施設内に感染症が広まってしまったら、利用者の体力、免疫力を低下させないなど、全力をあげて重度化を阻止しなければなりません。居室配置、重症者向けの対策などをご紹介します。
利用者の居室配置にも工夫を
免疫力の低下した利用者に対して特別な配慮を行うことは必要ですが、これらの利用者を一室に集めるとなると、隔離につながる恐れがあるので注意が必要です。
しかし、胃瘻や糖尿病で明らかに免疫力が低下した利用者が、元気に歩き回る認知症の利用者と同室ではいけません。どこで居室の線引きをすればいいのでしょうか。
病院では、清潔度による区域分け(ゾーニング)を実施しています。
といった区分です。介護施設もその考えを取り入れて、数段階の居室配置を行う方法があります。
「重度化防止の備え」を解説
平常時から利用者の生活と健康状態に配慮しておくことで、いざという際の備えになります。次の3つのポイントを押さえておきましょう。
【1】体力と免疫力を低下させない生活重視のケア

日常生活習慣を継続する
低栄養を防ぐ
脱水が起こりやすい
【2】免疫力低下者への対応
免疫力が低下している利用者を平常時から把握しておく
慢性病などで 免疫力低下が明らかな利用者への対応
【3】個別疾患の抗体
どんな疾患に罹患したことがあるのか

重症者に向けた対策は?
大きくは「ウイルスを増殖させない」「低免疫力の利用者の免疫力向上」という2つの対策があります。詳細を解説していきましょう。
細菌やウイルスを増殖させない対策
①居室清掃の見直し
居室清掃は外部業者に委託している施設が多く、「清掃の内容については任せっきり」ということが少なくありません。清掃の内容をよく聞くと、床の掃き掃除は毎日でも、ベッド柵やキャビネットなどの「ふき掃除は週2回」ということもあります(きれい好きな人は毎日、ふつうの主婦でも2日に1回はリビングのふき掃除をしています)。
特に免疫力の低い全介助者、経管栄養、低栄養状態の利用者などの居室は、毎日ふき掃除が必要です。
②口腔ケア
口腔ケアの研修を実施して、低免疫力の利用者に対しては1日3回食後に実施します。胃瘻や鼻腔栄養など経管栄養の利用者に対しても、経管栄養実施時に1日3回実施します。
低免疫力の利用者に対する免疫力の向上対策
①低栄養状態の解消
低免疫力の利用者に対しては栄養状態が低下しないよう、栄養士が特別に栄養管理を実施します。「食事全量摂取」などと記録にありながら、半分以上食べこぼしている利用者なども散見されるので、食事介助についても、適切な介助方法のチェックを行いましょう。
②免疫力向上対策
人の免疫力を計測することは困難であり、正確には把握できませんが、次の利用者は免疫力が低いと言われています。
- 全介助者
- 自発的生活動作がないため免疫力が低下すると考えられる
- 低栄養状態の利用者
- 体力が一時的に落ちている状態
- 経管栄養の利用者
- 一般的に口から食べ物を摂取できなくなった利用者は、免疫力が低くなると言われている
- 糖尿病の利用者
- 病理的要因で免疫力が低下する
上記の利用者に対しては、できるだけ精神活動・身体活動を活発にするため、次の項目を実施します。
「感染症防止のためにできる限り居室ですごす」という対策は、一日の生活リズムや刺激がなくなり、かえって精神活動を低下させ免疫力の低下を招くので注意が必要です。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています