介護施設の入浴方法 一般浴と大浴場で 介助する基本

【介護】一般浴(個浴・大浴場)とは?入浴介助の注意点も解説

入浴介助にはさまざまな種類があり、一般浴(個浴・大衆浴)、機械浴、リフト浴、シャワー浴などがあります。今回は一般浴の個浴と大浴場について、それぞれの特徴とともに、メリット・デメリットを紹介します。

個浴とは

個浴とは、一般家庭で使用されている浴槽を使った入浴方法です(家庭浴と呼ばれることもあります)。近年、個浴を導入する高齢者福祉施設が増えてきました。

個浴のメリット

個浴は浴槽が狭く、両手足を伸ばすと浴槽のふちに当たるため、大きい浴槽と比べて沈みにくい(溺れにくい)傾向があります。

また、浴槽に入る際には、利用者自身が浴槽をまたぐ必要があるため機能維持につながります。

個浴の対象は、介護度が軽度の方だと考えられがちですが、重介護者でも適切な介助によって入浴することが可能です。近年では、個浴のメリットが注目されるようになり、導入する福祉施設が増えてきているようです。

個浴の安全な浴槽の種類や深さは?

個浴で使われる浴槽の形態には、和式、洋式、和洋折衷式の3種類あります。

【一般浴で使われる浴槽の種類】和式:深いのが特徴 。深さ60cm程度、横幅80~120cm程度。和洋折衷式:最も安全とされている。深さ:50~55cm程度(床から浴槽のふち40cm+埋め込み10~15cm)、横幅90~100cm程度。洋式 :浅くて長いのが特徴。深さ45cm程度、横幅が120~180cm程度。

個浴のなかでも、高齢者には和洋折衷式が最も適しているとされています。和洋折衷式は、適度な深さがあって肩までつかることができ、浴槽が長すぎないため身体がずり落ちづらいからです。

浴槽をまたぐときはふちに座ってからまたげるように、洗い場から40cm程度の高さ、10~15cm程度の埋め込まれている浴槽が適切と言われています。

浴槽の幅は90cm~100cm程度で、入ったときに膝が曲がるくらいが良いとされています。さらにバスボードや手すり、入浴台などを設置すると、より安全に浴槽に入ることができます。

【高齢者に適した和洋折衷の浴槽】
床から浴槽の縁までの高さ50cm~55cm。
浴槽の幅10cm。
埋め込み部分の高さ40cm。

入浴事故が起こる原因

厚生労働省の人口動態調査によると、高齢者の不慮の事故(自然災害や交通事故を除く)のうち、「不慮の溺死及び溺水」で亡くなった方は令和元年で6,901人、うち浴槽内は4,900人となっています。令和元年の交通事故の死亡者数は2,508人となっており、入浴事故の件数が大きく上回っています。

大浴場の入浴方法

大浴場とは、複数人で同時に入浴することができる広い浴槽を指します。自立度の高い利用者さんを対象とした通所サービスや高齢者福祉施設では、大浴場を導入している場合があります。

【介護施設の大浴場】
浴槽を囲う手すり
浅い階段
両側に手すり
段差

家庭浴とは違い、手足を伸ばすことができる広い浴槽は快適に感じられるかもしれませんが、要介護高齢者にとってはリスクも潜んでいます。

浴槽内では長座位の状態で湯に入ることになりますが、筋力が低下している高齢者は、浮力に対応できず身体が浮いてしまう傾向があります。そのため、上体を支えることができずに溺れてしまう危険性があるのです。

また浴槽に入るとき、湯のなかの段差が見えづらく滑りやすい状態になっています。手すりの設置が効果的ですが、素材や作りによっては滑りやすいことがあるため、バランスを崩した際に身体を支えることができないケースもあります。

以上の理由から、歩行状態が安定している方でも、介護者は気を抜かないように注意深く見守りましょう。

利用者さんが死角に入らないように気をつける

大浴場は、自立度の高い方が利用しますが、事故が起きる可能性は低くありません。そのため、介護者は常に目を離さないように努めましょう。

介護者は浴槽から洗い場に至るまで、常に浴室全体に目を配ることができる場所にいることが大切です。

一人で複数の利用者の支援を行う場面が想定されますが、介護者の死角(背後など)に利用者が入らないようにしてください。ときには脱衣室など浴室外から呼ばれることがあると思いますが、たとえ短時間でも浴室内を利用者だけにすることがないように、チームで取り組める体制づくりが大切です。

大浴場の職員体制は最低でも2名必要

自立度が高い方が利用する大浴場での支援は、最低でも2名の職員体制で実施しましょう。

施設によっては、家庭浴や機械浴(チェアー浴)などが同一浴室にあり、それぞれの入浴を職員が兼務で行う場合があります。その場合は、各浴槽で1~2名の職員を配置し、利用者のみの状態にならない環境を作ることが重要です。

