口腔ケアは、口の中を清潔に保つだけではなく、感染症の予防やQOLの維持のためにも欠かせないケアです。特に、高齢者の介護をしている方にとって、入れ歯(義歯)のお手入れ方法をしっかりマスターしておくことが大切です。当記事では義歯の付け方・外し方、義歯のお手入れの手順、注意点、そして義歯を外した後の口腔ケアについて、詳しく解説します。
前提|義歯を手入れする目的
義歯のお手入れは、主に以下のようなトラブルを防ぐこと目的としています。
高齢者は唾液の分泌が減少する傾向があるため、口腔内の細菌が繁殖しやすい状態にあります。そのうえ、ケアが行き届かず口の中が汚れていると、口腔内の環境はますます悪化してしまいます。
これらは虫歯や歯周病の原因になるだけではなく、カンジダ症などの粘膜の感染症を引き起こすこともあります。
また高齢者の場合、誤嚥をしてしまい、細菌が繁殖して炎症を起こす誤嚥性肺炎を起こすケースも少なくありません。
こうしたトラブルを減らすために、日々のこまめなお手入れがとても大切なのです。
入れ歯の付け方・外し方
それでは早速、入れ歯の具体的なお手入れ方法を解説します。まずは、部分入れ歯と総入れ歯、それぞれの付け方と外し方をチェックしていきましょう。
1.部分入れ歯
入れ歯の付け外しは、基本的に「留め具(クラスプ)」に指をかけて行います。
付けるときは、クラスプを指で持ちながら歯に当てて、位置がずれないように確認しながら、少しずつ力を加えて装着します。位置がずれてしまうと、痛みが生じたり炎症を起こしたりする危険があるため、注意深く行いましょう。
外すときは、入れ歯の下部分とクラスプを指ではさみ、他の歯や歯ぐきに刺激が加わらないようにゆっくりと取り外します。
2.総入れ歯
総入れ歯の場合は、義歯中央の前歯の部分をつまんで着脱を行います。
付けるときは、上下ともに正しい位置にはまるように、慎重に装着してください。
上の入れ歯は、口蓋部を上顎に押しつけ、吸着させるような要領ではめていきます。特に上の入れ歯は上顎を覆う面が大きく、正しい位置に付けないと嘔吐反射が出てしまうこともあるので注意しましょう。
下側を装着するときは、利用者さんに舌を少し持ち上げてもらい、隙間に滑り込ませるようにして装着します。
総入れ歯の場合、義歯が大き過ぎて口腔内に入りづらいことがあるかもしれません。その場合は、口角に指をかけて押し広げ、義歯を少し横に傾けるとスムーズに入ることがあります。
外すときは、同様に前歯の部分をつかんで行いましょう。上下ともに、義歯の後方部分を浮かすように力を加えると外しやすくなります。
入れ歯を手入れする方法
ここからは、入れ歯を手入れする方法を4つのステップで解説していきます。
[ステップ1]必要なものを揃える
入れ歯のケアに必要なものは下記のとおりです
[ステップ2]洗面器に水を入れる
まずは、洗面器に水をためておきます。これは、洗浄中にうっかり落として入れ歯を破損させたり、排水口に流してしまうなどのトラブルを防ぐためです。
入れ歯は思いのほか衝撃に弱く、洗面台に落とすと割れてしまう例も少なくありません。そのため、入れ歯の付け外しや洗浄は、必ず水を張った洗面器のうえで行うようにしましょう。
また、熱湯を使用すると入れ歯を変形させてしまう恐れがあるため、洗浄には水かぬるま湯を使うようにしてください。
[ステップ3]義歯用ブラシで入れ歯をこする
外した入れ歯を手のひらに乗せ、流水に当てながら義歯用ブラシで磨いていきます。
特に、部分入れ歯はとても繊細な構造をしているので、ゴシゴシこするのではなく、適度な力加減でやさしく磨いてください。
歯の隙間やクラスプ部分には、どうしても汚れや食べかすが詰まりやすくなりますが、汚れが残っていると虫歯や口臭の原因になってしまいます。
洗いにくい場所ではありますが、隙間にしっかりブラシを当てて、細部に入り込んだ汚れも丁寧に取り除きましょう。
歯磨き粉は使わない
入れ歯の洗浄には、歯磨き粉は使わないようにします。なぜなら、一般の歯磨き粉には研磨剤が入っており、使用すると入れ歯に傷を付けてしまう恐れがあるためです。
歯磨き粉を使わないとにおいの原因になるのでは……と思う方もいるかもしれませんが、しっかり汚れを取り除けば心配いりません。
[ステップ4]就寝前は義歯洗浄剤につける
義歯洗浄剤には殺菌や消臭の効果があり、1日1回つけ置き洗浄をすることで、よりきれいな状態を保つことができます。ブラシでのお手入れと同時に、ぜひ義歯洗浄剤の使用を日課にしましょう。
洗浄液を作る際は、水かぬるま湯を使います。ブラシでのお手入れが終わったら、就寝前に入れ歯を義歯洗浄剤に浸しておきましょう。
つけ置き洗浄が終わったら、流水でしっかりこすり洗いをしてください。取れた汚れや洗浄液が入れ歯に残らないよう、念入りに洗い流しましょう。
入れ歯(義歯)を外した後の口腔ケア
ここまで入れ歯のお手入れ方法について詳しく見てきましたが、入れ歯を外した後のお口のケアもとても重要です。
入れ歯を外したあとの口腔内のケアに必要なものは下記のとおりです。
入れ歯を外したあとはまず保湿
高齢者の口腔ケアで特に意識したいのは、口腔内の保湿です。
口の中が乾燥していると、こびりついた汚れが落としにくくなるうえに、ブラシなどの刺激で粘膜に傷が付きやすくなってしまいます。もし口腔内の潤いが足らないようであれば、ケアの前に口をゆすいでもらいましょう。
口をゆすぐのが難しい場合は、専用の保湿剤を利用する手もあります。
指やスポンジブラシ等で保湿剤を口腔内に塗り広げると、ほどよい潤いで粘膜を保護するとともに、汚れが浮きやすくなり、より安全に、そしてスムーズに口腔ケアを行うことができます。
粘膜のケアをしよう
水を含ませたスポンジブラシや、口腔ケア用のウェットティッシュを使い、下記の部分をケアしていきましょう。
スポンジブラシを使用する場合は、水を入れた容器を2つ用意しておきましょう。1つはスポンジブラシを湿らせるための容器、もう1つはこすり取った汚れをゆすぐための容器です。
スポンジに付いた汚れを片方のコップの水で洗い落とし、再びもう片方のきれいな水を付けて、口腔内を満遍なくきれいにしていきます。
ウェットティッシュは、汚れが付着したら折りたたむなどして、その都度清潔な面で拭き取るようにします。
舌は、専用の舌ブラシで舌苔を優しくこするようにして落としていきましょう。
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