高齢者は服用している薬が多く、間違えると危険なので管理は重要課題です。効果的な確認作業を行っている実例をまじえながら、その方法と注意点を解説します。
事故の状況説明
まずは利用者Fさんご本人と、事故発生時の状況、介護士がどう対処したかを振り返ってみます。
利用者の状況
Fさん
88歳・男性・要介護2・認知症:中程度
認知症は中程度で、高血圧症などの持病はあるものの比較的元気な利用者。もともと食が細く、非常に小柄な男性です。
事故発生時の状況および対処
PM6:30
夕食のあと、Fさんに本人の薬を飲ませたつもりでしたが、誤ってZさんの薬を飲ませてしまったことに気がつきました。 誤薬させてしまった介護士は、すぐに看護師に伝達。
PM7:00
看護師がバイタルチェックを実施。
数値に問題はなく、Fさんの意識もしっかりしていたので経過観察としました。
PM8:30
経過観察をしていたところ、突然Fさんが意識を失って倒れました。慌てて救急車を要請。
PM10:00
救急病院に運ばれて医療処置を受けましたが、駆けつけた家族に見守られながら死亡しました。
【過失の有無】事故は未然に防ぐことができたか
今回の誤薬事故で、施設側の過失はどのように判断されるでしょうか。
事故評価の基本的な考え方
薬は間違えて服用すると非常に危険なので、施設側には万全な管理体制とチェック体制が求められます。
そんななかで起こる大きな誤薬事故は、薬の確認や本人確認などに何らかの問題があることが原因です。施設側の過失を否定することは難しいと考えられます。
この事故が過失とされる場合
誤薬事故は100%施設の過失とみなされる事故です。注意しましょう。
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったのか
事故分析は、利用者側、介護職側、施設側という3方向からのアプローチ方法で行います(第15回参照)。
利用者側
介護職側
施設側
こんな原因分析はダメ!
再発防止策の検討
取り返しのつかない事故になりかねない誤薬。効果的な再発防止策としてこちら2つの実例をご紹介しましょう。
薬の取り違えを防ぐ
あるデイサービスで薬の確認の手間を大幅に減らしたのが、「ポケット付きビニールケース」の活用です。
ここでは薬入れとして、透明のビニールケースを使います。表のポケットに、利用者名と併せて薬局でもらえる薬の写真と薬剤名、薬効の一覧を切って入れておくのです。
そこに薬を入れておけば、薬に間違いがないか、薬剤名だけでなく見た目でも判断できます。
人の取り違えを防ぐ
一般的には、利用者をフルネームで呼んで確認するという対策が多いようです。しかし、認知症があると「はい」と返事をしてしまうことがあるので、あまり意味がありません。
ある認知症対応型デイサービスでは、食膳の食札に利用者の顔写真を貼って本人確認をしているそうです。
職員が写真で視覚的に確認するほうが、確実に本人であることを確認できます。
事故対応や家族への対応は適切であったか
Fさんの事例の事故対処において、たくさんの問題がありました。しかし、いちばん問題なのは、「すぐに受診させずに、看護師の判断で経過観察としたこと」です。
間違えて飲んだ薬がその利用者の体にどのような影響を与えるかを判断する行為は、看護師に許される業務の範疇を超えています。
薬の作用は非常に複雑なので、「この薬を飲んで大丈夫かどうか」を判断できるのは医者だけです。
誤薬の対処は「判断」ではなく、「診断」の域の話だと言えます。ですから、誤薬事故が起きた場合は、絶対に経過観察にはしないで即受診とするべきでした。
誤薬を防止するための一連の方法
誤薬防止のため、確認は以下の4つを一連の作業として行うことをおすすめします。
事前に薬を確認する
前もって、お薬ケースに入っている薬と、お薬ケースに貼ってある薬の内容が一致するか確認しておきましょう。
食札と薬を一致させる
食札の名前と、お薬ケースの名前を照合して、本人の薬かどうかを確認します。
本人であることを確認する
食札にある名前と、顔写真を見ながら座っている利用者の顔を照らし合わせて、本人かどうか確認します。
認知症の利用者への配慮
認知症の利用者の中には、隣の人の薬を飲んだり、自分の薬を捨てる人もいるので、見守りを強化してください。
ミスの防止と発見、この両方が大切
介護施設はたくさんの高齢者が利用しており、一人ひとりが違う薬を服用しています。誤って他人のものを飲んでしまうと、何が起こるかわからないのが薬の怖さです。
お年寄りは体力や免疫力が低下しているので、薬が効きすぎてしまうことも大いに考えられます。つまり、誤薬事故はきわめて起こりやすく、いざ発生したら非常に危険な事故なのです。
誤薬事故を防ぐには、「配薬のミスがないよう注意する」といった活動では足りません。
どんなに注意しても人間のやることですから、ミスは起こります。「ミスが起こっても、利用者の口に入る前に誤りを発見できるようなチェック体制をつくること」が大切です。
この記事を参考にしながら、誤薬事故防止の体制をしっかり整えましょう。そして、もし誤薬事故が起こってしまったら、即受診とすることが何よりも大切です。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています