- 車イスは、移動のための道具であり、長時間にわたって座り続けることには適していない乗り物です。また、「安心・安全・安楽で乗り心地のいい乗り物」ではありません
- 車イスを理解し、快適な運転操作ができるようにする必要があります
- また、利用者にあったタイプやサイズを選定することや、クッションなどの付属品の適切な活用も重要です
- 特に屋外などでは、さまざまな操作技術を身につけることが必要です
使用前の点検
使用前に、車イスの安全点検を必ず実施します。
特にブレーキの状態については使用するたびに確認が必要です。
まず、車イスの各部位の名称を覚えましょう。
チェックすべき事項
以下の7点について、チェックをしましょう。
後輪タイヤの空気圧
空気圧やタイヤの摩耗チェック、パンクの有無などを確認します。ブレーキの制動に影響するので、しっかり行いましょう。
ブレーキレバーのガタつき
レバーの接続が不良になれば、制動をかける力が弱まります。
ブレーキ固定ねじの緩み
多くのブレーキでは、ブレーキの位置を微調整できるようになっています。その固定ネジが緩むことによって、ブレーキの位置そのものが適切な位置ではなくなる場合があります。
操作用ハンドル
前輪を上げる際にも必要となります。グリップに緩みがないか確認します。
レッグサポート(下腿ベルト)
屋外などで介助者に車イスを押してもらう際や、車イスごと自動車に固定する際などでは、前方への転倒防止として必ず必要です。
フットサポート
足を乗せる台です。緩んでくると調整が必要となります。
ティッピングレバー
キャスター上げ(前輪を上げる)を行う時に必要となります。
キャスター(前輪)
停車時のキャスターの向きに注意することで、車イスからの転落を予防できます。
座位の姿勢
この章では、座位における正しい姿勢(90度ルール)と、車イス乗車時における姿勢の注意点、修正の方法について解説します。
正しい姿勢(90度ルール)
座位の正しい姿勢とはどのようなものでしょうか。ここでは「90度ルール」について解説します。
車イスの姿勢
車イス乗車中は上記の正しい姿勢にならないので、長時間座っていることは苦痛となります。
また、姿勢が崩れやすい状態でもあるので、適宜姿勢の修正が必要になります。
車イス乗車時の姿勢の修正方法
チェックポイント
動かしたいほうに重心があると(体重が乗っていると)、動きにくいので、今、重心がどこにあるのかを考えながら行ってください。
- (例1)浅い状態から深くする場合
- ご利用者が背もたれにもたれていた(後傾姿勢)場合、後ろに移動することは難しいので、上半身が前傾するように前方に起こすとしっかり臀部が浮き、骨盤が回転しやすくなります。
- (例2)深い状態から浅くする場合
- ご利用者が前傾姿勢になっていた場合、前に移動するのは難しいので、上半身を後ろにもたれた状態にし、横に倒れてもらうと臀部が浮き、骨盤が回転しやすくなります。
姿勢が崩れる理由
普通の椅子では、お尻にある重心を少しの移動でずらすことができます。
しかし、車イスなどの柔らかいシートの上では、なかなか重心をずらすことができません。
もっとも、車イスが必要な方ほど、このような調整はご自分ではしにくくなっています。
ずっと重心が同じ場所に乗ったままになると、苦痛が生じ姿勢が崩れることにつながります。
長時間、車イスに座ることを避け、必要に応じて普通の椅子への乗り移りやベッドで休むなどの支援も行ってください。
キャスターの上げ方・下ろし方
段差を昇る時などに前輪を持ち上げる技術です。
整地されていない路面や砂利道など(悪路)では、キャスター(前輪)が路面に埋まってしまい、走行が困難となります。
特に踏切などで線路にキャスター(前輪)が落ちてしまうと、大変危険な状態となってしまいます。
そのため、キャスター(前輪)を上げたまま走行するという技術が必要となります。
また横断歩道などでは、横断する時間の制限もあるため、段差の衝撃に注意しつつも、すばやく横断することが求められますので、後輪だけで走行することにより衝撃を抑えつつ、素早い操作が可能となります。
キャスターの上げ方
車イスのキャスターの上げ方を解説します。
キャスターの下ろし方
