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車イス介助の正しい知識 | あなたのための介護技術 基本編(3)

  • 車イスは、移動のための道具であり、長時間にわたって座り続けることには適していない乗り物です。また、「安心・安全・安楽で乗り心地のいい乗り物」ではありません
  • 車イスを理解し、快適な運転操作ができるようにする必要があります
  • また、利用者にあったタイプやサイズを選定することや、クッションなどの付属品の適切な活用も重要です
  • 特に屋外などでは、さまざまな操作技術を身につけることが必要です

使用前の点検

使用前に、車イスの安全点検を必ず実施します。
特にブレーキの状態については使用するたびに確認が必要です。

まず、車イスの各部位の名称を覚えましょう。

介護技術「車イス介助」解説図_01

チェックすべき事項

以下の7点について、チェックをしましょう。

後輪タイヤの空気圧

空気圧やタイヤの摩耗チェック、パンクの有無などを確認します。ブレーキの制動に影響するので、しっかり行いましょう。

ブレーキレバーのガタつき

レバーの接続が不良になれば、制動をかける力が弱まります。

ブレーキ固定ねじの緩み

多くのブレーキでは、ブレーキの位置を微調整できるようになっています。その固定ネジが緩むことによって、ブレーキの位置そのものが適切な位置ではなくなる場合があります。

操作用ハンドル

前輪を上げる際にも必要となります。グリップに緩みがないか確認します。

レッグサポート(下腿ベルト)

屋外などで介助者に車イスを押してもらう際や、車イスごと自動車に固定する際などでは、前方への転倒防止として必ず必要です。

介護技術「車イス介助」解説図_02

フットサポート

足を乗せる台です。緩んでくると調整が必要となります。

ティッピングレバー

キャスター上げ(前輪を上げる)を行う時に必要となります。

キャスター(前輪)

停車時のキャスターの向きに注意することで、車イスからの転落を予防できます。

介護技術「車イス介助」解説図_03
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座位の姿勢

この章では、座位における正しい姿勢(90度ルール)と、車イス乗車時における姿勢の注意点、修正の方法について解説します。

正しい姿勢(90度ルール)

座位の正しい姿勢とはどのようなものでしょうか。ここでは「90度ルール」について解説します。

介護技術「座位の正しい姿勢(90度ルール)」解説図
  • 腰・膝・足関節が90度になるように調整する
  • 上半身の重心を背骨と腰で受け止めることにより、正しい姿勢となる
  • 人間の体の筋肉の中でも大きく、重い大腿部の重みを足関節(足首の関節から足の裏全体)で支えることにより、座位の安定だけではなく、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)能力の向上にも影響が大きい。また、麻痺足についても、この状況を作ることにより尖足(せんそく)(足首の拘縮)予防にもなる
  • 車イスに座った状態で足台を活用して、90度ルールに近づける方法もあるが、座面の安定性や膝の角度などを総合的に勘案すると、移動後は適切な椅子への乗り移りが望ましい

車イスの姿勢

車イス乗車中は上記の正しい姿勢にならないので、長時間座っていることは苦痛となります。

また、姿勢が崩れやすい状態でもあるので、適宜姿勢の修正が必要になります。

介護技術「車イスの正しい姿勢」解説図
  • 座面が後傾(後ろが下がる)しており、座面が柔らかいため、座位が安定しにくい。上半身の姿勢も崩れやすい
  • フットサポートに足を上げると、体格に合った座面であったとしても、足の裏には体重がかからないため、踏ん張ることができない。

車イス乗車時の姿勢の修正方法

介護技術「車イス乗車時の姿勢の修正」解説図1
  • ご利用者に片側に体を傾けていただき、片側に重心を移す。重心が軽くなったほうの骨盤を掌(手根部)で支える。肘掛けがある場合は肘掛けに体重を預けてもらうようにする
介護技術「車イス乗車時の姿勢の修正」解説図2
  • 骨盤を後ろに回転するようにして臀部を後ろに送る。一度に大きく動かすのではなく、数回に分けて左右交互にずらせる

チェックポイント

動かしたいほうに重心があると(体重が乗っていると)、動きにくいので、今、重心がどこにあるのかを考えながら行ってください。

(例1)浅い状態から深くする場合
ご利用者が背もたれにもたれていた(後傾姿勢)場合、後ろに移動することは難しいので、上半身が前傾するように前方に起こすとしっかり臀部が浮き、骨盤が回転しやすくなります。
(例2)深い状態から浅くする場合
ご利用者が前傾姿勢になっていた場合、前に移動するのは難しいので、上半身を後ろにもたれた状態にし、横に倒れてもらうと臀部が浮き、骨盤が回転しやすくなります。

姿勢が崩れる理由

普通の椅子では、お尻にある重心を少しの移動でずらすことができます。
しかし、車イスなどの柔らかいシートの上では、なかなか重心をずらすことができません。

もっとも、車イスが必要な方ほど、このような調整はご自分ではしにくくなっています。

ずっと重心が同じ場所に乗ったままになると、苦痛が生じ姿勢が崩れることにつながります。
長時間、車イスに座ることを避け、必要に応じて普通の椅子への乗り移りやベッドで休むなどの支援も行ってください。

キャスターの上げ方・下ろし方

段差を昇る時などに前輪を持ち上げる技術です。

整地されていない路面や砂利道など(悪路)では、キャスター(前輪)が路面に埋まってしまい、走行が困難となります。
特に踏切などで線路にキャスター(前輪)が落ちてしまうと、大変危険な状態となってしまいます。
そのため、キャスター(前輪)を上げたまま走行するという技術が必要となります。

介護技術「車イスのキャスター上げをしたままの走行」解説図

また横断歩道などでは、横断する時間の制限もあるため、段差の衝撃に注意しつつも、すばやく横断することが求められますので、後輪だけで走行することにより衝撃を抑えつつ、素早い操作が可能となります。

キャスターの上げ方

車イスのキャスターの上げ方を解説します。

介護技術「車イスのキャスターの正しくない上げ方」解説図
介護技術「車イスのキャスターの正しい上げ方」解説図

キャスターの下ろし方

次は、車イスのキャスターの下ろし方を解説します。

介護技術「車イスのキャスターの下ろし方」解説図

車イスでの段差の昇降

段差は、昇りは前から、下りは後ろから操作します。

通常の4輪走行で越えることが可能な段差は2cmまでですので、それ以上の段差を越える場合には、この技術が必要となってきます。

段差を昇る

介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図1
  • キャスター上げを行う
介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図2
  • 前輪を段差に乗せ、後輪タイヤを段差につける
介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図3
  • つま先を横に向け、介助者の大腿部でご利用者の背中を押し上げる
  • つま先が進行方向(前)に向くと介助者の膝がご利用者の背中に当たるので注意する
介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図4
  • 上がりきるまで介助者の腰で押し込んでいく(最後まで腰が離れないように注意する)

段差を降りる

介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図5
  • 段上の車イスに対して体を半身(車イスに対して垂直)にして、背もたれに腰を当てる(利用者の安心のため)
介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図6
  • 介助者は足を大きく開き、腰と大腿部で支える
  • 腰~大腿部へ順番に乗せる位置を変えながら、滑らせるようにして重心を移していく。(車イスに対して正対すると、腕及び腰に大きな負担がかかる。また、高い段差であれば重心が介助者に大きく傾くこととなり、大変危険である。車イスの重さは腕では支えられない)
介護技術「車イスでの段差の昇降」解説図7
  • 後輪が着地したあとは、キャスター上げの状態で、安定した場所まで後退し、ティッピングレバーを踏み戻しながら静かに着地する

段差昇降<車道と歩道の段差>

通常の4輪走行で可能な段差は2cmまでとなると、路上にある車道と歩道の段差も同様に越えられないので、この段差昇降の技術が不可欠となります。

介護技術「車イスでの段差昇降~車道と歩道の段差~」解説図1
  • 前述(段差の昇降〈段差を昇る〉)同様に、キャスター上げを行い、前輪を段差に乗せ、後輪タイヤを段差につける
  • 介助者の身体を横に向け、介助者は大きく足を開き、ご利用者の背中の下に介助者の足を差し込む
介護技術「車イスでの段差昇降~車道と歩道の段差~」解説図2
  • つま先を横に向け、介助者の大腿部でご利用者の背中を押し上げる
  • つま先が進行方向(前)に向くと、介助者の膝がご利用者の背中に当たるので注意する

※段差が低くても、不快感は同じなので、注意が必要です。
※段差を降りる時は、小さな段差でも後ろから降りることが必要です(「車イスでの段差の昇降」を参照)。

車イスでの角の曲がり方

介護技術「車イスでの角の曲がり方」解説図1

チェックポイント

角の曲がり方の原則は、停止して曲がることを心がけます。
停止して曲がることにより、ご利用者の安心感が得られ、内側の挟み込みや前方へぶつかるなどの事故を減らすことができます。

