当記事では、口腔ケアの事前準備として、必要な道具、姿勢の調整方法、認知症の方への声掛けを解説します。正しい口腔ケアを行い、歯周病や誤嚥性肺炎を予防しましょう。
歯や舌などの清掃をする手順は、こちらの記事で解説しています。
ステップ1 | 口腔ケアの道具を準備しよう
利用者さんの状態にあわせた道具を用意しましょう。
道具(1) | 歯や粘膜の清掃
自分の歯か、入れ歯かによっても使う道具は異なります。

道具(2) | 義歯の清掃
義歯の清掃には、下記の道具を揃えましょう。
- 義歯ブラシ・歯ブラシ
- 義歯洗浄剤
- 義歯用超音波洗浄機 ※必要に応じて
- バイトブロック ※必要に応じて
- ガーグルベースン ※必要に応じて
ステップ2 | 利用者さんに同意を得る
口腔ケア実施前には必ず声掛けをして、ケアの必要性について説明し、同意を得ましょう。認知症の方の場合は、口腔ケア自体が理解できずに拒否されてしまう場合もあります。
その場合の対処方法は、事例をもとに後述します。
ステップ3 | 利用者さんの身体の角度を調整する
利用者さんの身体の状態に応じて、身体の角度などを調整します。
体位を整える場合、利用者さんのADLや状態に応じた角度にします。口腔ケア時に排出される汚れや水分、唾液などが誤って気管に入り込まないよう、なるべく座位に近い姿勢に整えます。
利用者さんが起き上がれない方の場合、汚れや水分、唾液などが気管に入り込まないように、枕やクッションなどを活用し、首が前屈する角度や横を向いた状態に保持できるようにします。
(1)座位姿勢 | 座位保持できる方など
座位保持が可能な方などは、座位姿勢で口腔ケアを実施します。
足のつま先からかかとまでを床につくようにし、肘と膝がイラストのように90度になるようにテーブルや椅子の高さを調整しましょう。姿勢はできるだけ真っ直ぐになるようにしていただけるようにしましょう。

(2)半坐位(はんざい) | 寝たきりの方など
寝たきりの方などは、半坐位で口腔ケアを実施するのが良いでしょう。枕などを使用して、顎を引き、身体が前方にずり落ちないように工夫しましょう。

(3)側臥位(そくがい) | 片麻痺の方など
片麻痺の方は、側臥位の姿勢で口腔ケアを実施できると良いでしょう。麻痺側を上、健側を下にするようにし、足などの隙間にクッションなどを使用します。また、汚れ防止のシートを身体の下に敷くと安心です。

【事例】口腔ケアを拒否する認知症の方への対応
利用者Aさんは、アルツハイマー型認知症があります。食後の口腔ケアには、抵抗がみられ、行おうとすると歯ブラシを投げたり、噛んだり、大きな声を出したり、スムーズに行うことができません。
ポイント1 | 本人の了承を得ることが大切
口腔ケアは基本的に毎食後に行いますが、毎日決まった時間に利用者さんが口腔ケアを受け入れてくれるとは限りません。継続的に実施していくためにも、時間にこだわらず、利用者さんの気分や体調に合わせたタイミングで行うようにしましょう。
また、口腔ケアに時間をかけすぎると途中で拒否されてしまうことがあるので、なるべく短時間で行います。慣れるまでは、うがいや簡単なブラッシングから始めてもよいでしょう。
口の周囲や口のなかは敏感でデリケートであるため、いきなり口を触ると利用者さんを不快にさせたり、驚かせてしまいます。手や肩など、身体の中心から遠い部分に触れて(刺激を入れて)から、徐々に口にアプローチすることが大切です。
どうしても口腔ケアを拒否されてしまう場合には、中止して出直すようにします。口腔ケアを拒否されたときに、無理に説得したり、威圧的な態度をしてしまうと、利用者さんの拒否を強めてしまうことがあります。
コミュニケーションや前述のタッチングを行いながら、少しでも安心していただけるよう、利用者さんとしっかり信頼関係を築いていくことが大切です。
ポイント2 | 本人の気持ちや拒否する背景を知る
認知症の方は症状に個人差がありますが、介護施設にいる認知症の方の多くは、歯磨きをするという行為そのものが分からなくなっています。
そのため、介護士がいきなり口腔内に歯ブラシを入れたりすると、驚かせてしまったり、恐怖を与えてしまうことがあります。口腔は非常に敏感な部位であるので、いきなり道具を入れて認知症の方が抵抗を示すのは当然のことです。
ほかにも、口腔内に触れたときの不快感につながる理由としては、下記のようなものがあります。
利用者さんが拒否した場合、これらのトラブルを抱えているかもしれません。その原因を想定しながら根気強く関わることが大切です。
また、歯ぐきが腫れていたり、舌や口腔の粘膜に変な状態を見つけて「おかしいな」と思ったときには、歯科の診察を依頼することも重要です。
ポイント3 | 少しずつ距離を縮める
認知症の方には、毎日行うケアでも、毎回初めて実施するくらいのつもりで丁寧に説明を行いましょう。
まず、「お口の中をきれいにしましょう」と分かりやすい言葉で歯磨きすることを伝えます。そのとき、歯を磨くジェスチャーを取り入れ、視覚にも働きかけると伝わりやすくなります。
そのとき、口腔ケアに拒否するような様子であった場合には、一度椅子に座って落ち着いていただいたり、散歩をしてみたり、少し環境を変えてみることで再び反応を伺ってみます。
また、認知症の方が歯磨きをしているときの記憶を刺激するのも効果的です。洗面台の前で水道を流して水の音を聞く、歯磨きの道具を見せる、鏡に映る自分の姿を見せるなども効果的です。
その際、いきなり顔や口の中を触れないようにしましょう。顔から遠い部分から、手、腕、肩などタッチングを行い、体に触れられることに慣れながら、焦らず少しずつ進めていきます。
もし利用者さんがどうしても拒否される場合には、一度タイミングを改めて、利用者さんの気分が良いときに口腔ケアをするのも良いでしょう。

著者/中澤真弥
監修者/飯田良平
イラスト/アライヨウコ