高齢になって食べる機能が低下すると、むせたり誤嚥するリスクが上がります。「誤嚥とはそもそもなに?」「高齢者に多いのはなぜ?」など疑問に思われる方も多いでしょう。全3回でお届けする本連載、第1回は『誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん』(女子栄養大学出版部)から、誤嚥の正しい知識や、誤嚥しにくい料理のレシピをご紹介します。
むせや誤嚥は食べる機能の誤作動
みなさんは、水を飲もうとしたときにむせることはありませんか。食事中にむせたりせき込んだりすることが増えてきたら、誤嚥をしているかもしれません。
食べる・飲み込むという行為には、脳神経や多くの筋肉が複雑にかかわっています。
食べ物や飲み物を前にすると、視覚など五感から脳に情報が伝わり、唾液や消化液が出始め、手、唇、歯、舌、頬、上あご、のどなど多くの筋肉が連動して飲食物を口からのどへ、さらに食道へと送り込みます。
この一連の動きを摂食嚥下機能(せっしょくえんげきのう)といいます。
歯で噛むことだけでなく、舌をはじめ多くの部位の筋肉が力を合わせなければ、飲み物も食べ物もうまく飲み込むことはできないのです。

- 脳
- 視覚など五感から伝わる刺激で唾液や消化液の分泌を調整し、摂食嚥下の指令を出す。
- 唇
- 飲食物をとらえて口の中に送り込み、噛むことや飲み込むことを助ける。
- 歯
- 食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせる。
- 上あご(口蓋)
- 食べ物を噛むときものどの奥に送るときも、舌と上あごの支えが不可欠。奥のやわらかい部分(軟口蓋)は飲食物が鼻に入るのを防ぐ役割がある。
- 頬
- 食べ物を噛み、まとめて飲み込むのに頬の強い筋肉も必要。
- 舌
- のどの奥につながっており、食べ物を噛むために歯の上に動かす、まとめる、のどに送り込むのに特に重要な筋肉。味覚や温度のセンサーでもある。
- のど(咽頭)
- 口から送られてきた飲食物を食道に送り込む
窒息も食べる機能の低下によって起こる
齢(とし)をとったり病気をしたりすると、摂食嚥下機能が低下して、飲食物が肺につながる呼吸の道である気管に入り込む誤作動、すなわち誤嚥が起こりやすくなります。
水などの液体は最も誤嚥しやすいものです。高齢になると、誤嚥によって誤嚥性肺炎を起こすリスクも高くなり、発症すると寿命を縮める場合が多いので警戒されています。
毎年正月になると、もちをのどに詰まらせて亡くなる人が後を絶ちません。もちなどの食べ物によって窒息死する高齢者は毎年7,000人前後にものぼります(下図参照)。

※1 『人口動態統計』(厚生労働省)より作図
※2 2017年~2019年の平均値
※3 誤嚥などによる不慮の窒息死の数値は、食べ物や嘔吐物によるもののみを集計
こうした食べ物による窒息も、食べる機能の低下が一因となっています。
食べる機能の誤作動は、命の危険と隣り合わせの問題なのです。むせはそのシグナルの一つ、ということができます。
無理して食べるのは訓練にならない
食べることでむせないように訓練をしよう、なんでも食べることが誤嚥を防ぐための一番のリハビリだ、と思っている人は多いようです。
しかし、機能の低下を無視した食べ方をしていると、誤嚥や窒息を招くおそれがあるので、断じてすすめられません。
食べる機能の訓練は、体操など、食べ物を用いない方法で行うことが安全です。
誤嚥しにくい栄養充実レシピ|ミルフィールピカタ
嚥下機能が低下してごはんが食べられない、食べにくいとお困りの方のために、誤嚥しにくいレシピをご紹介します。第1回は「ミルフィールピカタ」です。
厚めの肉が食べたいけれど噛みにくいという方に、誤嚥しにくい栄養充実レシピとしてミルフィールピカタの作り方を掲載します。
※ここで紹介している料理は、食べる機能の低下がまだ軽い、初期の人を対象としています。こちらのチェックリストで気になる症状が複数ある場合は、専門医に診てもらい、どのような食事の形態が適切か、指導を受けてください
たんぱく質やビタミンB1、骨の健康に大事なカルシウムも充実の一皿です。
エネルギー:367kcal
たんぱく質:23.9g
食塩相当量:1.4g
材料(2人分)
作り方
- 豚肉はラップの上に1枚ずつ広げ、脂肪と赤身の間の筋を切り、塩、こしょうをふる。
- 肉2枚を広げ、それぞれの上に チーズ1枚をちぎってのせ、もう1枚の肉を重ねる(肉が6枚ならチーズを半量ずつにして肉と交互に重ねる)。小麦粉をまぶす。
- 卵をといて粉チーズと塩を加えて混ぜる。
- フライパンに油を熱し、②の全体に③の卵液をからめて入れ、焦がさないように弱めの中火でじっくり焼き、薄く色づいたら裏返して同様に焼く。わきにブロッコリーを入れて焼いてもよい。
- 食べやすく切って器に持ち、ブロッコリーを添え、好みでケチャップを添える。
第2回は、誤嚥によってリスクが高まる『誤嚥性肺炎』についてわかりやすく解説します。お楽しみに!
監修/菊谷武
栄養・料理指導/尾関麻衣子、大場泉
※本連載は『誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん(食事療法はじめの一歩シリーズ)』(女子栄養大学出版部/2021年3月発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています。