事故防止の基本活動ができたら、いよいよヒヤリハット活動です。今回は、よくある間違いを2例見ていただき、ヒヤリハット活動の真の目的と意味を理解してください。
ヒヤリハット活動を成功させるには
ヒヤリハット活動をしても事故が減らない理由は、
- ヒヤリハット活動の前に行うべき、事故防止の基本活動がおろそかになっているから
- ヒヤリハット活動の方法が間違っているから
この2点です。
1点目である事故防止の基本活動(「事故防止編(第7回)」「事故防止編(第8回)」を参照)ができたら、いよいよヒヤリハット活動について見直してみましょう。
ヒヤリハット活動を行っていても、やり方が間違っていたら効果は上がりません。では、いったいどこをどう間違えてしまうのでしょうか。
間違いをひと言で表すなら、「せっかく書いているヒヤリハットシートが、十分活用されていない」ということに尽きます。
ヒヤリハット活動がしっかり事故防止に直結していれば、目に見えて事故は減るはずです。それなのに事故が減っていないのであれば、ヒヤリハットに費やしている努力や労力は、どこかの抜け穴から漏れてしまっています。
ヒヤリハット活動でよくある失敗①
注意したいのは、「シートを書いているだけでは事故は減らない」という点です。
ヒヤリハットシートは書くことが目的なのではありません。あくまで事故を防止するための手段の一つにすぎないのです。書いたシートを上手に活用して、「どうしたら今後同じようなミスを防げるか」を検討しなければ事故は減らせません。シートを書くことで終わらせないよう注意しましょう。
【失敗例】ひたすらヒヤリハットシートを書かせて、枚数で評価する
ヒヤリハットシートの提出枚数を集計して、数を競わせるような使い方をしている施設があります。
「先月のヒヤリハットの提出枚数第1位はAユニットで30件でした。Aユニットは今後もこの調子で頑張ってください」
「ヒヤリハット提出枚数最下位はBユニットで3件でした。Bユニットはもっと事故防止に高い意識を持って……」
このように、「枚数が多いほうが頑張っている」というやり方はおすすめしません。
1件のヒヤリハットを有効活用して事故防止に努めた結果、ヒヤリハットがどんどん少なくなったユニットだってあるはずです。枚数よりも、書かれている内容といかに再発防止につなげるかを優先的に考えましょう。
ヒヤリハット活動でよくある失敗②
また、「ヒヤリハットシートのミスの内容を責められる」という施設も問題です。目的は再発防止策を講じることだけです。
【失敗例】前月のヒヤリハットを報告させ、原因や再発防止策を説明させる
現場の責任者にヒヤリハットが起きた原因と再発防止策の報告を毎月求める施設がありますが、これも問題です。
毎月報告させるというのは、一見すると事故防止につなげるために有効だと感じるかもしれません。しかし、ただ報告を求めるだけでは、往々にして「現場責任者の反省を促すための吊るし上げ行為」のような形になってしまいがちです。
こうしたプレッシャーをくり返すと、現場責任者が精神的に追いつめられます。現場責任者が追いつめられると、職員に対して「あなたたちがミスをするから私が怒られる」という思考になってしまい、職場の雰囲気が悪くなるので要注意です。
ヒヤリハットシートは報告させるだけではなく、みんなで協力して多角的な検討を行うためのツールとして利用しましょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています