移乗介助の正しい知識 | あなたのための介護技術 基本編(5)

  • 移乗は、身体介助の中でも、介助者・ご利用者双方にとって最も負担が大きい介助内容でもあり、介助頻度やご利用者・介助者双方の生活の質に影響を与えることにもつながります
  • 移乗時の転倒や転落事故や、打撲による怪我のリスクもあるため、安全に配慮し、ご利用者の状態に合わせたご利用者主体の介助方法を身につけることが大切です

移乗(乗り移り)とは

移乗は、ベッドから車イス、車イスからベッド、車イスから便座、車イスからシャワーチェアなど、さまざまな場面で行う動きです。

ご利用者、介助者、それぞれにとって負担の少ない移乗とはどのような方法でしょうか。

移乗方法1(立位をとってから座位をとる場合)

この動きは、手すり(アームサポート)を迂回するために立位をとるようにして、手すり(アームサポート)を上から迂回する移乗の方法です。

自立度が比較的高い状態の時には可能ですが、私達も普段は行っていない動きであり、介助が必要になった場合には、ご利用者・介助者双方に負担、およびリスクが高くなります。

移乗方法2(低い位置で乗り移る場合)

私達が普段行っている動きであり、最小限の力で乗り移る方法です。

乗り移り先との距離が短く、回転角度が小さくて済む場合、適切な位置に乗り移り先を設置できれば、この方法で移乗が可能となります。最低限のご利用者の能力、最低限の介護者の力で可能です。

上下動はほとんど活用していないため、負担が少ない動きです。移乗する際に前傾することによって、臀部が前から手すり(アームサポート)を迂回し、座位をとるタイミングで臀部を後ろに戻すという前後動を活用しています。

移乗することだけを目的として、乗り移り先の位置などの環境がそろった場合は、私達もこの方法を用いています。

これが人間の自然な動きです。この動きに沿った支援(介助)をすることで、お互いに負担のない支援(介助)ができます。

ワンポイントレッスン

椅子を2つ置いて、自分で乗り移ってみましょう‼
私達は普段、どのようにして動いていますか?
どちらの動きのほうが楽に負担なく動けるでしょうか?
最低限の動きで乗り移りましょう‼

従来の【持ち上げる】介助

持ち上げる介助,NG例,解説図
  • 従来型の介助者が体を密着させて行う【持ち上げる移動】は、ご利用者ではなく荷物を運ぶ時の動きである
  • 体を密着させて持ち上げるように指導されている現状があるが、ご利用者は荷物ではないし、自分より大きい重いものを運ぶことには無理がある
  • この体勢で移乗介助を行うと、確実に介助者の腰痛の原因になる。また、ご利用者の負担も大きく、お互いに負担が大きい動きである
  • また、着地する際に衝撃があり、それが原因でご利用者が腰椎の圧迫骨折などになってしまう場合がある
  • 介助の良い悪いはご利用者が評価するものである。つまり、持ち上げられるご利用者の身体的な負担が問題なのだ。何人がかりであろうが、ロボットであろうが、持ち上げられることは確実にご利用者の負担が大きいのである

チェックポイント

この介助方法では、お互いの足元に死角ができ、反動も必要となるため十分な安全確保が困難です。ご利用者の足が、移乗に伴いねじれたり、ベッドフレームや車イスのフットサポートなどで足をぶつけて怪我してしまうことがあります。

意図的でも意図的でなくても、介助時にご利用者に怪我を負わせてしまった場合、身体的虐待と位置づけられる場合がありますので注意しましょう。

※本連載では、体重差が30㎏以上あってもお互いに負担の少ない持ち上げない方法を掲載しています。この方法を活用いただければロボットの導入の必要はないものと考えています。

移乗介助の留意点

移乗の際に注意すべきは、「移乗先の設定」と「足の設定」です。誤った設定をすることで、移乗時にご利用者と介助者それぞれに負担が増したり、怪我に繋がることも。

正しい設定を解説します。

ベッドと車イス(移乗先)の位置

車イスを、ベッドに対して角度を約30度につけてください。30度近くに設定できない場合は、回転軸に最も近づける位置に設定してください。

回転軸とは、ご利用者の両足の間にある点のことです。

移乗介助,ベッドから車イス,解説図

人は、移乗する際、回転軸を中心にして回転するようにして移乗しています。回転軸から遠いと車イスが遠くなり臀部が浅くなってしまったり、移乗の際の負担が大きくなってしまいます。

この回転軸に最も車イスが近づけられる場所が、30度の位置です。

また、横づけ(90度)に設定した場合、アームサポートの位置が近くなり、前述したとおり、いったん完全な立位をとるようにして臀部が上から迂回しなければなりません。

移乗介助,ベッドから車イス,解説図

30度に設定することにより、アームサポートが体から離れるため、臀部が前から迂回するように低い位置で移乗ができます。

足の設定

ご自分で歩ける方は、足を立ちやすい場所に置いて行うことが可能ですが、ご自分で足の位置を動かせない方は、移乗の際に足がねじれないように足の位置設定を必ず行ってください。

足のねじれによって、足首や足先に皮膚剥離や内出血・打撲痕ができます。

移乗介助,足の位置,解説図
移乗介助,足の位置,解説図

ワンポイントレッスン

自分で乗り移る際に、足の位置を動かさないで行ってみましょう‼
足がねじれませんか?
足の位置設定は必ず行いましょう‼

チェックポイント

足の位置設定を行った際、前に出した足は膝が伸びてしまうため、力が発揮できないということがあります。

少しでも力がある側の足を手前に残し、力の少ない足を前に伸ばすように車イスの設定を行うと、より足の力を使えます。

移乗介助方法

ここからは、移乗介助の方法を説明していきます。ご利用者の状態に合わせ「一部介助レベル」「全介助レベル」にわけて解説します。

一部介助レベル

ご自分である程度動ける方や、自分で1、2歩の歩行が可能な方対象です。必ず健側に移乗先を設定します。

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。「立つ」「方向転換する」「座る」の3つの動きをそれぞれ行います。

チェックポイント

この方法は生活の中で立位をとることや、重心を移動しながら歩行などの訓練を、生活リハビリとして行っているご利用者には有効です。

全介助レベル〈基本型〉

ご自分でほとんど動けない方や、歩けない方が対象です。

車イスの設置場所は、わずかでも健足に力が残っている場合には、麻痺側に置きます。そうでない場合は健側でも可。

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。

乗り移る側の足を正しい位置に設定します(一歩前に出す)。

  • 介助者は膝とかかとを着けて、ご利用者の膝をブロックする
  • 乗り移りのねじれを防ぐため、介助者の乗り移り側の膝とつま先を進行方向である車イスに向けるように、L字ブロックする(「膝のブロック」参照)
  • 膝をブロックした状態で、ご利用者が前傾姿勢になれるよう、ご利用者の横に回り、脇を軽く支えて十分に頭を下げてもらう
  • もう一方の手で骨盤の下の部分を支える(手のひらでつかんだり、ズボンを持ったりしないよう注意)。頭を前に倒すようにしながら、介助者自身の体を固定し、臀部を下ろす力を利用して骨盤を斜め手前に引き込んでくる
    ※介助者の上半身をそらせる力で持ち上げるのではないので注意。
    (介助者自身の体重を下げる力で、てこの原理を活用する)
  • 介助者は、膝と骨盤を固定したまま介助者自身の臀部を車イスの正面に向けてゆっくり回す
  • ご利用者を座らせようとするのではなく、介助者が座りにいくようなイメージでゆっくり着地する。着地の瞬間は互いに後ろにもたれるようにすると、引っ張りあう力でゆっくり座ることができる。膝は着地するまで離れないように意識する

チェックポイント

横から介助することにより、ご利用者の前傾姿勢を妨げることがなく、介助者よりもご利用者の体格が大きい場合でもコントロールがしやすくなります。

膝のブロック

移乗介助,膝のブロック,L字ブロック,解説図
  • 移乗介助については、膝を軸にして回転するため、軸足(移動方向の足)について、膝とつま先を進行方向に向けておくことが重要
  • かかとを合わせるようにして、L字型にブロックするイメージ
移乗介助,膝のブロック,解説図

全介助(基本形)~片膝バージョン~

車イスは、わずかでも健足に力が残っている場合は麻痺側に置きます。そうでない場合は健側でも可。

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。

足を正しい位置に設定します(乗り移る側の足を一歩前に出す)。

  • 介助者の足をご利用者の外側に置き、膝をご利用者の内側に入れ、クロスしたすね同士で押しあうように膝をブロックする
  • つま先はなるべく進行方向に向ける(腰のねじれを最小限にするため)
  • すねを合わせたまま、(意識としては膝を押しながら)手で利用者の背中を引き寄せるように介助者は腰を下ろす。着地するまで膝を押しあうイメージで、すねが離れないようにする
  • 骨盤を支えながら、介助者が腰かけるように腰を下ろすことで、膝を押し込むような形になり、ご利用者の車イスへゆっくり誘導することができる
  • 膝が着地まで離れないよう意識する(離れると転倒など危険が生じる)
移乗介助,膝のブロック,片膝でのブロック,解説図
  • 介助者の片方の足をご利用者の足の内側に入れ、膝を外に出す(足を外に出し、膝を内に入れる方法でも可)
  • すねとすねの上部(ひざ下のあたり)を合わせることにより、ブロックが強くなる(クロスする部分が低くなりすぎるとブロックする力が弱くなる)

チェックポイント

片膝ブロックのほうが重心移動(体重移動)がしやすいと感じる介助者が多く、習得しやすい方法ですが、ご利用者との距離が離れてしまうため、ご利用者を重く感じることになります。そのため、ご利用者の体格のほうが明らかに大きい場合には活用が困難です。

全介助レベル(応用編①)

体格が大きい方や、不安定で支えることが難しい方などが対象です。

車イスは、麻痺側に置きます(わずかでも健足に力が残っている場合)。そうでない場合は健側でも可。

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。

足を正しい位置に設定します(乗り移る側の足を一歩前に出す)。

  • 介助者は移動する側の膝を立て、頭は移動する側に持っていく
  • ご利用者の腹部に入り、膝を介助者の手でブロックする
  • 低い位置に入ることで前傾姿勢になりやすい(おへそのあたりに介助者の肩が入るようなイメージ)
  • 介助者は膝と骨盤を支える
  • 介助者は体幹を固定し、腰を下ろしながら(てこの原理の活用)膝を押し出すと、ご利用者の臀部が浮く
  • ご利用者の骨盤と膝をブロックしたまま、臀部が浮いたら、すぐにターンし始める(2~3cm浮けばターンする。持ち上げすぎると危険)
  • 介助者は姿勢を下げながら、自分がゆっくり座る

チェックポイント

【介助時に重く感じたら下記の点をチェック】

  1. 事前にご利用者の座位を浅くしているか
  2. ご利用者を持ち上げようとしていないか(介助者が腰を下ろすことにより、てこの原理を活用できているか)
  3. 介助者の肩が高い位置に入っていないか
  4. ご利用者の臀部まで最短距離に介助者が位置しているか
  • 介助者の肩が高い位置に入ると、ご利用者の上半身が自然に直立してくるため、前傾姿勢がとれない
  • また、そこからは、てこの原理が活用できず持ち上げる動作になる。
  • そのため、介助者の肩がご利用者の脇腹を突き上げる状況になり、痛みを生じる
  • ご利用者のおへそに介助者の肩を当て、ご利用者の腿に介助者の胸を当てるようなイメージで行うとよい
  • ご利用者の正面から体を入れると、重心のかかっている臀部までの距離が長くなり、重たく感じる
  • また、臀部が浮いても、乗り移り先までの回転の角度が大きくなり、安定した移乗は困難になる
  • 乗り移り先に介助者の体を向けると臀部までが最短距離になり、力を活用しやすくなる

全介助レベル(応用編②)

体が硬くなってしまい前傾姿勢などができない方、円背などで体が曲がっている方などが対象です。

車イスは、わずかでも健足に力が残っている場合は麻痺側に置きます。そうでない場合は健側でも可。

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。足を正しい位置に設定します(乗り移る側に一歩前に出す)。

介助者の膝はL字ブロックにします。

  • 介助者はご利用者の上からかぶさるようにして、ご利用者の腹部に両手の甲を添える
  • この手は添えるのみで、握ったり持ち上げたりはしないようにするために、手のひらではなく手の甲を当てる
  • 介助者は臀部を高くし、体幹を固定し、後ろにもたれるようにして臀部を下げるとご利用者の臀部が浮いてくるので、すぐにターンする
  • 介助者は腰を下げるように膝を曲げるとご利用者の膝が押し込まれ、着席できる

全介助レベル(応用編③)

足の痛みや骨折などがあり、足に体重が乗せられない方が対象です。

介助者自身に腰痛などがあり、腰に負担がかけられない場合にも有効です。

  • 介助者はご利用者の隣に座る
  • 介助者の足にご利用者の両足(片足でも可)を乗せる
  • 足を上げる際には、ご利用者の上半身が後ろに倒れないように背中を支える
  • 前方への転落防止のため、介助者のもう片方の足でご利用者の足を軽く挟む
  • 介助者の膝の延長線上に乗り移るもの(車イスなど)を設定する
  • 介助者はご利用者の前傾姿勢の障害にならないよう、横に位置する
  • ご利用者の脇と骨盤を支え、前傾姿勢になってもらう
  • ご利用者の頭をさらに下げるようにして、介助者の太腿にご利用者の重心を移動させる
  • 介助者の太腿に完全に乗せ、骨盤を支えていた介助者の手をご利用者の腰骨に当てなおし、骨盤を回すようにして介助者の太腿の上でターンする
  • 乗り移り先に近い介助者の腰を前に突き出すようにして、乗り移り先に近づける

チェックポイント

【移乗介助時に重く感じたら下記の点をチェック】

  1. 事前にご利用者の座位を浅くしていますか
  2. 利用者を持ち上げようとしていませんか(頭を下げることによって、てこの原理を活用できます)
  3. 介助者の上半身がご利用者と正対したり、ご利用者の手が介助者の体をつかみに来たりするなどをして、前傾姿勢を妨げていませんか

全介助レベル(福祉用具を活用する)

体格差などがある場合に、スライディングボードなど福祉用具を活用する方法があります。

※スライディングボードを使用する時には、前への滑り落ちの危険があるため、座位を浅くしないようにします。
車イスのアームサポート(肘掛け)を外し、車イスを横づけします。

  • ご利用者の上半身を移乗する反対側に倒し、浮いた臀部の下にボードを差し入れる
  • この時、臀部の半分がボード、半分がベッドになるようにする。
    (臀部全体をボードに乗せると前へ滑り落ちることがある)
  • ご利用者の乗り移る側の足を、ねじれないように一歩前に出す。膝をブロックし、前方へのすべり落ちを予防する
  • ボード側(移乗する側)の臀部に重心を移すように、上半身を倒すようにしてボードと臀部の接触面積を減らす
  • ご利用者の骨盤を押し出すようにして、ゆっくりボードの上を滑らせる
  • 乗り移ったあと、上半身を傾け、ボードを抜く
  • ボードを入れることで、摩擦を減らせる
  • 移乗方向に上半身を倒すことで臀部の接触面積を減らさなければ、ボードの効果は半減する

スライディングボード(応用編)

通常のスライディングボードは車イスとの間隔を12cm程度しか開けることができないため、車イスのアームサポートを外して横づけする必要がある

しかし小型のスライディングボード(写真)は車イスとの間隔を20cm開けることができ、160kgまでの荷重が可能なものもあるため、車イスのアームサポートが外れないタイプや、完全な横づけが困難な場合でも使用することが可能である

トイレなどへの移乗介助

トイレなどの狭い場所や空間が限られている場合は、基本的な位置設定や動作ができない可能性があるので、注意が必要です。

その際には、しっかり基本ルール〈立つための条件〉を行いましょう。

〈立つための条件〉

  • 座位を浅くする
  • 足を引く
  • 前傾姿勢になる(手すりは下のほうを持つ)

トイレ介助例

  • 立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。足を正しい位置に設定します(一歩前に出す)
  • 介助者の膝はL字ブロックにします
  • トイレでは、床に膝をつくことは好まれませんので、ここでは〈全介助レベル(応用編②)〉の方法を使って実施します(詳細は「全介助レベル(応用編②)」参照)
  • 膝をブロックした状態で、介助者は腰をおろすようにして、ご利用者を浮かせる。その後介助者の左手(写真③)を深く入れ、上半身を支えて、立位を安定させる
  • 立位を安定させたあと、もう片方の手(写真では右手)で、ズボンを下ろす
  • ズボンはこのあと、座位をとってから下ろすことができるので、深く下ろす必要はない
  • 便座に着くまで、膝ブロックは外さない
  • 便座に座ってから、上半身を後ろにもたれてもらい、足を上げ、ズボンを膝まで下ろす

立位の安定が可能な方のズボンの上げ下ろし

  • 立位後、ウエストラインに手の先が届くように脇から斜めに支えると、骨盤を片手で固定することができ、片手で立位を支えることができる
  • フリーになった手でズボンの上げ下ろしができる

立位が不安定な場合

  1. 移乗 ⇔ 前にもたれてズボンの上げ下ろし ⇔ 座位
  2. 立位が不安定な際は、便座まで先に移乗し、便座に座ってからズボンを下ろす方法があります
  3. 便座に移乗後、前に車イスを横づけし、クッションなどをアームサポートに置いて行います
  • 車イスのアームサポートや手すりなどにもたれてもらうと、安定させることができる
  • この時、膝ブロックは必ず行う

