入浴するのが難しい方のために、手浴と足浴を実施している施設は多くあります。清拭は汚れを落として体を清潔に保つ、いわゆる「保清」を目的としますが、手浴や足浴は体を温めたり、リラックスさせるなどの「温熱刺激」による効果を得ることができます。当記事では、足浴と手浴について紹介していきます。
足浴とは
足浴は、病気など身体的な理由で全身浴が難しい方のために実施する「部分浴」の一つです。部分浴とは、手浴や座浴(お尻だけの入浴)など、体の一部だけをお湯に浸ける入浴法のことです。
足浴に期待できる6つの効果
足浴の主な効果として、下記の6点が知られています。
- 全身浴に比べて心臓への負担が軽く、全身の温熱効果が得られる
- リラックスすることで気持ちが落ち着き、副交感神経優位になるため、睡眠の導入になる
- 居室でも実施できるので、手軽に疲労解消効果が得られる
- 痛みや倦怠感、嘔気などの症状を緩和する
- 血流が良くなることで、足のむくみを改善する
- 清潔にすることで感染症を予防する
足浴の手順
足浴の手順として、まずは足浴のための道具をそろえるところから始めましょう。
準備するもの
足浴をする9ステップ
「足浴」のやり方を解説します。いきなり触れたり、お湯をかけたりすると利用者さんを驚かせてしまうので、一つずつ順を追うごとに声をかけながら行いましょう。
1.姿勢を整える
利用者さんが楽だと感じる姿勢に整えましょう。ベッドに腰をかけた状態(ベッド上端座位)、仰向け、椅子に座る姿勢が一般的です。
2.必要なものをセットする
床やベッドなど、洗面器を置く場所に防水シーツやビニールシートなどを敷き、さらにその上からバスタオルを敷きましょう。お湯を張った洗面器(もしくはバケツ)をセットしましょう。
3.ズボンを捲(ま)くる
利用者さんを裸足にし、衣類が濡れないように裾を膝下くらいまで捲(ま)くりましょう。
4.お湯の温度を確認する
お湯(39~42℃)を用意し、熱くないか自分の手で確認しましょう。
5.足をお湯に浸ける
利用者さんの足に手でお湯をかけ、温度に問題がないかを利用者さんに確認します。それから足首まで浸し、10~15分程度を目安に温めましょう。適宜声掛けをしながら、個々人に合わせて時間を調節します。
片麻痺の方の足浴は、患側から行うとお湯の温度が感じにくいため、健側から行いましょう。
6.片足を洗う
足が十分温まったら、片足ずつ洗っていきましょう。濡らしたガーゼに石鹸をつけて泡立て、お湯から足をあげたら指の間を丁寧に洗いましょう。
また、石鹸はできるだけ固形石鹸を避けるようにしましょう。固形石鹸は、泡立てて使用した場合であっても石鹸のカスが皮膚に残り、刺激やかぶれの原因になる可能性があります。特に部分浴は、十分なすすぎが難しい場合も多いので、泡状の石鹸が推奨されます。
7.反対側の足も洗う
洗い終わったら、洗った足はお湯の中に戻し、反対の足を同様に洗います。
8.足を洗面器から出して拭く
両足とも洗い終わったら、お湯に浸して再び足を温めましょう。それから片足ずつかけ湯をして、足を洗面器から出し、バスタオルで押し拭きしながら水分をよくとります。
9.整える
必要に応じて保湿剤を塗布したり、爪切りで爪を整えましょう。ただし、介護職が爪切りできるのは、爪に異常がない場合、そして本人の容体が安定している場合のみです。不安がある場合には看護師・医師などに確認をとりましょう。
足浴の注意点
足浴を実施する前に、下記について確認しておきましょう。
利用者さんの好きな香りのオイルなどを使用したり、足浴中にマッサージなどを行うと、さらにリラックス効果が高まります。
足浴は、慣れてくると比較的少ない時間で実施できる清潔ケアなので、ぜひ積極的にケアに取り入れましょう。
ただし、アロマやオイルを使用する際は、看護師や医師に確認してから実施するようにしてください。
また、目的によっては片足のみの足浴でもその効果が期待できることや温湯の代わりに蒸しタオルを用いても同様の効果が期待できることがわかっています。両足での足浴が難しい利用者さんの場合には、それらの方法も検討してみて下さい。
(参考)
『足浴が生体に及ぼす生理学的効果 ~循環動態・自律神経活動による評価~』(日本看護技術学会誌8巻3号-金子健太郎・山本真千子ほか)
『足部蒸しタオル温罨法が生体に及ぼす生理学的効果 ~循環動態および自律神経活動指標に対する効果による足浴との比較~』(日本看護技術学会誌11巻2号-金子健太郎・山本真千子ほか)
『片足への温熱刺激が生体にもたらす生理学的効果』(日本看護技術学会誌12巻2号-後藤慶太・山本真千子ほか)
手浴とは
足浴と同様に、自力での入浴が困難な方に対する清潔ケアの一種で、手首から先をお湯に浸して行う入浴法です。
手浴に期待できる効果
手浴の主な効果は、下記の5点があるとされています。
- 全身の温熱効果が得られる
- 睡眠の導入になる
- 手軽に疲労解消効果が得られる
- 血流が良くなることで、手の関節の痛みや動作制限の改善につながる
- 清潔保持による感染症予防につながる
手浴の手順
手浴をするときは、まずは手浴をするための道具をそろえるところから始めましょう。
手浴で準備するもの
手浴をする9ステップ
つぎに、「手浴」のやり方を解説します。いきなり体に触れたりせず、作業を進めながら都度、丁寧に声をかけて実施しましょう。
1.姿勢を整える
利用者さんが楽だと感じる姿勢(ベッドの上で座る・仰向け、椅子に座るなど)に整えましょう。
2.必要なものをセットする
床やベッドなど洗面器を置く場所に、防水シーツやビニールシートなどを敷き、お湯を張った洗面器をセットしましょう。
3.服の袖を捲(ま)くる
衣類が濡れないように袖を肘下くらいまで捲(ま)くりましょう。
4.お湯の温度を確認する
お湯(39~42℃)を用意し、熱くないか自分の手で確認しましょう。
5.手をお湯に浸ける
利用者さんの手にお湯をかけ、温度を確認します。問題なければ、手首まで浸し、10分程度温めましょう。手首の下に丸めたバスタオルなどを当てると、手首が痛くならずに行えます。適宜声掛けをし、手浴の時間は利用者さんに合わせて調節します。
片麻痺の方の場合、お湯の温度を感じやすい健側の手から行うようにしましょう。
6.片手を洗う
片手ずつお湯から出し、濡らしたガーゼに石鹸をつけて泡立て、指の間を丁寧に洗いましょう。
また、石鹸はできるだけ固形石鹸を避け、泡状の石鹸を使用しましょう。固形石鹸は、泡立てて使用した場合でも石鹸カスが皮膚に残ってしまい、刺激やかぶれの原因になる可能性があります。特に部分浴では、十分にすすぎをするのが難しいことも多いので、泡状の石鹸が推奨されます。
7.反対側の手を洗う
洗い終わったら、洗った手はお湯の中に戻し、反対の手を同様に洗います。
8.手を洗面器から出して拭く
両手が洗い終わったら、少しお湯に浸して手を温め、片手ずつかけ湯をして洗面器から出し、バスタオルで押し拭きしながら水分をよくとります。
9.整える
必要に応じて保湿剤を塗布したり、爪切りで爪を整えましょう(※介護職が爪切りできるのは、爪に異常がない場合、そして本人の容体が安定している場合のみです。必要に応じて医師・看護師に確認するようにしましょう)。
手浴の注意点
手浴を実施する前の注意点として、下記の3点に気をつけましょう。
足浴・手浴は短時間で実施でき、効果を得やすいケアです。在宅でもあるもので、すぐに実施できるので導入してみてください。
手浴による温熱刺激の効果が得られる機序(メカニズム)もわかってきました。手浴を実施し、最小限の負担で効果が得られるよう工夫してみましょう。
(参考)
『手浴が生体に及ぼす影響 ~循環動態・自律神経活動による評価~』(日本看護技術学会第6回学術集会講演抄録集-大久泰葉・山本真千子ほか)
『上肢蒸しタオル温罨法の被服面積の差異が生体に及ぼす生理学的効果の比較~循環動態・自律神経活動による評価~』日本看護技術学会第10回学術集会講演抄録集(種市輝・山本真千子ほか)
著者/あゆみ
監修者/山本真千子
イラスト/アライヨウコ