スロープでの操作

スロープで車イスを操作する際、昇りは前から、下りは後ろから操作をします。

キャスターの性質上、2cm以上の段差を越えることはできません。それ以上の段差を越える時は、キャスター上げの操作が必要です(「キャスターの上げ方」を参照)。

  • 斜面に対しては、できる限り垂直に操作する
  • 急な坂道の場合は車イスに対して体を半身(車イスに対して垂直)にして、腰と大腿部で支えながら下りる

チェックポイント

前から下り坂を下りるということは、障害物があった場合、最初に当たるのが前輪であり、大きな衝撃を受け危険ですので、必ず後ろから操作をします。

介護技術「スロープでの車イスの操作」解説図2

  • 緩やかで整地されている路面の場合、長距離の下り坂などでは、十分に路面に注意しながら前向きにおりることも可能である。
  • 危険を避けるためには悪路走行と同様にキャスター上げをし、前から下り坂を走行することがのぞましい。

安全な操作

車イスを安全に操作するためには、車体感覚を理解する必要があります。

ここでは、「運転者から見た視界の様子と死角について」「操作スピード」について解説します。

運転者から見た視界の様子

介護技術「車イスの車体間隔~運転者から見た視界の様子」解説図
  • 車イスを操作する時に、死角(見えない部分)が生じる
  • 狭い場所やベッド、テーブルなどに接近する際には、十分に注意が必要である
  • 右の写真のように、車イスのフットサポートやアームサポートなどから足や手が落ちていても運転者からは死角になり見えない。静止した状態から始動する時には、必ず前方に回って目で確認してから操作する必要がある
介護技術「車イスの車体間隔~運転者から見た死角」解説図
  • 後ろからでは、当然、顔の表情・意識の状態なども見えない。声かけの内容が伝わったかどうかの、確認もできない

操作スピード

車イスに乗ると、立っているよりも目線は低く、スピードを速く感じる傾向があり、恐怖感につながりやすくなります。

また、振動などで揺れると不快感を感じやすく、乗り物酔いなどを感じる方もいます。

急停車や急発進、急旋回などは、体のバランスを崩しやすく、転落の危険につながりますので、ゆっくり操作することを心がけてください。

特に、曲がる時には、必ず止まってから曲がるようにしましょう。

車イス使用時のシートベルト着用

最近では、介護タクシーなど車イスのまま車両に乗ることが可能となってきました。

車イスのまま乗車し、車両に固定する際には、シートベルトを正しく着用してください。

2点式シートベルトの場合

介護技術「車イスの使用時のシートベルト着用(2点式シートベルトの場合)」解説図
  • 乗車中も介助者は常にベルトが腰骨からずれていないか、確認をする必要がある
  • ハンドリムやタイヤの内側にベルトを通してもベルト位置が高くなる場合は、座布団などにより、利用者の骨盤位置を上げるなどの工夫をする

3点式シートベルトの場合

介護技術「車イスの使用時のシートベルト着用(3点式シートベルトの場合)」解説図
  • シートベルトの出口は、多くのタイプで高さ調整機能がついているので、必ず調整を実施する
  • 高さ調整機能がついていない場合は、座布団などにより、ご利用者の高さを調整することが必要

車イスから車の座席に乗り移る場合、通常は後部座席のほうが安全であると言われていますが、多くの後部座席のシートベルトは2点式であるため、姿勢が不安定な方は、助手席(3点式シートベルト)へ座るようにすることで、座席からの転落などを防ぐことができます。

車イスの種類

標準型・自走式

一般的に多く使用されている形で、ハンドリムがついています。自分で操作することができ、介助者による操作も可能です。

自分で操作をすることがなくとも、屋外で頻繁に使用する方には、後輪タイヤが大きいため安定感があり、適しています。

介助型

後輪が小さいため、小回りが利きやすく、介助者用に後ろから操作できるブレーキがついています。ハンドリムがないため、自分で操作することはできません。

屋外で使用する際には、車輪が小さいため段差や傾斜、路面の状態が悪い場合などの際の安定性に欠け、操作が難しい場合があります。

リクライニング型

介護技術「リクライニング型車イス」解説図

高い背もたれが後方に倒れ、水平に近い状態(ベッド状)になります。長時間座る姿勢が困難な方などは、車イスのまま横になることができます。

ティルティング(ティルト)型

介護技術「ティルティング(ティルト)型車イス」解説図

ティルティング機能は座面が下がり、車イス全体が後傾します。最近では、リクライニング型にティルティング機能がついたものもあります。

通常の車イスで屋外を長時間走行する際に、振動などにより姿勢が不安定になり、転落などを予防するために考えられた機能です。

長時間ティルティング機能を使用し、座り続けることは想定されていませんので、使用の際には注意が必要です(長時間、この機能を使用すると褥瘡[床ずれ]などの発生につながることもあります)。

著者/高山彰彦

※本記事は『あなたのための介護技術 基本編』(文芸社/2018年2月15日発売)の内容より一部を抜粋・再編集して掲載しています

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