福祉法人 | 12法人 | 12法人すべて |
医療法人 | 5法人 | 5法人すべて |
民間法人 | 13法人 | 7法人 |
出典:『平成23年度介護労働実態調査(特別調査)』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成
派遣やパートなどの非正規職員に対して退職金制度を設けている法人は調査対象の30法人のうち2法人と少なく、正規職員との待遇にはまだまだ開きがあることもわかりました。
勤め先に退職金制度があるかを確認する方法
自分が勤めている施設に退職金制度があるかは、以下の4つの方法で確認することができます。
就業規則を確認
勤めている施設に退職金制度があるかを確認できる一番確実な方法は、就業規則を読んでみることです。
就業規則は原則、従業員がいつでも見られるようにしておかなければいけないものなので、一般的には印刷してファイルに閉じて保管してあったり、パソコン上の共有ファイルなどで閲覧できるようになっています。
退職金制度がある場合は、「退職金について」「退職一時金について」などの項目があるはずなので、受け取れる条件なども確認することができます。
人事・総務に確認
人事・総務担当者に、口頭で退職金制度の有無について確認することができます。
どちらも入職・退職手続きにかかわる職種なので、退職金を受け取るための条件や手続き、金額の算出方法などについては熟知しているはずです。
ただ、どこまで細かく教えてくれるかはその施設や法人の方針によります。
また、退職金について聞くことで、「辞めたいと思っているの?」などと思ってもみない方向に話がそれる可能性もあるので注意しましょう。
過去に退職した職員に聞く
ある意味、もっとも気軽に話を聞きやすいのは、過去に退職した職員です。
受け取った退職金の額までは教えてくれないかもしれませんが、退職金をもらえたかどうか程度であれば教えてもらえる可能性があります。
ただ、勤続年数や雇用形態、給与額によって退職金の有無や受け取れる金額には大きな違いがあるので、あくまでも参考程度と考えましょう。
給与明細で確認する
退職金制度によっては、給与明細でもその有無を確認できるケースがあります。
給与明細で、企業年金掛金や確定給付掛金といった名目で一定金額が差し引かれている場合は退職金制度があるということになります。
退職金がもらえる条件
退職金がもらえる条件は、勤めている施設や法人がどのような退職金制度を導入しているかによって異なります。
一般的には、「〇年以上勤務した常勤の者」というように、ある一定期間勤務することや雇用形態(勤務形態)を条件にしていることが多いようです。
施設や法人が導入している退職金制度によって支給条件はさまざまなので、詳しくは就業規則や人事・総務担当者に確認してみましょう。
介護職の退職金相場
退職金として実際にどの程度の金額をもらえるのか、2018年に東京都産業労働局が発表した「モデル退職金」を例を見てみましょう。
※こちらのモデル退職金は、介護職のみに限定したモデルではありませんのでご注意ください。医療・福祉分野という括りで計算されているため、看護師などの医療関係者を含めた金額となっています。
学歴 | 勤続年数 | 退職金(自己都合退職) | 退職金(会社都合退職) |
---|---|---|---|
高校卒 | 1年 | なし | なし |
3年 | なし | なし | |
5年 | 52万2,000円 | 67万円 | |
10年 | 67万円 | 76万4,000円 | |
15年 | 90万円 | 99万3,000円 | |
20年 | 124万6,000円 | 132万2,000円 | |
25年 | 185万6,000円 | 184万 | |
30年 | 228万4,000円 | 227万7,000円 | |
大学卒 | 1年 | なし | なし |
3年 | 14万3,000円 | 20万円 | |
5年 | 45万2,000円 | 59万8,000円 | |
10年 | 60万5,000円 | 71万9,000円 | |
15年 | 85万5,000円 | 100万1,000円 | |
20年 | 118万6,000円 | 132万2,000円 | |
25年 | 177万1,000円 | 195万円 | |
30年 | 221万円 | 236万5,000円 |
出典:『平成30年版中小企業の賃金・退職金事情』(東京都産業労働局)よりWe介護編集部で作成
東京都産業労働局のモデルだと、自己都合退職か会社都合退職かで異なりますが、5年勤務した場合に約50~65万円、15年勤務した場合に約90~100万円だということがわかります。
次に、東京都が都内の社会福祉法人を対象に行った調査で示されている退職金相場(仮想支給額)を見てみましょう。退職金制度別に相場がわかるので、こちらも参考としてご覧ください。
※福祉医療機構退職共済金、中小企業退職金共済事業はそれぞれ3章「介護職がもらえる退職金制度の種類」で解説します。
勤続年数 | 福祉医療機構退職共済金 | 中小企業退職金共済事業 |
---|---|---|
1年 | 55万3,500円 | 67万9,664円 |
3年 | 83万250円 | 82万3,709円 |
5年 | 158万6,250円 | 141万4308円 |
10年 | 295万7,400円 | 217万9,125円 |
15年 | 604万8,000円 | 297万9,926円 |
出典:『都内社会福祉法人の退職金制度に関する調査結果報告』(社会福祉法人東京都社会福祉協議会)よりWe介護編集部で作成
福祉医療機構退職共済金の場合は5年間勤務で退職金が約55万円、中小企業退職金共済事業の場合は5年間勤務で約70万円と、制度によって多少ばらつきがあることがわかります。
いずれの表からもわかるように、勤続年数に応じて受け取れる退職金の額が大きくなります。退職理由によって変動することもあるようです。
さらに、勤めている施設や法人が加入している制度によって、同じ勤務年数でも退職金の額が異なったり、年収によって掛金が異なることで受け取れる金額に違いが出てきます。
地域によってもかなりばらつきがあると考えられるため、あくまでも参考程度に捉えておいてください。
退職金の計算方法
ここからは代表的な退職金の計算方法について見ていきます。退職金の制度や施設の就業規則によって異なるため、参考として確認しておいてください。
計算方法の例1
基本給(1ヵ月)✕勤続年数✕支給率
1ヵ月の基本給に対して、勤続年数と支給率を掛けて退職金を算出します。
基本給ではなく、退職金算定基礎額という退職金算定用に設定した数字を用いて計算する場合もあるようです。
支給率については、退職理由や勤続年数、人事考課に応じて設定されていることが多く、自己都合退職か会社都合退職かどうかで変化するのが一般的です。それらをポイント化し、計算する場合もあります。
計算方法の例2
勤続年数に応じた一定額
こちらは非常にシンプルで、勤続年数に応じて退職金の額が一定で決まっています。
役職や基本給にかかわらず、5年間勤務した場合は50万円、10年間勤務した場合は100万円といったように、金額が一律に設定されているのが特徴です。
介護職の退職金はいつもらえる? 税金は?
退職金は実際いつもらえるのでしょうか。ここからは、退職金のもらえる時期と退職金にかかる税金について解説します。
退職金はいつもらえる?
退職金は、一般的に退職後1~2ヵ月以内に支払われることがほとんどのようです。
ただし、退職金制度は会社によって異なるので、支給されるタイミングもそれぞれ違います。
退職金制度がある場合は、就業規則に支払時期を明記しなければならないと決められているので、「退職金は◯ヵ月以内に支払うものとする」などの記載があるはずです。
退職金にも税金はかかる?
