認知症とせん妄の違いを解説! せん妄の対応方法も

せん妄と認知症の違い | せん妄の症状や原因・予防策・診断のポイント

幻覚を見てしまうレビー小体型認知症とせん妄、それぞれの症状の違いをご存知ですか? この2つは間違われやすいので、介護職としては違いをしっかり分かっておきたいですよね。当記事では、せん妄とは何か、認知症との違い、せん妄の方への対応方法などを解説していきます。

【事例】認知症かせん妄か判別しづらいケース

施設入所者のAさんは、昼間はぼんやりとしていておとなしいのですが、夜になると「私のベッドの上に鳩がいる、壁や天井に蛇や虫などがたくさんいる」などの幻視を訴え、眠れず不穏になり大声を出して騒ぎだしたりして対応に困ります。

これは認知症による症状なのでしょうか? また、どのように対応すればよいのでしょうか?

【せん妄が発生した場合の事例】夜、「自分のベットの上の天井に蛇や牛がたくさんいる」といった幻視を訴えて眠ることができず、不穏になり大声を出している様子。

認知症と間違えられやすい病態「せん妄」を知る

本事例は、認知症に間違えられやすい、典型的なせん妄の症状です。せん妄は回復できる状態のものなので、その特徴をとらえて対応することが重要になります。

せん妄の症状とは?

せん妄の基本症状は、注意障害(注意力が散漫になること)を伴う軽度の意識障害です。幻覚(幻視が多い状態)や運動不穏(落ち着きがない状態)を伴う場合がしばしばあります。

発症は急激で、1日のなかでも変動しやすく、特に夕刻や夜間に増悪する(夜間せん妄)ことが多くあります。そのため夜間不眠、日中睡眠、睡眠持続の断片化(眠っている途中で目覚めやすく、深く眠れない状態)などの睡眠覚醒リズムの障害が認められるのです。

せん妄は身体疾患を合併していることが多く、薬物や環境がせん妄の発症や増悪に関連している場合がしばしばあります。

認知症との違いは?

一方で、認知症の基本症状は、記憶、認知の障害で、意識は基本的には清明(はっきりしている状態)です。

通常、症状は緩やかに進行するもので、特殊な認知症(レビー小体型認知症など)を除いては症状が1日の中で大きく変動することはありません。

多くの場合、症状は永続的に続きます。また、薬物や環境が認知症の原因となることはありません(ただし、慢性の薬物中毒が認知症の原因になることはあります)。

下の図にせん妄と認知症の違いを整理しました。

【せん妄と認知症の特徴】以下比較項目:せん妄:認知症。基本症状:注意・意識障害・しばしば幻聴、運動不穏:記憶・認知障害。発症の仕方:急激:緩徐。動揺性:多い、夕刻や夜間に多い:少ない。症状の持続:数日間~数週間:永続的。睡眠リズム障害:あり:まれ。身体疾患:多い:時にある。薬物の投与:しばしばある:なし。環境の関与:多い:なし

もし利用者さんにせん妄か認知症かわからない症状が現れた場合には、上記の点を観察したうえで専門の医師に相談すると良いでしょう。

うつ状態との違いは?

うつ状態とせん妄は間違われることもありますが、うつ状態では、やる気がなくなり、絶望感や希死念慮が出てきます

寝付きが悪くなり、中途覚醒(睡眠途中に目覚めること)がよくあります。また、もの忘れを訴えることも多くありますが、本人の訴えほど、認知機能は悪くなっていません。

せん妄が疑われたら

利用者さんにせん妄が疑われたら、専門医の診察を受け、原因を特定し、適切な治療を受けていただくことが必要です。

せん妄の診断基準としては、アメリカ精神医学会の精神障害の診断と、統計マニュアル第5版(DSM-5)が用いられることが多いです。

診断のために受ける検査としては、頭部CT・MRI、SPECT(脳血流検査)、尿検査、血液検査、心電図、神経心理学的検査、脳波検査などがあります。

幻覚を見ることのあるレビー小体型認知症との鑑別(※見分けること)が必要な場合には、123I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)心筋シンチ、ドパミントランスポーターシンチグラフィー(DAT SCAN)などの検査を行うことがあります。

せん妄と診断するポイント

  1. 注意の集中や維持に障害がある
  2. 短期間(障害は数時間から数日間)で発症し、日を通して重症度が変動する傾向がある
  3. 認知(記憶、見当識、言語、視空間能力)の障害がある
  4. の障害が認知症ではしっかりと説明できない
  5. 身体疾患、アルコールや薬物といった中毒や離脱など、ひとつまたは複数の直接的な生理学的結果によって引き起こされた証拠がある

 ……などを満たせばせん妄と診断されます。 

せん妄の原因

利用者さんに投与されている薬剤が原因のことがあります。原因となる薬剤の例として、下記のようなものがあります。

  • 睡眠導入剤
  • 抗不安薬

  • 抗精神病薬

  • 抗うつ薬

  • 抗コリン作用のある薬剤
  • オピオイド系の鎮痛薬

  • 抗ヒスタミン剤(H2ブロッカー)
  • パーキンソン病治療薬(レボドパ)

