誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん(2)アイキャッチ画像_We介護

誤嚥性肺炎はなぜ起こる?原因とリスクを解説 | 第2回「誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん」

高齢者に発症し、再発しやすい誤嚥性肺炎は命取りにもなる危険な病気です。連載第2回では『誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん』(女子栄養大学出版部)から、なぜ誤嚥性肺炎に気をつけなくてはいけないのかという理由や、誤嚥しにくい料理のレシピをご紹介します。

食べる機能の衰えが招く負の連鎖

齢(とし)をとると、脳の神経、歯、舌、のどなど、下記の図にあるような食べる行為に関わる多くの部位の働きが低下していきます

なかでも、飲み込むときに重要な働きをする舌の筋肉のカは、75歳を過ぎると急に低下が進みます

また、脳血管障害、パーキンソン病、認知機能低下、筋肉や神経の病気なども食べる機能を低下させる要因になります。そうしたことが重なって誤嚥は起こりやすくなります。

しかし、誤嚥しても、かならずしも肺炎になるわけではありません。誤嚥の際に肺に細菌が多く侵入し、しかも体の免疫力が弱っていると、肺炎を起こす危険性が高くなるのです。

高齢になると、歯の不具合や唾液の減少、歯みがきなど口の中の手入れ不足などによって、口内細菌が増えやすくなります。

また、食べる機能が衰えると食べる楽しみが減って、食欲が落ちてしまいます。すると食事量が減って水分も栄養も不足ぎみになり、免疫力も低下しやすくなります

その結果肺炎を起こすと食事がさらに制約されてしまい、体力も気力も徐々に落ちて再発をくり返す、という負の連鎖が起きて、寿命を縮めてしまうことが少なくありません。

誤嚥性肺炎の9割は高齢者

誤嚥性肺炎による死者は4万人を超え(2019年)、その9割は65歳以上の高齢者です。

統計上の死因順位は6位ですが、他の病気に誤嚥性肺炎を併発して亡くなる人も多いのです。

※『令和元年(2019年) 人口動態統計』(厚生労働省)の確定数より作図

60~80代で女性より男性の死者数が多いのは、若い頃からの喫煙習慣によって慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を患う人が多いことも一因とみられています。

誤嚥が心配。診てもらうなら何科?

摂食嚥下機能を専門に診てくれる科は、地域によって異なります。まずは内科または歯科のかかりつけの医師に症状を伝えて、相談してみてください。


そこで対応できない場合は、その地域で専門的にみてくれる医療機関で紹介してもらとよいでしょう。

誤嚥しにくい栄養充実レシピ|ロール豚の酢豚

嚥下機能が低下してごはんが食べられない、食べにくいとお困りの方のために、誤嚥しにくいレシピをご紹介します。第2回は、やわらかいのに角切り肉に負けないおいしさが魅力の「ロール肉の酢豚」です。

※ここで紹介している料理は、食べる機能の低下がまだ軽い、初期の人を対象としています。こちらのチェックリストで気になる症状が複数ある場合は、専門医に診てもらい、どのような食事の形態が適切か、指導を受けてください。

薄切り肉をくるっと巻いて焼くと、見た目は角切りの肉のようですが、サクッと噛みやすくなります。とろみのある甘酢あんで野菜も食べやすくなります。

エネルギー:325kcal
たんぱく質:14.8g
食塩相当量:2.1g

材料(2人分)

  • 豚ロース薄切り肉 ……150g
  • しょうゆ・酒……各小さじ1/2
  • かたくり粉……大さじ1
  • 玉ねぎ……1/2個
  • にんじん……1/3本
  • ピーマン……大1個
  • おろしにんにく……少量
  • サラダ油……小さじ1~2

(A)

  • 水……1/2カップ
  • 顆粒鶏がらだし……小さじ1/4
  • トマトケチャップ……大さじ2
  • 砂糖……大さじ1+1/2
  • 酢……大さじ1
  • 酒……大さじ1
  • しょうゆ……小さじ2
  • かたくり粉(倍量の水でとく)……小さじ1/3

作り方

  1. 豚肉は長さを半分に切り、しょうゆと酒をからめ、1切れずつ縦長に広げて端からロール状に巻き、かたくり粉をまぶす。
  2. 玉ねぎは横半分に切ってから2cm幅に切る。にんじんとピーマンは乱切りにし、にんじんはやわらかくゆでる。
  3. (A)を合わせておく。
  4. フライパンに油少量を熱して①の肉を入れ、全体を転がしながら焼く。中まで火が通ったらとり出し、斜め半分ずつに切る。
  5. フライパンの汚れをキッチンペーパーでふき、残りの油とにんにくを入れて熱し、香りが立ったら、②を加えていためる。(A)を加え、煮立ったら④の肉を加えて混ぜる。水どきかたくり粉を回しかけて手早く混ぜ、とろみがついてつやが出たら火を消す。
  6. 薄切り肉をくるっと巻いて焼くと、見た目は角切り肉のようですが、サクッと噛みやすくなります。とろみのある甘酢あんで野菜も食べやすくなります。

第3回は、誤嚥によってリスクが高まる『誤嚥性肺炎』のサインについて、チェックシート付きでわかりやすく解説します。お楽しみに!

監修/菊谷武
栄養・料理指導/尾関麻衣子、大場泉

※本連載は『誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん(食事療法はじめの一歩シリーズ)』(女子栄養大学出版部/2021年3月発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています。

書籍紹介

誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん(食事療法はじめの一歩シリーズ)

出版社: 女子栄養大学出版部

菊谷武(監修)、尾関麻衣子、大場泉(栄養・料理指導)
毎年正月になると、もちなどの食べ物によって窒息死する高齢者は7000人前後にものぼります。
こうした食べ物による窒息も、食べる機能の低下が一因です。
年を重ねるとともに足腰が弱るといった「傾き」のなかで、食べる機能も衰えてきます。食べる機能の衰えとともに、食べ物や唾液を誤嚥し、窒息や誤嚥性肺炎を起こす危険が高くなります。
本書は、誤嚥性肺炎にならないように、生涯おいしく食べ続けるためにはどんな「工夫」をすればよいかをお教えします。

→Amazonで購入

  • 菊谷武

    takeshi-kikuta

    日本歯科大学大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授。東京医科大学兼任教授、広島大学客員教授、岡山大学、北海道大学、日本大学松戸歯学部非常勤講師。1988年に日本歯科大学歯学部卒業後、2001年10月より日本歯科大学附属病院口腔介護・リハビリテーションセンターでセンター長を務める。同大学で2005年4月より助教授、2010年6月に大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授、2012年1月東京医科大学兼任教授に就任。2012年10月から口腔リハビリテーション多摩クリニック院長。

    ホームページ|日本歯科大学 口腔リハビリテーション多摩クリニック
    Facebook|多摩クリニック 食べるを支える
    Instagram|多摩クリニック

    菊谷武のプロフィール

フォローして最新情報を受け取ろう

We介護

介護に関わるみなさんに役立つ楽しめる様々な情報を発信しています。
よろしければフォローをお願いします。

事例で学べる介護技術の記事一覧