結論から言うと、退職金には所得税と住民税の2種類が課税されます。
退職一時金として一度にまとまった金額を受け取る場合は、「退職所得」として扱われ、税負担を軽くするための所得控除が受けられます。必要な手続きを確認しておきましょう。
毎月一定額を年金形式で受け取る場合は、国民年金や厚生年金と合算して計算され、「雑所得」として課税されます。
※退職所得について詳しくはこちら(外部リンク)『No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)』(国税庁)
※雑所得について詳しくはこちら『高齢者と税(年金と税)』(国税庁)
介護職がもらえる退職金制度の種類
介護職がもらえる退職金の種類は、勤めている施設や法人がどのような退職金制度を導入しているかによって決まります。
まずは、多くの介護事業者が加入していると言われている、「福祉医療機構 社会福祉施設職員等退職手当共済事業」と「中小企業退職金共済制度」について解説します。
福祉医療機構 社会福祉施設職員等退職手当共済事業
独立行政法人福祉医療機構が、介護施設などの社会福祉施設の職員向けに運営する退職金共済制度です。掛金は事業者と、国や自治体の補助金から支払われます。
2020年度時点で約6万3,000軒の介護福祉施設や社会福祉施設(職員は約90万人)が加入している退職金制度です。
退職金を一時金として受け取る場合と、定年後に年金形式で受け取る場合があります。
※シュミレーションはこちら『退職手当金計算シミュレーション』(日本福祉医療機構)
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度とは、国が設立した中小企業向けの退職金共済制度です。掛金は全額事業者負担で、退職後に一時金として退職金を受け取ることができます。
60歳以降で退職した場合、以下の2つの条件を満たしていれば年金形式で受け取ることが可能です。
※シミュレーションはこちら(外部リンク)『退職金試算』(独立行政法人勤労者退職金共済機構)
その他の退職金(年金)制度
ここからは確定拠出年金制度と確定給付企業年金制度という、企業年金について紹介します。
まずは以下の表で、それぞれの違いを知ってから読み進めると理解しやすくなりますよ。
確定拠出年金制度
確定拠出年金制度は、毎月の掛金を自分で運用し、その運用実績に応じて退職後に受け取る年金や一時金の額が決まる制度です。
掛金を企業が支払う「企業型」、個人で支払う「個人型」の2種類があります。企業型を導入している施設で働いている場合でも、従業員自身が掛金を上乗せする形で運用する「マッチング拠出」という方法を選択することもできます。
また、企業型の場合でも、運用先は従業員が決めて運用することになります。そのため、運用実績によっては掛金よりももらえる金額の方が少なくなる可能性もあります。
確定拠出年金の受け取りは原則60歳以降と決まっていますが、条件を満たせば脱退一時金として一時金を受け取ることも可能です。
※確定拠出年金制度について詳しくはこちら(外部リンク)『第2章 企業型確定拠出年金』(知るぽると)
確定給付企業年金制度
確定給付企業年金制度は、掛金は基本的に事業者が支払い、運用も事業者が行います。
受け取れる金額が確定しており、運用で損失が出てしまった場合でも事業者側が穴埋めをしてくれるため従業員側にリスクがないのが特徴です。
確定拠出年金と同じく、確定給付企業年金の受け取りも原則60歳以降となっていますが、3年以上勤務している場合は脱退一時金という形で受け取ることができます。
※確定給付企業年金制度について詳しくはこちら(外部リンク)『第1章 確定給付企業年金(規約型/基金型)』(知るぽると)
退職金を受け取りたい場合は転職前に制度の確認を
転職活動の段階でも、その施設や法人に退職金制度の有無を確認することができます。
退職金制度がある施設に転職したいと考えている人は、転職前に制度の有無を確認しておきましょう。
確認する方法は以下の3つが挙げられます。
いずれも、退職金制度の詳しい中身まで知るのは難しいですが、「〇年以上勤務した常勤の者」など、支給条件や対象範囲については知ることができる可能性が高いです。
もっとも確実なのは、面接後の条件交渉の際に直接聞くことですが、面接官から「お金のことばかり気にしているのかな……」と勘違いされる可能性もあるので聞き方は注意が必要です。
まずは、「できる限り長く勤めたい」「人生設計も考えたうえで志望している」ことをが十分伝えたうえで質問してみましょう。
必ずしも、退職金制度がある施設=いい施設ということではありません。転職したい施設の理念に共感できるか、自分にとって働きやすい施設がどうかで転職先を決めることをおすすめします。
(参考)
『平成30年就労条件総合調査』(厚生労働省)
『平成23年度介護労働実態調査(特別調査)』(厚生労働省)
『平成30年版中小企業の賃金・退職金事情』(東京都産業労働局)
『都内社会福祉法人の退職金制度に関する調査結果報告』(社会福祉法人東京都社会福祉協議会)
『退職手当共済事業の実施状況』(独立行政法人福祉医療機構)
『第4章 中小企業退職金共済制度/特定退職金共済制度』(金融広報中央委員会「知るぽると」)