また、これらの薬剤は、せん妄が発症する前に増量していないかのチェックも必要です。そのお薬単体ではせん妄を起こさない場合でも、他のお薬と併用しているとせん妄を起こしやすくなります。

せん妄の原因となる病気は多くあります。

  • 脳血管障害
  • 熱中症などによる脱水
  • 感染症

  • 低酸素血症

  • 甲状腺疾患
  • 糖尿病

  • 腎機能障害
  • 手術後
  • 身体抑制によるストレス
  • アルコール依存症

最後の項目「アルコール依存症」によるせん妄の場合には、手のふるえなどの不随意運動がみられることがあります。

また、環境の変化がせん妄が起こすケースもあります。家のリフォーム、部屋の模様替え、家族構成の変化、入院、施設入所、訪問看護やヘルパーの出入りなどが該当します。

特に、緊急入院でICUのような特殊な環境にいた場合などに、せん妄は出現しやすい傾向があります。

せん妄が出現した際の対応法

せん妄の原因となる病気があれば、まずはその原因となった病気の治療が優先されます。原因が薬剤によるものであれば、薬剤の減量、中止を行います。

悪化因子として、環境変化があれば、できるだけ昼夜のリズムを整える工夫が重要です。痛みなどがあれば、疼痛の緩和を目指します。入院の場合などでは、早めの離床やICUからの一般病床への転棟などを配慮するようにします。

せん妄の薬物治療としては、第2世代の抗精神病薬であるリスペリドン、クエチアピン、ハロペリドールなどを、必要な場合に限り、少量投与するケースもあります。

しかし、副作用として誤嚥性肺炎や転倒への注意が必要です。点滴による治療は、暴れるような症状が出ている場合への即効的な効果が期待できます。

せん妄が起こった場合のケア方法としては、ご本人と同じ高さの目線になるように、目を見て微笑みながら、ゆっくりとはっきりとした口調で話しかけることが重要です。

穏やかに話しかけて見守ることで、ご本人に安心していただきやすくなります。

また、ご本人が話を始めたら、遮らずに聞くように心がけましょう

おかしな話や幻覚についても、単に話を合わせるのではなく、しっかりとお話を聞いてあげることが重要です。周囲の方がお話をしっかり聞くことで安心し、落ち着かれることが多くあります。 

【せん妄が発生した場合の対応方法】 視線を同じ高さにする・ゆっくりはっきり話す・話を遮らずに聞く

せん妄と認知症が合併することもよくある

せん妄と認知症は本来、別の病態なので、認知症の診断のときにはせん妄を除外するように言われています。

しかし、実際の医療、介護の現場では、認知症の人がせん妄を合併することも少なくありません。その場合も、せん妄は回復できる病態なので、せん妄の原因に対応することが重要です。

また、せん妄を起こすまで、正式に認知症と診断されていなかったというケースもあり、適切な認知症の診断、治療を受けることをおすすめします。

せん妄の予防対策

せん妄の予防には、原因となる薬剤を使用しないこと、あるいは安易に増量しないことが重要です。

また、せん妄の原因となる病気に罹患しないようにする、あるいは適切なコントロールをすることも大切です。疼痛を伴った病気であれば、痛みを治す、あるいは適切にコントロールすることが望まれます。

また、環境変化がせん妄の原因とならないように配慮し、家のリフォームや部屋の模様替えをする際には、できるだけ大きな変化にならないように工夫するのが良いでしょう。

 日々の生活習慣としては、以下のようなポイントが重要です。

  • 規則正しい生活をすること

  • 適切な栄養や水分を摂取すること

  • 身体を動かすこと
  • 睡眠を十分とって昼夜逆転を防ぐこと

  • 家族や周囲の方が積極的に話しかけること

高齢者は体調変化を自覚しにくく、脱水状態などに気づきにくいので、介護職の方は水分補給の声掛けをするように気をつけましょう。

水分補給については液体のみでなく、水分の多い果物やお菓子なども適宜活用すると良いでしょう。身体を動かす内容としては、有酸素運動(散歩など)、筋力訓練、ストレッチなどがおすすめです。

また、利用者さんの昼夜逆転を防ぐのはなかなか難しいです。そこで、おすすめなのがアロマセラピーです。

昼用アロマ(ローズマリー・カンファーとレモンのブレンド)と夜用アロマ(真正ラベンダーとスイートオレンジのブレンド)を使うことで、昼夜のリズムを作るという方法も良いでしょう。

著者/浦上克哉
監修者/佐藤眞一
イラスト/アライヨウコ

参考文献

これでわかる認知症診療~改訂第2版~』浦上克哉(南江堂、2012年)P28-29
認知症&もの忘れはこれで9割防げる!』浦上克哉(三笠書房、2017年)P96-100

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