次は、車イスのキャスターの下ろし方を解説します。
車イスでの段差の昇降
段差は、昇りは前から、下りは後ろから操作します。
通常の4輪走行で越えることが可能な段差は2cmまでですので、それ以上の段差を越える場合には、この技術が必要となってきます。
段差を昇る
段差を降りる
段差昇降<車道と歩道の段差>
通常の4輪走行で可能な段差は2cmまでとなると、路上にある車道と歩道の段差も同様に越えられないので、この段差昇降の技術が不可欠となります。
※段差が低くても、不快感は同じなので、注意が必要です。
※段差を降りる時は、小さな段差でも後ろから降りることが必要です(「車イスでの段差の昇降」を参照)。
車イスでの角の曲がり方
チェックポイント
角の曲がり方の原則は、停止して曲がることを心がけます。
停止して曲がることにより、ご利用者の安心感が得られ、内側の挟み込みや前方へぶつかるなどの事故を減らすことができます。
スロープでの操作
スロープで車イスを操作する際、昇りは前から、下りは後ろから操作をします。
キャスターの性質上、2cm以上の段差を越えることはできません。それ以上の段差を越える時は、キャスター上げの操作が必要です(「キャスターの上げ方」を参照)。
チェックポイント
前から下り坂を下りるということは、障害物があった場合、最初に当たるのが前輪であり、大きな衝撃を受け危険ですので、必ず後ろから操作をします。
安全な操作
車イスを安全に操作するためには、車体感覚を理解する必要があります。
ここでは、「運転者から見た視界の様子と死角について」「操作スピード」について解説します。
運転者から見た視界の様子
操作スピード
車イスに乗ると、立っているよりも目線は低く、スピードを速く感じる傾向があり、恐怖感につながりやすくなります。
また、振動などで揺れると不快感を感じやすく、乗り物酔いなどを感じる方もいます。
急停車や急発進、急旋回などは、体のバランスを崩しやすく、転落の危険につながりますので、ゆっくり操作することを心がけてください。
特に、曲がる時には、必ず止まってから曲がるようにしましょう。
車イス使用時のシートベルト着用
最近では、介護タクシーなど車イスのまま車両に乗ることが可能となってきました。
車イスのまま乗車し、車両に固定する際には、シートベルトを正しく着用してください。
2点式シートベルトの場合
3点式シートベルトの場合
車イスから車の座席に乗り移る場合、通常は後部座席のほうが安全であると言われていますが、多くの後部座席のシートベルトは2点式であるため、姿勢が不安定な方は、助手席(3点式シートベルト)へ座るようにすることで、座席からの転落などを防ぐことができます。
車イスの種類
標準型・自走式
一般的に多く使用されている形で、ハンドリムがついています。自分で操作することができ、介助者による操作も可能です。
自分で操作をすることがなくとも、屋外で頻繁に使用する方には、後輪タイヤが大きいため安定感があり、適しています。
介助型
後輪が小さいため、小回りが利きやすく、介助者用に後ろから操作できるブレーキがついています。ハンドリムがないため、自分で操作することはできません。
屋外で使用する際には、車輪が小さいため段差や傾斜、路面の状態が悪い場合などの際の安定性に欠け、操作が難しい場合があります。
リクライニング型
高い背もたれが後方に倒れ、水平に近い状態(ベッド状)になります。長時間座る姿勢が困難な方などは、車イスのまま横になることができます。
ティルティング(ティルト)型
ティルティング機能は座面が下がり、車イス全体が後傾します。最近では、リクライニング型にティルティング機能がついたものもあります。
通常の車イスで屋外を長時間走行する際に、振動などにより姿勢が不安定になり、転落などを予防するために考えられた機能です。
長時間ティルティング機能を使用し、座り続けることは想定されていませんので、使用の際には注意が必要です(長時間、この機能を使用すると褥瘡[床ずれ]などの発生につながることもあります)。
著者/高山彰彦
※本記事は『あなたのための介護技術 基本編』(文芸社/2018年2月15日発売)の内容より一部を抜粋・再編集して掲載しています