入浴介助にはさまざまな種類があり、一般浴(個浴や大衆浴)、機械浴(ストレッチャー浴・チェアー浴)、シャワー浴、リフト浴などがあります。当記事では、機械浴について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説していきます。
機械浴とは
機械浴は特殊浴槽やハーバード浴と呼ばれることもあり、ストレッチャー浴とチェアー浴の2つの種類があります。
機械浴は、主に自立度の低い方が利用する浴槽となります。機械を使用した浴槽を活用することで、トラブルや操作ミスがない限り、重介護者でも一般浴と比較するとより安全に入浴しやすくなります。
高価で簡単に買い替えることができないことから、導入する場合には十分なアセスメントが必要です。
ストレッチャー浴ってなに?
ストレッチャー浴とは、ストレッチャーに寝た状態で入浴ができる方法です。お湯に浸かることのできるタイプと、シャワータイプがあります。
ストレッチャー浴のメリットは、重度な障害があっても入浴ができ、介護者の負担が軽減できることです。
一方、デメリットとしては、全介助での入浴となるため、利用者の意見が反映されにくく、身体機能を活かすことができません。
また、利用者にとっては寝ている状態での入浴となるため、天井以外の景色が見えづらく、さらに金属音や機械の動作音が伴うことで不快になることがあります。
そのほか、体が浮力の影響を受けやすく不安定になりやすい入浴となります。よって安全のためにベルトは必ず着用し、一つひとつの動作に入る前に、必ず利用者に伝わるように丁寧な声掛けをしてください。
チェアー浴ってなに?
チェアー浴とは、キャスターが付いた椅子に座った状態で入浴する方法です。座位保持ができる方が対象になります。
チェアー浴のメリットは、利用者が周囲を自分で確認できるので、ストレッチャー浴に比べると視覚的に安心感がある入浴方法となります。
利用者がタオルやスポンジを持つことができれば、手の届く範囲で身体を洗うこともできるため、自立支援にもつながります。
しかし、ストレッチャー浴と同様、金属音や機械の動作音、または移動時の振動を、利用者が不快に感じる可能性があります。また、家庭の浴槽とは違うため、利用者にとっては馴染みにくい入浴方法となるのがデメリットです。
さらに、座位が不安定な方は特に浴槽の中で身体が傾いてしまう可能性があるので、安全のために利用者にベルトを着用して、常に目を離さないようにすることが必要です。
また、介助を進めるときは必ず声掛けを行い、次に何を行うのかを説明することが大切です。
【事例】認知症により機械浴を理解できない場合
利用者Aさんは、機械浴(ストレッチャー浴)使用の対象となる、座位保持が困難なほどの重度障がいがあります。さらに、認知症の症状などによって、入浴に対する強い介護拒否を訴えるときがあり、介護者は対応に困っています。
事例への対応方法
認知症の症状により入浴が理解できない方にとって、寝た姿勢のまま機械などによって動く浴槽へ入ることに恐怖を感じることがあります。
認知症ケアの基本を理解し、その都度、丁寧な説明と同意を心掛けることが大切です。ストレッチャーに臥床しているため、利用者の身体に行われている介護で死角になる行為が多くなります。
急にシャワーをかけたり身体を洗ったりせず、実施前に説明をして、利用者の表情を確認しながら行うようにしてください。
事故防止策と注意点
機械浴の介護事故は決して少なくありません。
報告されている事故事例
機械浴では、介助を機械に委ねることになるため、介護者が間違った操作をしてしまうと、予想外の事故につながる危険性があります。介護者は事前に、操作方法を熟知しておくことが重要です。
また、施設は、職員が緊急時に対応できるようにわかりやすいマニュアルを作成して、手に取りやすい位置に置いておきましょう。上記のような事故を防ぐため、操作ミスはもちろんのこと、下記の3点にもしっかり注意しましょう。
(1)利用者が「体が動かない人」だと決めつけない
(2)事故を抑止する体制づくりをしよう
(3)個々人の体型に合った器具を使おう
(1)利用者が「体が動かない人」だと決めつけない
機械浴(ストレッチャー浴)は全介助となるため、介護職が利用者を「体動がない人」などと決めつけたり、“機械操作の確認ミス”をすることが事故原因となります。
利用者にとっては、突然の不慣れな機械浴に驚きや戸惑いを感じてしまうことがあります。そのため、普段は体をほとんど動かさない利用者でも、普段とは違う言動をされる可能性があるため、常に目を離さないようにしておきます。
また、お湯に入るときはファーラー位(半座位)になり身体が浮きやすくなります。そのためベルトで利用者の身体を安定させるようにしましょう。
パーキンソン病などにより身体の振戦がみられる利用者は、安全確保のためベルトをしていても、徐々に緩んでくることがあるため注意し、安全を確認しながら入浴介助を行いましょう。
(2)事故を抑止する体制づくりをしよう
機械浴は、お湯の温度から浴槽に入る動きに至るまで機械が対応する入浴方法であり、事故が起きないように設計されています。
しかし、介護者が操作方法を理解していなかったり、利用者に誤った対応をしたり、機械浴に慣れてきたことによる確認ミスをすることで起こる介護事故は少なくありません。
日頃から行っている入浴方法であっても操作ミスが生じることはあるので、チェック項目などマニュアル化しておくことがよいでしょう。
操作方法をいつでも確認できるよう、フローチャート図など簡潔にまとめたマニュアルを浴室で介護者の手の届く場所に設置しておくことも大切です。
また、初めて使用する職員に対しては、機械操作の講習会を受講してもらい正しい操作を丁寧に伝えるようにしてください。
さらに、必ず2名以上で実施するようにしてください。
(3)個々人の体型に合った器具を使おう
機械浴は、不特定多数の方が利用することを想定して設計されています。しかし、利用者は障がいや体型などそれぞれ異なっています。
そのため、体型に合わない器具を使用してしまうと事故が発生してしまうこともあります。
身体が大きい利用者は、ストレッチャーや椅子に上手く乗ることができず、転落してしまうことがあります。一方、身体の小さい利用者は、浴槽内でバランスを崩してしまうことがあります。
また、身体の拘縮の状態によっても同様に、ベルトをしていても浴槽内でバランスを崩すケースも想定されます。
器具を用意するときは、メーカーに相談し、個々人の身体状態にあったものにするのが最も適切です。しかしそういった対応が難しいことも多いと思います。
そこで、全ての利用者に対して入浴前にアセスメントを必ず行うように心がけ、エビデンスに基づいた入浴方法を選定してください。
また、器具を利用する場合、利用者の重心を意識して椅子などに移るようにしましょう。
重心がずれると身体が傾いてしまいます。身体の小さい方は浮力の影響を受けやすいので、身体と器具の間にタオルやビーズクッション(浴槽用)などを差し込んで、身体を固定できる工夫をするのもよいでしょう。
まとめ
安全性と、利用者の自立支援、満足感をバランス良く考慮して機械浴の導入を検討することが重要です。
日本人にとって入浴は大切な生活行為の一つです。そのため、利用者の目線に立ち、満足感にも考慮できる入浴方法を選ぶようにしましょう。
著者/高野晃伸
イラスト/アライヨウコ