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起立介助の正しい知識 | あなたのための介護技術 基本編(4)

  • 座っている姿勢(座位)から立つ姿勢(立位)への介助を学びます
  • 必ず安定して座っている状態から開始してください(「正しい姿勢(90度ルール)」参照)
  • 介助を開始する前に、ご利用者の状態を確認してください。
    (1)麻痺・尖足・拘縮の状態
    麻痺の有無・筋力・拘縮の有無・尖足(足首の拘縮)・膝の状態など、体重をかけることができるかどうかを確認します。
    (2)緊張や痛みの有無
    不随意運動による筋緊張や痛みの有無(動きの制限や速さの制限)。

起立介助をする前の注意点

起立介助をする前に、ベッド(椅子)を安定する高さに設定してください。

ベッド・椅子などの高さの設定

介護技術「立位介助,ベッド,椅子,高さ設定」解説図
  • 腰・膝・足関節が90度になるように調整する
  • 上半身の重心を背骨と腰で受け止めることにより、正しい姿勢となる
  • 人間の体の筋肉の中でも大きく、重い大腿部の重みを足関節(足首の関節から足の裏全体)で支えることにより座位の安定だけではなく、咀嚼・嚥下能力の向上にも影響が大きい。また、麻痺足についても、この状況を作ることにより尖足予防にもなる
  • 車イスを使用した場合、足台を活用して90度ルールに近づける方法もあるが、座面の安定性や膝の角度などを総合的に勘案すると、移動後は適切な椅子への乗り移りが望ましい
  • 足の裏がつく範囲で、高めが立ちやすい。現在の日本人の平均的な体格(70歳代平均身長:男性163cm、女性150cm)で、38cm±3cm程度が目安になる
介護技術「立位介助,ベッド,椅子,不安定な高さ」解説図

立位の準備(立位のメカニズム)

  1. 座る位置(臀部)を浅くする
  2. 足を手前に引く
  3. 前かがみ(前傾姿勢)になる
介護技術「立位介助,メカニズム,座位」解説図
  • 座位が深い(椅子に深く腰かける)と、重心を足に移すために頭の移動距離が大きくなり、頭を下げる位置も低くすることが必要になる
介護技術「立位介助,メカニズム,座位」解説図
  • 座位が浅い(椅子に浅く腰かける)と、少ない頭の移動距離で立位に移行できる。つまり、少ない力で立位に移行できる

立位の準備

介護技術「立位介助,準備,足の位置」解説図
介護技術「立位介助,準備,足の位置,不適切な位置」解説図
  • 真上から膝を見て、つま先が見えている程度が一番立ちやすい位置
  • 足の甲まで見えていると足が引けていないので、立ちにくい
  • つま先が見えていなければ足を引きすぎているため、足に力が必要となる

ワンポイントレッスン

椅子に深く腰をかけた時と、浅く腰をかけた時と、どちらが立ち上がりやすいですか?

立つ前には必ず浅く座りましょう‼

また、頭を下げずに立つことができますか?

必ず頭を下げるようにしましょう(前傾姿勢)‼

座位を浅くする方法

介護技術「座位を浅くする方法1」解説図
介護技術「座位を浅くする方法2」解説図
介護技術「座位を浅くする方法3」解説図

チェックポイント

ご利用者が前傾姿勢になっていた場合は、横にもたれてもらっても臀部は浮きにくく、重心が足にかかっているため、動きにくい。

このような場合は、ご利用者の上半身をやや後ろにもたれてもらうように起こし、上半身全体で手すり(アームサポート)にもたれるように横に倒すことにより、しっかり臀部が浮き、骨盤が回転しやすくなる。

ワンポイントレッスン

自分で実際に動いて確認してみましょう‼

重心を片方へ傾け、軽くなって浮いたほうのお尻を前に出して移動してみてください(通称「お尻歩き」と言われています)。それが人間の自然な動きです。

重心をコントロールして行いましょう‼

立位のための手すりの使い方

立位用の縦手すり(長さ60cm以上)を設置する意味は、立位時には手すりの低い位置を持って立ち、立位のあと、姿勢を安定させるために、手すりの高い位置を持ち直すためです。

介護技術「立位,手すり,使い方」解説図
介護技術「立位,手すり,使い方,津適切」解説図

ワンポイントレッスン

手すりを持って立つ時、高いところを持った時と、低いところを持った時では、どちらが立ちやすいですか?

