歩行介助の正しい知識 | あなたのための介護技術 基本編(6)

  • 転倒事故防止に努めます。しかし、歩行をするということは、転倒の危険性が常にあるものです
  • 100%の転倒を予防することは不可能です
  • 100%の転倒を予防しようとすると、安易に車イスに乗っていただくというような介助になってしまい、本来の「その人らしい生活」から遠ざかります
  • 歩行していただきながら、重大なけがにつながるような転倒を予防することが必要です
  • そのためには、歩きにくい履物や滑りやすい場所は避け、屋外では最短距離を選ぶよりも安全なルートを選ぶようにします
  • 屋内では段差に注意し、障害となる物は取り除くようにします(電気のコードや新聞など、踏むと滑る可能性のあるものは片づけ、絨毯〈じゅうたん〉などはピンで固定するなどを行います)
  • 自宅では全てをバリアフリーにすることは困難です。また、日常生活の中では自然な機能訓練にもなるため、適度に障壁(バリア)はあったほうがいいとも言われています
  • 段差を乗り越えることができる場合は、はっきりと段差とわかるように、認識できる色のテープを貼りつけ、注意を促すなども有効です。また、段差の横に手すりを設置したり、家具を置いて、持てる場所を作ったりするなどにより、安全に段差を越えるように環境を整備することも必要です
  • むしろ最も危険なのは、わずかな段差です。わずかな段差は段差と認識することが難しく、つまずきや転倒などにつながります(5mmあればつまずくと言われており、実際は3mm以上は危険です)
  • その際は、色のテープを貼りつけたり、段差と認識できるように工夫することが大切です
  • また床材に関しても、車イス移動を考えるとフローリングなどが適していますが、歩行する方にとっては転倒での怪我の予防を考えると畳などのクッション性のあるもののほうが適している場合もあります
  • 不必要に家具を片づけてしまうより、伝い歩きなどができるように家具などの位置を連続するように配置することで安全に移動できることもあります
  • ⿙手すりの設置や家具の位置などは、ご利用者の動きに合わせて設置するようにすることが重要です。介助者は必ず、最も危険がある場所(想定される場所)に立つようにします

両手引きでの歩行介助

麻痺などがないにもかかわらず歩行ができなくなっている場合には、自分自身で重心コントロールができなくなっている可能性があります。

  • ご利用者と一緒に体を左右に揺らし(重心を左右に移動させる)、足踏みをするようにする
  • 足踏みをすることで重心移動ができ、重心移動で浮いた側の肩が前に出るように腕を引きよせることにより骨盤(腰)が回転し、足が前に出る
  • 浮いた時に肩が回転するように腕を引き込む
  • ご利用者の肩が前に出てくるようにすれば骨盤(腰)が回り、歩行運動となる
  • 左右の重心移動を回転運動に変えることで、歩行が可能となる

片麻痺の方への歩行介助

片麻痺がある方への歩行介助について説明します。「平地歩行」「階段昇降(昇り・降り)」「杖をつく位置」をそれぞれ詳しく見ていきましょう。

平地歩行

片麻痺の方の平地歩行で、「麻痺側」「健側」「杖」を出す正しい順番はこちらです。

杖 → 麻痺側 → 健側

  • 歩行時、足を正面に出すためには膝を曲げることが必要となる。片麻痺の方は麻痺側の膝が曲がってしまうとバランスを崩すため、麻痺側の膝を伸ばしたまま、外側に回すようにして足を前に出す
  • 歩行介助時、外側に回す麻痺側の足の障害にならないようにする
  • 介助者は半歩後ろから介助する

    ※麻痺足を外に抜くためには、重心を大きく健側にかける必要がある。つまり、健側に体を大きく倒すことが必要になる。介助者が体を密着させ、体の揺れを抑えることにより、事故が起きやすくなる。

杖をつく位置

杖は、健側に充分に重心移動するために体を支えます。そのためには、杖は健足の斜め前、足の延長線上より、20cm程度横につくようにします(「平地歩行」の項を参照)。

杖の先端ゴムなどがすり減っている場合は、転倒などの事故につながりますので、使用前には確認し、必要に応じて先端ゴムの交換をする必要があります。

階段昇降(昇り)

片麻痺の方の階段昇降(昇り)で、「麻痺側」「健側」「杖」を出す正しい順番はこちらです。平地歩行の際とは異なりますので注意してください。

杖 → 健側 → 麻痺側

昇りは体重を持ち上げる動作となります。体重を持ち上げることができる足(健足)から上げなくては昇ることができません。

  • 階段の昇りは、健側(動く足)を先に上げる
  • 麻痺側の足は正面に上げていくとつまずく原因となる
  • 外から回すようにして麻痺側の足を上げるため、充分に健側に上半身を倒し体重をかける
  • 麻痺側の足を上げる際には、上半身を健側に倒すようにする
  • 麻痺側の足の膝は曲げると膝折れが起きるため、伸ばしたままで上げることになる
  • 正面に向けてまっすぐに足を上げるとつま先が段差に引っかかり、つまずくように転倒するので、麻痺側の足は外に抜いて、回すようにして上の段に着地させる
  • 着地の位置が不安定になることが考えられるため、介助者は、着地の位置がずれないように手を添える
  • 介助者は外側の足をご利用者の一段下に先に上げて、ついていく。内側の足を先に上げるとご利用者の麻痺側の足にぶつかる

チェックポイント

介助者が体を近づけると、ご利用者は足を外に抜くことができず、正面に上げることになる。その結果、つま先が上段に引っかかり、つまずく。

階段昇降(降り)

片麻痺の方の階段昇降(降り)で、「麻痺側」「健側」「杖」を出す正しい順番はこちらです。階段昇降(昇り)とは異なりますので注意してください。

杖 → 麻痺側 → 健側

降りは、ゆっくり体を降ろす動作となります。体重をゆっくり降ろすことができる足(健足)を残しておかねばなりません。

  • 階段を降りる時には、麻痺側の足を先に降ろす
  • 麻痺側の足を降ろす時は、上半身を健側に傾ける
  • 麻痺側の足が着地してから、健側の足を降ろす

介助者は着地点を広く見せるために体を半身にして一段下で介助し、麻痺側の足を外側にステップ(介助者側にステップ)するよう声かけする

  • 介助者は麻痺側の肩に手を当て、上半身が麻痺側に傾いてくるのを止めるようにする
  • 麻痺側に倒れると転落の危険があり、非常に危険である
  • 麻痺側の足が外側に着地をする時は上半身が崩れないが、麻痺側の足が内側に入った時は上半身が崩れるので、肩を押して止める

    ※ 介助者の立ち位置が近いと、麻痺側の足が内側に入りやすいので、なるべく外側に立つようにする

事故になる例

介助者の誤った介助位置によって事故が起きる可能性が高くなり、介助者が知らずに事故を誘発していることが多いので、注意が必要です。

歩行介助,階段,介助者の位置,解説図
  • 麻痺側の足が内側に入ったら、肩に当てていた手で止める
  • 止めきれない場合は、転落の危険がある

著者/高山彰彦

※本記事は『あなたのための介護技術 基本編』(文芸社/2018年2月15日発売)の内容より一部を抜粋・再編集して掲載しています

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