ヒヤリハットの原因究明で肝心なのは、利用者、介護職、設備・用具それぞれの側の問題点を探る”3点分析”です。成功するヒヤリハット活動の基礎を学びましょう。
意見をまとめようとする会議形態は問題
ヒヤリハットの原因を分析する際に大切なのが、「結論を一つにまとめない」という点です。
「今回のヒヤリハットの原因は『介護士の気が逸れてしまい、利用者のふらつきに対応できなかった』ということでよろしいでしょうか」といった、意見をまとめるタイプの会議をよく見かけます。
しかし、事故もヒヤリハットも、一つや二つの原因では起こりません。たくさんの原因やミスが重なって、事故に結びつくのです。ですから原因究明をするときは、できるだけたくさんの観点から原因を探し出す形式にしましょう。
ケース検討会議における原因究明は、憶測や推測でも構いません。一つでも多くの可能性を考えてみることが大切です。
利用者側の原因はたくさん考えたい
上に挙げたBさんのケースで考えてみましょう。Bさんのヒヤリハットの原因を多角的に分析するには、どうしたらいいでしょうか。
原因を分析する際には、「利用者側の原因」「介護職側の原因」「設備や用具などの原因」の3つに分けて考えます。そのときに、「利用者側の原因」は意識して多く考え出すことが大切です。
利用者側の原因を究明してこれを除去できれば、職員の動き方を変えるよりも根本的な改善になります。火の消し方を工夫するよりも、そもそも火がつかないようにすれば火事は起こらないのと同じです。
では、Bさんのケースで考えてみましょう。「利用者側の原因」とは、つまり「なぜBさんは急にふらついてしまったのか」です。この段階では、上記のように根拠がない憶測でも構いません。とにかくたくさんの「急にふらつく原因」を考え出しましょう。
介護職側の原因は見つけやすい
利用者側の原因をある程度出し尽くしたら、今度は介護職側の原因を考えましょう。
このケースにおいては、「どうして介護士Cは、転ばないようにBさんを支えられなかったのか」などです。ケース検討会議は可能性を多角的に考える場なので、介護職側の原因も憶測や推測で構いません。
ただ、介護現場の職員が集まってケース検討会議を開くわけですから、介護職側のミスや原因は誰もが比較的容易に気がつきます。すると、「利用者側の原因は一つだけで、介護職側の原因ばかりいくつも挙がっている」状況に陥りがちです。
介護士のスキルアップは大切なことですが、ケース検討会議では介護職側の原因探しばかりにならないようにバランスよく考えましょう。
意外と気づかない設備や用具の原因
介護現場の事故原因として、「利用者側の原因」と「介護職側の原因」について考えてきました。これに加えてもう一つ持ってほしい視点が「設備や用具などの原因」です。
これはヒヤリハット活動を始める前に取り組むべき「危険発見活動」の内容と重なるので、問題ないはずだと思い込んで見落としがちになってしまいます。
しかし1年に1回程度行われる危険発見活動で、設備名用具について点検していても、漏れや変化があるものです。ですからヒヤリハットが起こるたびに、「環境に危険要因はなかったのか」を考える習慣をなくさないように心がけましょう。
このように三方向から事故原因を探す手法は、SHELL(シェル)モデルと言われるヒューマンエラーの分析手法を介護現場に当てはめて簡略化したものです。職広いリスクを見つけるには大変効果的な手法なので、ぜひ取り入れてみてください。
SHELLモデルとは
ヒューマンエラーや事故の原因を多角的に分析する手法です。
これらの要素のスペルの頭文字をならべて「SHELLモデル」と呼ばれます。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています