事故防止活動はまず「職員のルール違反をなくす」ことから|事故防止編(第8回)

事故防止活動はまず「職員のルール違反をなくす」ことから | 事故防止編(第8回)

「ついルールを破ってしまって……」。事故が起きたとき、事情を聴いた職員の中にこのような言葉を口する人がいます。事故防止活動はまず、このルール違反を撲滅することから始めましょう。

初歩的な事故を防ぐのが第一歩

事故防止活動は、「安全規則の順守」から始まります。介護事故にはさまざまなものがありますが、その中でもっとも過失が大きく、また防ぐべきなのは「職員のルール違反によって起きた事故」です。事故防止活動を始めるのであれば、まずはルール違反をする職員をゼロにするところから始めましょう。

では、ここで言う「ルール違反」とはどのようなことを指しているのでしょうか。

ひと言で説明すると、「こうした行為を続けていれば、いつか必ず事故につながる」といった事故誘発の危険性が高い行為を指します。例えるならば、建設現場でヘルメットを着用しないとか、厨房に入るのに手を洗わないとか、そういう種類の行為のことです。

ここからは、「介護現場における、守るべき基本的な安全規則の代表的な例」を、イメージしやすいようにシーンごとにまとめてみました。これらの「規則を破ると起こる事故」と 「安全規則」を見て、どのように感じるでしょうか。

まずは、動作介助における事例です。

【動作介助における安全規則】 規則を破ると起こる事故:安全規則 スリッパや靴をつっかけた状態で介助をすると、いざというときに踏ん張りがきかないので危険:靴は踏ん張りやすいものをしっかりと履く。釣り上げる形で介助をすると、バランスを崩して共倒れという転倒が起きやすい:立ち上がりは前方への重心移動で行う。腕を抱えて連行するように介助すると、バランスを崩しやすく支えにくい:歩行介助は、杖や歩行器で歩行の安定を確保してから。移乗する時は、バランスを崩しやすく危険。つかまり立ちをさせて椅子を差し替えるのは転倒しやすい。:移乗は必ず移乗先の椅子を準備し、固定されているのを確認してから行う。

次に、車イスの介助の事例をご紹介します。

【動作介助(車イス)における安全規則】 規則を破ると起こる事故:安全規則 車イスでスピードを出すと、利用者のちょっとした体重移動でバランスを崩しやすく、転倒するので危険:車イスを押す時は走らない(歩く)。車イスを2代同時に押すと、片方のグリップしか握ることができず、方向操作を誤って壁にぶつかりやすい:車イスを押す時は必ず1台ずつ

続いて、食事介助の事例です。

【食事介助における安全規則】 規則をやぶると起こる事故:安全規則。睡眠薬が残っているなど覚醒が十分ではない状態で食事を摂らせることは、誤えんを引き起こす要因になる:食事はしっかり目が覚めるのを待ってから。食事中にずり落ちてきたり姿勢が崩れた場合は、その都度体制を整える。顎を引かずに食べると、誤えんしやすいので危険:食事の間は前傾姿勢を保つこと。立ったままで食事介助をするのは失礼。その上利用者は上を見上げる形で食べることになるので、誤えんしやすくなって危険:食事介助は横に並んで、利用者と同じ高さで行う。口の中に残った食べカスが腐敗し、呼吸しながら肺に侵入することで誤えん性肺炎を引き起こすので危険:食事の後は口腔ケアを欠かさない

最後は、排泄と入浴の事例になります。

【排泄介助における安全規則】 規則を破ると起こる事故:安全規則 座位が安定している人でも便座はバランスを崩すことがあるくらい安定が悪い。バランスの悪い人や認知症の人には特に注意が必要:バランスの悪い人は排泄中も付き添う。便座は不安定なので、座らせたまま長時間放置してはいけない。また、尿意がないのに無理に便座に座らせるのも転倒の原因に:長時間便座に座らせた状態にしない。女性でも男性でも、認知症があってもトイレは恥ずかしいもの。他の利用者に見られると、慌てて立ち上がることがあって危険:ポータブルトイレでも、他人から見えないように配慮する

【入浴介助における安全規則】 規則を破ると起こる事故:安全規則。保湿成分が多い入浴剤は、スリップの原因になるので要注意。また、にごりは利用者の体の位置が確認できなくなるので危険:保湿成分やにごりが多いなど、余計な入浴剤を使わない。用事があって浴室から脱衣所等に出る時は、必ず中に職員がいることを確認してから。見守りが手薄になると、溺れても気づかない:入浴中にスタッフが誰もいなくなる瞬間をつくらない。浴室内の床は硬くて滑りやすい上に裸なので、転んだら重大事故になる。マヒが軽い人でも浴室内を歩行するのは危険:浴室内は歩行ではなく、車イスやシャワー、キャリーを使う。

いかがでしたか?
「こんなにレベルの低い事故は、うちでは起こらない」と思われる人もいるかもしれません。こうした基本的なルール違反が絶対に起こらないという自信は、それ自体は素晴らしいことです。

しかし、私が今までセミナーでお会いした管理者の皆さんに話を聞くと、「こんな低レベルの違反はうちでは起きないと思っていたのに、やはり違反者が出てしまいました」と嘆く人が多くいました。ルールとは、わかっていても「ついうっかり」破られてしまうものなのです。

どうしたら確実にルールを守ってもらえるか

安全規則は、明文化されず暗黙の了解になっている施設が多いものです。しかし、暗黙の了解はルールとしては機能しません。こうした体制の甘さが、忙しい現場職員の心に「急いでいるから、まあいいか」という心の隙をつくってしまいます

安全規則の順守を徹底するためには、「明文化されたルール」と「違反したときの罰則」の2点が絶対に必要です。上に挙げられているような例を参考にしながら、まずは各施設で「安全規則」を作成しましょう。

安全規則ができたら、次は罰則の周知徹底です。もしも施設の規則を破って事故を起こしたとすれば、就業規則違反で懲戒解雇になる可能性があります。場合によっては刑事罰に処されることもあると、介護職は知っておくことが必要です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

→Amazonで購入

  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

フォローして最新情報を受け取ろう

We介護

介護に関わるみなさんに役立つ楽しめる様々な情報を発信しています。
よろしければフォローをお願いします。

介護リスクマネジメントの記事一覧