もし転倒や溺れるなどの事故が発生した場合、救急蘇生や他職員への応援要請と同時に、入浴を継続している他利用者への配慮が必要となります。

介護は対人援助であるため、リスクを常に考えて行動する必要があります。想定されるリスクに対応できる体制や環境を整えることは、介護業務を実施する前提として考えるようにしましょう。

入浴するときの注意事項

入浴介助をする場合の注意事項を確認していきましょう。

事前に浴室の石鹸などを洗い流そう

浴槽に入るとき、掴まる手すりや浴槽のふちに石鹸が付いていると、滑って転倒することがあります。また、浴槽をまたぐ際に、利用者がふらついてバランスを崩すこともあります。

浴室では利用者が肌を露出しているため、転倒してしまうと肌に直接衝撃を受けてしまい、服を着ているときより怪我をするリスクが高まります。

そのため介護職は、浴槽に入る前に、浴室の床、浴槽のふち、手すりを確認し、必要に応じてシャワーなどで石鹸を流すようにしてください。

福祉用具を活用しよう

個浴では、浴槽を入るときに座る入浴台やバスボードの設置をしておくと、比較的安全に浴槽に入ることができます。さらに、浴槽に入るときに利用者が掴まる手すりや浴槽のふちに、目印や滑り止めのテープを貼ると良いでしょう。

脱衣室と浴室の温度差に注意しよう

脱衣室と浴室の温度差があると、ヒートショックを起こしてしまうことがあります。ヒートショックとは、急激な温度変化によって、血圧や脈拍が変動し、身体に悪影響を起こしてしまうことを言います。

室温はそれぞれ、脱衣室が24℃、浴室が22±2℃を目安に設定しましょう。

万が一のときの対応方法

異常を発見した場合には、まず浴槽の栓を抜き、浴槽のお湯をなくすことで利用者の気道を確保するようにして119番をしてください。意識がない人を浴槽から引き上げることは大変な力が必要なので、引き上げる際には複数人で対応しましょう。

そのほか入浴時の注意点まとめ

異常を発見した場合には、まず浴槽の栓を抜き、浴槽のお湯をなくすことで利用者の気道を確保するようにして119番をしてください。意識がない人を浴槽から引き上げることは大変な力が必要なので、引き上げる際には複数人で対応しましょう。

職員体制

浴室内は床が濡れており滑りやすく、さらに肌が露出しているためケガをしやすい状況にあります。要介護者である高齢者は、普段の歩行が安定していたとしても、突然バランスを崩すことは十分に想定されます。そのため、浴室では絶対に利用者を一人にしないように、見守りを徹底するようにしてください。

入浴用具・備品

湿度の多い浴室内は、機器が劣化しやすい環境にあります。また使い慣れた用具は、使用に油断が生じることがあります。機器の故障で介護事故が発生した事例は多く報告されているため、使用前には必ず保守・点検を欠かさず、さらに適切な使い方をするように心がけてください。

入浴前後のバイタルチェック

入浴は血圧の変動など身体状態に影響を及ぼし、体力が消耗する生活場面です。そのため入浴前後にはバイタルチェックなど健康状態を確認し、異常がみられる場合には入浴を控えるようにしてください。また、空腹時や食事の直後の入浴は危険なのでやめましょう。

入浴用具は常に清潔に保つ

浴室は湿気の多く、カビなどの雑菌が繁殖しやすい環境にあります。また浴室の汚染は利用者への感染リスクの原因になる場合があります。そのため、感染症を患っているか利用者の病歴の確認と共に、入浴に使用する用具は常に清潔に保つよう、使用後は徹底した洗浄を行うようにしてください。

湯船やシャワーは、職員の手で温度を確認

機器が故障していた場合、設定と違う湯温が出る恐れがあります。健常者であれば設定と違う湯温を確認した場合、湯船からすぐに出るなど対応ができます。しかし、要介護者は障がいの状態によって自分の意思を伝えることができない場合があります。これまでの介護事故で、温度計が壊れて高温の湯船に入れてしまい火傷をおわせた事故例がありますので、必ず職員の手で温度を確認をすることを徹底してください。

介護職の履き物は滑らない物をはくこと

浴室は事故が発生しやすい環境にあることは、これまでに説明したとおりです。これは介護者も同様の状況にあるといえます。これまでの介護事故で、不適切な履き物により滑って共倒れという事故例があります。そのため介助をおこなう職員は万全な状態で入浴介助に臨むようにしてください。

手引き歩行禁止

日常の場面で杖や歩行器などの福祉機器を使用して歩行している方の場合、浴室内では職員による手引き歩行をしている場面があります。しかし、手引き歩行は、①利用者・介助者ともに移動方向を視認することができない。②利用者は両手を引かれることで重心が後ろにいく。などの理由により浴室でなくても危険な介助といえます。そのため、歩行介助が必要な場合は、介助者は利用者の側方に立ち、腰と手を支えるようにしてください。

著者/高野晃伸
イラスト/アライヨウコ

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