便失禁ってどうして起こるの?

高齢者の便失禁 | 漏れてしまう原因と対策を解説

当記事では便失禁の原因や対応方法などを解説していきます。「便が漏れてしまう」「トイレに間に合わない」といった便失禁の状態が続くと、お出かけしたり誰かと一緒にいるときに不安になってしまいますよね。心当たりのある方、高齢者介護をされている方は、ぜひ当記事を参考にして下さい。

便失禁とは | なぜ起こるの?

便失禁とは、排便をコントロールするのが難しくなる状態のことをいいます。

主な原因となるのは、排便にかかわる直腸や肛門、神経などのトラブルです。

通常、排便するときは肛門括約筋という筋肉を緩ませて排便し、トイレを我慢するときには、肛門括約筋を収縮させることによって肛門を閉めています。これらの機能が何らかの原因でうまく働かなくなったとき、便失禁が起こってしまいます。

排泄にt買う肛門括約筋

高齢者に多いというイメージをもっている方も多くいますが、痔や妊娠をきっかけに便失禁になる方もいるため、さまざまな年齢・性別で起こりえます。

便失禁は高齢者に多いわけではない

1995年に発表された研究によると、6,959人のうち153人が便失禁の状態だったことがわかりました。そのうち、65歳以上は30%だったことから、70%は高齢者ではなかったことがわかっています。

加齢によって肛門括約筋が弱くなってしまったり、病気になるリスクが高くなるため、便失禁になる確率は高くなる傾向がありますが、どの世代でも便失禁になりうることがわかります。

便失禁の種類

便失禁には、下記の3つの種類があります。

(1)漏出性便失禁

自分の意思とは関係なく気がつかないうちに便が漏れてしまう状態です。肛門括約筋の機能低下や、排便にかかわる神経のトラブルによって、便意を感じなくなってしまうことが原因です。便失禁のなかで最も多いといわれています。

(2)切迫性便失禁

便意を催しても、我慢することができず漏らしてしまう状態です。とくに高齢者は、肛門を閉めるための肛門括約筋の筋肉が衰えてしまっているので、この便失禁が生じることがあります。

(3)混合性便失禁

漏出性便失禁と切迫性便失禁の両方がある状態です。

便失禁の原因

便失禁に多い5つの原因を解説していきます。

(1)手術 | 直腸肛門部の手術

排便に関連する機能を持っている直腸を切除することで、排便に関する神経や筋肉を傷つけてしまうことがあります。そのため、便意や排便を抑える機能が低下し便失禁を起こすことがあります。

そのほかにも、痔瘻(じろう)、痔核(じかく)といった肛門周辺の手術によっても便失禁が起こることがあります。

(2)病気 | 神経・痔などの病気

事故などによって脊髄が損傷すると、神経の伝わりが途絶えてしまうため、便意を感じることがなく便失禁を起こすことがあります。

また、直腸がんや直腸脱(ちょくちょうだつ)、痔核などの病気によっても、便失禁が起こる場合があります。

そのほか、糖尿病や脳梗塞などの疾病によって排便にかかわる神経が阻害されてしまい、便意を感じることができなくなることもあります。

(3)妊娠、出産

出産時に肛門を支配している神経や肛門括約筋が傷つくことによって、便失禁が起こることがあります。妊娠直後に起こることもあれば、数年後に起こることもあります。

(4)加齢

肛門括約筋は排便の際に肛門を広げたり縮めたりする筋肉ですが、加齢によって筋肉の働きが低下することで肛門を閉めることが難しくなり、便失禁につながることがあります。

また、通常は直腸に便があると便意を感じますが、高齢者では便意を感じる感覚が鈍くなることで便失禁につながることがあります。

(5)認知症

認知症によってトイレの場所がわからなくなったり、トイレに行っても間に合わなかったり、便座に座ることがわからないために便失禁してしまうことがあります。

認知症の方にとってトイレの位置がわかりやすくなる工夫が大切です。

認知症の方にわかりやすい工夫:トイレの表示をわかりやすくする・三角台などで段差をなくす・手すりを付ける・センサーライトをつける・床にものを置かない

便失禁への対応方法

便失禁になってしまい、不安で外出ができないなど、生活に支障が出るような悩みを抱えている場合、医師に相談してみるのが良いでしょう。

自分でできる改善方法としては、主に下記の2つがあります。

(1)食生活の改善

食生活では、腸と便の状態を整えるために野菜類や海藻類など、食物繊維を多く含んだ食品を摂るようにし便を硬めに調整します。

また、アルコールやコーヒー、紅茶、香辛料などは腸を刺激し、下痢を起こしやすくする作用があります。便失禁を起こしやすくなりますので、控えましょう。

(2)骨盤底筋体操

弱っている肛門の筋肉を鍛えることによって、便失禁を予防しましょう。

①肛門をきゅっと締める
②5秒静止する
③肛門を緩める
④5秒休む

これを10回繰り返して1日3回以上行うことをおすすめします。

ポイントは、肛門を閉めるときに、上の方に引き上げるようなイメージで行うことです。そのときにお腹に力が入ると便失禁してしまうことがあります。

病院で受けられる主な治療法

便失禁の治療法には食事の改善や運動などさまざまな種類があります。基本的には、服薬などの内科的な治療をして、改善されない場合には外科的な治療が検討されます。

便が柔らかかったり、下痢を伴う場合は薬物療法が用いられます。

薬物療法は大きく2種類に分けられます。

①便の水分を調整して改善するお薬と、腸の過剰な運動を抑えて便の通過時間を遅らせることで②便を固まりやすくするお薬が使われます。いずれも切迫性便失禁、漏出性便失禁に有効だといわれています。

便失禁って何科を受診すればいいの?

便失禁になったとき、何科に行くのか悩まれる方も多くいます。便失禁になった場合には、お近くの大腸肛門科消化器内科に行くと良いでしょう。

(参考)
『Community-based prevalence of anal incontinence』R ネルソン

著者/中澤真弥
監修者/前田耕太郎
イラスト/アライヨウコ

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