手すりは低いところを持って立つようにしましょう‼

起立介助のポイント

立位の準備」までを行ってから必ず実施してください。

両手引きでの介助(片麻痺はないが、上手に重心移動ができない場合)

介護技術「立位介助,両手引き」解説図
  • 頭が膝の前に来るまで下向きに引き込んでくる
  • 臀部が浮いてきたタイミングを見計らい、介助者の肘を閉じることによって重心が自然に移動し、立位になる
介護技術「立位介助,両手引き」解説図2
介護技術「立位介助,両手引き,不適切」解説図

立位のメカニズムに沿って、前かがみになって足に体重が乗るようにする。

麻痺などがある場合は、横に転倒する可能性があるので、「片麻痺の方への介助」を活用してください。

<起立介助のポイント>手の支え方

介助者が上からご利用者の腕をつかむか、下から支えるかによって、行動の主体が変化します。それに加えて、介助者の手のひらが上を向くか下を向くかによって脇の開き具合が変わり、出せる力の大きさが変わります

介護技術「立位介助,手の支え方,上から」解説図
介護技術「立位介助,手の支え方,下から」解説図

片麻痺の方への立位介助

介護技術「起立介助,片麻痺」解説図1
  • 麻痺足の膝折れ防止をする。ご利用者の横側から、麻痺足の膝に対してご利用者と同じ足(ご利用者が右麻痺なら介助者も右膝)を垂直に合わせて、介助者の膝の内側で利用者の膝を軽く押さえるようにして、膝を伸ばす支援を行うことによって立位のコントロールをする
  • 脇の下を支える介助者の手は、軽く触れる程度で浅く入れる(最初から深く入れることによりご利用者の上半身の前傾姿勢を止めてしまうため)
介護技術「起立介助,片麻痺」解説図2
介護技術「起立介助,片麻痺」解説図3

チェックポイント

立位および座位の介助で、ゆっくり安定して動作するポイントは、上半身のコントロールにあります。認知症やパーキンソン病などでそれらがコントロールできなくなっているご利用者に対しては、ご利用者の胸のあたりに介助者は腕を差し出して、それにもたれてきてもらうようにすると前傾姿勢へのコントロールはしやすくなります。

  • 立位では、足に力を入れる前に、お辞儀をするように上半身を前かがみにすることが重要
  • 座位では、頭が下がり前傾になることから始まる。お辞儀をする形になってから臀部を着地し、それから上半身を起こすことによってゆっくり座ることができる
  • 立位や座位の時に上半身が直立したまま行うと、空中でも「重い臀部」になり、ゆっくり動作ができない

ご利用者の側面に介助者が位置することで、ご利用者は十分に前傾姿勢をとることができ、重心移動(「立位の準備」参照)が可能になります(前から密着すると前傾姿勢を阻害してしまい、上半身のコントロールが困難になります)。

上に引き上げるのではなく、頭を下げてもらうイメージで、足に体重が乗るように誘導します。ズボンなどをつかまないように注意します。

座位への介助

介護技術「座位,介助」解説図
介護技術「座位,介助」解説図2
  • 膝と骨盤をゆっくり緩めることによって、臀部が下がる。介助者の骨盤を支える手が伸びきってしまうと、支える力が発揮できないため、足を広めに開いて、姿勢を下げながら、利用者について一緒に座っていくことにより、ゆっくりと座れるように支え続けることができる。
介護技術「座位,介助」解説図3
介護技術「座位,介助」解説図4
  • 着地直前、止めるようなイメージでスピードを落として、ゆっくり座る(腰椎圧迫骨折の予防)。着地まで、上半身が前傾姿勢を保つことが、ゆっくり座るポイント。上半身が直立すると、空中でも「重い臀部」となり、尻もちをつくような座り方になる
  • 着地まで、介助者は腕が伸びないように、一緒に座るようにしてついていく

ワンポイントレッスン

立位から座位の介助を実施してみましょう。座る時は、介助者も一緒に座るイメージで後ろへ引いていきます。最後まで上半身は引きつけておくようにしましょう。

筆者/高山彰彦

※本記事は『あなたのための介護技術 基本編』(文芸社/2018年2月15日発売)の内容より一部を抜粋・再編集して掲載しています

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