【二次感染の防止策②】施設内に感染症が広まったら|トラブル対策編(第89回)

【二次感染の防止策②】施設内に感染症が広まったら | トラブル対策編(第89回)

施設内に感染症が広まってしまったら、利用者の体力、免疫力を低下させないなど、全力をあげて重度化を阻止しなければなりません。居室配置、重症者向けの対策などをご紹介します。

利用者の居室配置にも工夫を

免疫力の低下した利用者に対して特別な配慮を行うことは必要ですが、これらの利用者を一室に集めるとなると、隔離につながる恐れがあるので注意が必要です。

しかし、胃瘻や糖尿病で明らかに免疫力が低下した利用者が、元気に歩き回る認知症の利用者と同室ではいけません。どこで居室の線引きをすればいいのでしょうか。

病院では、清潔度による区域分け(ゾーニング)を実施しています。

  • 高度清潔区域(バイオクリーン病室・手術室)

  • 清潔区域(一般手術室など)
  • 準清潔区域(分娩室など)
  • 一般清潔区域(診察室、一般病室など)

といった区分です。介護施設もその考えを取り入れて、数段階の居室配置を行う方法があります。

「重度化防止の備え」を解説

平常時から利用者の生活と健康状態に配慮しておくことで、いざという際の備えになります。次の3つのポイントを押さえておきましょう。

【1】体力と免疫力を低下させない生活重視のケア

介護施設の利用者と職員のイラスト。おやつを食べています。

日常生活習慣を継続する

  • 「感染症の発生しやすい時期なので、できるだけ居室から出ないで安静にしていただく」という方針は逆効果

  • 生活行為の極端な抑制と過度の除菌・殺菌はかえって免疫力を低下させる

低栄養を防ぐ

  • アルブミン値の管理や食事への工夫(好物はよく食べる)などで、栄養バランスのよい食事を摂るよう徹底する。また、精神的に不安定な状態も食欲に影響する

脱水が起こりやすい

  • 高齢者は保水能力の低下から脱水状態になりやすく、危険なので常に注意が必要

【2】免疫力低下者への対応

免疫力が低下している利用者を平常時から把握しておく

  • 糖尿病・呼吸器疾患(在宅酸素療法など)・経管栄養の利用者、急に体重が減った利用者

慢性病などで 免疫力低下が明らかな利用者への対応

  • 利用者に感染症の疑いがあり、同室の利用者の免疫力が低い場合は、一時的な居室移動を検討

【3】個別疾患の抗体

どんな疾患に罹患したことがあるのか

  • 感染症は一度罹患し治癒すると体内に抗体ができるため、その後感染しても発症しない。しかし、高齢者自身は過去の罹患が不明な場合が多いので、家族から情報を得ておく

重症者に向けた対策は?

大きくは「ウイルスを増殖させない」「低免疫力の利用者の免疫力向上」という2つの対策があります。詳細を解説していきましょう。

細菌やウイルスを増殖させない対策

①居室清掃の見直し

居室清掃は外部業者に委託している施設が多く、「清掃の内容については任せっきり」ということが少なくありません。清掃の内容をよく聞くと、床の掃き掃除は毎日でも、ベッド柵やキャビネットなどの「ふき掃除は週2回」ということもあります(きれい好きな人は毎日、ふつうの主婦でも2日に1回はリビングのふき掃除をしています)。

特に免疫力の低い全介助者、経管栄養、低栄養状態の利用者などの居室は、毎日ふき掃除が必要です。

②口腔ケア

口腔ケアの研修を実施して、低免疫力の利用者に対しては1日3回食後に実施します。胃瘻や鼻腔栄養など経管栄養の利用者に対しても、経管栄養実施時に1日3回実施します。

低免疫力の利用者に対する免疫力の向上対策

①低栄養状態の解消

低免疫力の利用者に対しては栄養状態が低下しないよう、栄養士が特別に栄養管理を実施します。「食事全量摂取」などと記録にありながら、半分以上食べこぼしている利用者なども散見されるので、食事介助についても、適切な介助方法のチェックを行いましょう。

②免疫力向上対策

人の免疫力を計測することは困難であり、正確には把握できませんが、次の利用者は免疫力が低いと言われています。

全介助者
自発的生活動作がないため免疫力が低下すると考えられる
低栄養状態の利用者
体力が一時的に落ちている状態
経管栄養の利用者
一般的に口から食べ物を摂取できなくなった利用者は、免疫力が低くなると言われている
糖尿病の利用者
病理的要因で免疫力が低下する

上記の利用者に対しては、できるだけ精神活動・身体活動を活発にするため、次の項目を実施します。

  • 昼間はベッド上から移動し、座位をとれる時間をできるだけ多くつくる
  • 全介助者であっても、リクライニング車イスなどを利用し、居室を出てデイルームなどですごす時間をつくり、精神活動が活発になるよう心がける
  • レクリエーションや趣味の活動なども、より活発にできるよう配慮する

「感染症防止のためにできる限り居室ですごす」という対策は、一日の生活リズムや刺激がなくなり、かえって精神活動を低下させ免疫力の低下を招くので注意が必要です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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