ポータブルトイレ利用例

立位の準備(浅く座る・足を引く・前傾姿勢)を必ず実施してから行います。

足を正しい位置に設定します(一歩前に出す)。

ポータブルトイレは、お部屋に置いてあることが多いと思われるので、〈全介助レベル(応用編①)〉の方法を使って実施します(「全介助レベル(応用編①)」参照)。

  • 臀部が上がったあと、膝を支えていた手を介助者の膝に入れ換えることで、片手を離すことができ、ズボンを下げることができる
  • 座る時には、再度、手でブロックし直し、ゆっくり着地する

入浴(浴槽)への移乗

安全に入浴するために、浴槽に入る方法・出る方法を解説します。

一部介助での跨ぎ越し

片麻痺があっても浴槽の跨ぎ越しが可能な方の場合は、バランスを崩さないように介助することが必要です(健側の足から浴槽に入れます)。

  • 利用者と壁の間に介助者の体を入れ、ご利用者に、肩にもたれてもらうようにする
  • 麻痺側の足を上げるには、健側に体重を乗せることが必要である
  • バランスを崩すと転倒するため、ご利用者の重心を肩で感じながら、重心を移していく
  • 麻痺側の足を前へ上げると転倒するので、後ろへ曲げるように回して浴槽に入れる。着地の確認まで行う

全介助での入浴介助

跨ぎ越しができなくなってきた方は、浴槽の縁に座って浴槽への出入りをする方法があります。

浴槽に入る方法

  • 浴槽に入る時は、前方の手すりを持ち、健側の足を先に入れる
  • 麻痺側の足を入れる時は、上半身を後ろにもたれてもらうようにすると足は軽くなり、入れやすい
  • 麻痺側の足を入れたら、臀部の下敷きにならないように、麻痺側の足を前へ出しておく
  • 臀部を支え、ご利用者の体は前傾姿勢のまま、介助者の体で押し込むようにして浴槽内へ誘導する
  • この時、湯が浴槽内に満タンになるようにしておくと、すぐに浮力が体を受け止めてくれるので、衝撃が少ない

浴槽から出る方法

  • 健側の足を曲げて、4の字にする
  • 両膝を曲げる「体操座り」の形は臀部を上に浮かせにくい
  • 足に重心が乗ったら、立位をとれるご利用者の場合は、健足のかかとを引き寄せ曲げてくる方法があるが、その場合は健足が滑らないよう、膝もしくは足先を止める

上半身を支える方法

  • 介助者は後ろ、もしくは上から、ご利用者の臀部を挟むようにして支えることにより、ご利用者の前傾姿勢を取りやすくする
  • 介助者の手の位置は「全介助レベル(応用編②)」参照
  • 移乗介助のてこの原理を利用し、介助者の体を後ろに倒す
  • 介助者の体が後ろへ倒れると、ご利用者の臀部が浮いてくる

臀部を支える方法

  • ご利用者に前傾になってもらい、腰骨を両側から軽く挟み、浴槽内で浮かせてみる
  • 水面までは浮力で簡単に浮いてくる
  • お湯は満タンにしておく
  • 浮いてきた臀部に深く手を差し入れ、介助者が後ろへ倒れる力を使って、浴槽の縁へ誘導する

チェックポイント

浴槽から出る際は、力で上に引き上げようとしたり、抱えて上げることは困難です。必ず、前傾姿勢になってもらうことにより、浮力が活かせる湯の中でご利用者の体をコントロールできるように意識してください。

お湯は常にいっぱいに入れておくことで、浮力を最大限に活かすことができます。

力で持ち上げるのではなく、介助者の体を使い、てこの原理を活用してください。

その他

  • 浴槽の縁が狭い場合や、浴槽の縁に座ることが難しい場合は、浴槽の横にシャワーチェアなどを置くことで代用できる
  • 浴槽内で座っている臀部の真横に設置する
  • 身長が低く、浴槽内で前傾になる時に顔などが浸かる場合は、お湯を減らさず、浴槽台を使用する
  • 浴槽内で浴槽台を使用すると、わずかな前傾姿勢で立ち上がりがしやすくなる
  • 湯を減らすと浮力が使える距離が縮まり、重力を支える距離が増すため、必ず、浴槽内の湯を満タンにしておく

著者/高山彰彦

※本記事は『あなたのための介護技術 基本編』(文芸社/2018年2月15日発売)の内容より一部を抜粋・再編集して掲載しています

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