ヒヤリハットシートを書くだけでは事故は減らない|事故防止編(第9回)

ヒヤリハットシートを書くだけでは事故は減らない | 事故防止編(第9回)

事故防止の基本活動ができたら、いよいよヒヤリハット活動です。今回は、よくある間違いを2例見ていただき、ヒヤリハット活動の真の目的と意味を理解してください。

ヒヤリハット活動を成功させるには

ヒヤリハット活動をしても事故が減らない理由は、

  1. ヒヤリハット活動の前に行うべき、事故防止の基本活動がおろそかになっているから
  2. ヒヤリハット活動の方法が間違っているから

この2点です。

1点目である事故防止の基本活動(「事故防止編(第7回)」「事故防止編(第8回)」を参照)ができたら、いよいよヒヤリハット活動について見直してみましょう。

ヒヤリハット活動を行っていても、やり方が間違っていたら効果は上がりません。では、いったいどこをどう間違えてしまうのでしょうか。

間違いをひと言で表すなら、「せっかく書いているヒヤリハットシートが、十分活用されていない」ということに尽きます。

【ヒヤリハットに取り組んでも自己が減らなかった理由】理由1)ヒヤリハット活動の前に行うべき、事故防止の基本活動がおろそかになっているから。理由2)(理由1もクリアしている場合)ヒヤリハット活動の方法が間違っているから

ヒヤリハット活動がしっかり事故防止に直結していれば、目に見えて事故は減るはずです。それなのに事故が減っていないのであれば、ヒヤリハットに費やしている努力や労力は、どこかの抜け穴から漏れてしまっています。

ヒヤリハット活動でよくある失敗①

注意したいのは、「シートを書いているだけでは事故は減らない」という点です。

ヒヤリハットシートは書くことが目的なのではありません。あくまで事故を防止するための手段の一つにすぎないのです。書いたシートを上手に活用して、「どうしたら今後同じようなミスを防げるか」を検討しなければ事故は減らせません。シートを書くことで終わらせないよう注意しましょう。

【失敗例】ひたすらヒヤリハットシートを書かせて、枚数で評価する

ひたすらヒヤリハットを書かせて枚数で評価している様子。枚数より内容ちいかに再発防止につなげるかが大事です。

ヒヤリハットシートの提出枚数を集計して、数を競わせるような使い方をしている施設があります。

「先月のヒヤリハットの提出枚数第1位はAユニットで30件でした。Aユニットは今後もこの調子で頑張ってください」

「ヒヤリハット提出枚数最下位はBユニットで3件でした。Bユニットはもっと事故防止に高い意識を持って……」

このように、「枚数が多いほうが頑張っている」というやり方はおすすめしません

1件のヒヤリハットを有効活用して事故防止に努めた結果、ヒヤリハットがどんどん少なくなったユニットだってあるはずです。枚数よりも、書かれている内容といかに再発防止につなげるかを優先的に考えましょう。

ヒヤリハット活動でよくある失敗②

また、「ヒヤリハットシートのミスの内容を責められる」という施設も問題です。目的は再発防止策を講じることだけです。

【失敗例】前月のヒヤリハットを報告させ、原因や再発防止策を説明させる

現場の責任者にヒヤリハットが起こった原因と再発防止案を問いかけている様子。

現場の責任者にヒヤリハットが起きた原因と再発防止策の報告を毎月求める施設がありますが、これも問題です。

毎月報告させるというのは、一見すると事故防止につなげるために有効だと感じるかもしれません。しかし、ただ報告を求めるだけでは、往々にして「現場責任者の反省を促すための吊るし上げ行為」のような形になってしまいがちです。

こうしたプレッシャーをくり返すと、現場責任者が精神的に追いつめられます。現場責任者が追いつめられると、職員に対して「あなたたちがミスをするから私が怒られる」という思考になってしまい、職場の雰囲気が悪くなるので要注意です。

ヒヤリハットシートは報告させるだけではなく、みんなで協力して多角的な検討を行うためのツールとして利用しましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

→Amazonで購入

  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

フォローして最新情報を受け取ろう

We介護

介護に関わるみなさんに役立つ楽しめる様々な情報を発信しています。
よろしければフォローをお願いします。

介護リスクマネジメントの記事一覧