【医師監修】口腔ケアの目的 | 全身の病気、認知症との関係性も解説

高齢者の方にとって口腔ケアを行う目的は、ただ単に口の中の清潔を保つだけではありません。全身にも影響を及ぼし、さらには認知症予防の効果も期待されています。今回は口腔ケアを行う目的について詳しく解説します。

なぜ口腔ケアをするの?

口腔ケアの主な目的 1.口腔内の病気を防ぐため 2.QOLi維持・向上させるため 3.全身で起こる病気を防ぐため 4.口腔内の自浄作用を促すため

口腔ケアには、口の中の病気を防ぐだけでなく、歯の喪失を防いだり嚥下機能を維持することによって、利用者さんのQOL(生活の質)を維持・向上させる役割があります。

また、誤嚥性肺炎を防ぐなど、口だけでなく全身の健康状態を維持する効果も期待できます。ほかにも口腔ケアを実施することによって、唾液などの分泌を促し口腔内を清潔に保つ自浄作用を促すことができます。

それでは一つずつ見ていきましょう。

①口腔内の病気を防ぐため

口腔内の病気の代表は、むし歯歯周病です。特に歯周病は歯を失う大きな原因のひとつです。

歯周病とは、歯と歯肉(歯ぐき)のすきまから細菌が侵入し、歯肉に炎症を引き起こします。さらに歯を支える骨を溶かしてしまうため、歯がグラつく原因になってしまいます。

むし歯と違って痛みが出ないことが多く、気がついたときには歯肉から出血が起き、自然と歯が抜け落ちるほど重症になっていることもあるのです。

むし歯と歯周病の原因となる細菌の塊は、歯垢です。歯垢は、毎日のていねいな歯みがき(ブラッシング)を行うことで除去することができます。

「自分の歯で困ることなく食事をする」ためには歯が20本必要だとされています。20本以上の歯が残っている人の割合は、高齢になるほどに減少していきます。

近年、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」を目標にかかげた「8020運動」が広がったことで、歯を大切にする方は少しずつ増えてきています。

口腔ケアを行い、むし歯と歯周病を予防することは、健康に長生きするために重要なのです。

②QOLを維持・向上させるため

前項で解説したように、口腔ケアを継続することでむし歯や歯周病を予防し、歯の喪失を防ぐことができます。

噛む(咀嚼)」「飲み込む(嚥下)」「呼吸する」「話す」「表情をつくる」ことを口腔機能と言います。

歯が失われると、咀嚼や嚥下にも影響が出てしまい、十分に食事を摂取できず、体力や免疫力の低下へつながる可能性があります。

さらに、歯を喪失し咀嚼機能が衰えれば、次第にやわらかい食べ物を好むようになります。硬いものを食べなくなって噛む回数が減れば、口の中に分泌される唾液の量も減少してしまうため、口腔内は乾燥しやすくなります。

口腔内のトラブル 高齢になるほど噛めないものがある、口がかわくなど食事にかかわるQOLが低下している傾向です
出典:『平成 28 年歯科疾患実態調査』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

唾液の量が減ると味覚が減退するので、ついつい味の濃い食品を選びがちになり、食生活が偏ってきます

また、口腔機能の低下で「話す」「表情をつくる」ことができなくなれば、コミュニケーション能力が低下し、自身が望む生活を送ることが難しくなることもあります。

口の中の清潔を保つことができれば、口腔機能の維持につながり、食べることやコミュニケーションを楽しむことができます。これらはQOLの維持や向上につながるため、口腔ケアは重要な役割を担っていることがわかります。

③全身で起こる病気を防ぐため

口腔ケアには、誤嚥性肺炎予防や糖尿病の進行を抑える効果が期待できます。

誤嚥性肺炎とは、唾液や飲食物などが誤って気管に入ってしまい(誤嚥)、細菌が繁殖して炎症を起こすために生じる肺炎のことです。

誤嚥性肺炎は、嚥下機能の低下や、咳嗽反射(がいそうはんしゃ。異物を気道外に出す咳の反射)の低下によって起こりやすくなります。食事中にむせることがありますが、あれは誤嚥した際の自然な反射運動なのです。

しかし、高齢になりこれらの機能が低下すると、むせが弱くなったり、むせなくなってしまい、誤嚥に気づかない場合があるのです。

口腔ケアを1ヵ月間行ったところ、嚥下機能と咳嗽反射の改善につながり、肺炎の発症率を抑えられることがわかった研究もあります。

このことから、口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防に大きく貢献していることが明確になりました。

また、口の中を清潔に保つことで、糖尿病の進行を抑える効果が期待できることもわかってきています。歯肉の炎症、つまり歯周病をコントロールできていれば、血糖を下げるインスリンの効果が改善でき、血糖のコントロールも良くなるとされています。

④口腔内の自浄作用を促すため

口腔ケアを行うことで、口の中を自らきれいにしようとする自浄作用を促すことができます。

唾液は、歯や口の粘膜を保護する役目と、むし歯や歯周病を予防する殺菌の成分が含まれているため、自浄作用に大きくかかわっています。

そんな大切な唾液ですが、分泌量が低下する原因としては、口腔内が不衛生であること、加齢などが考えられます。

口の中が不衛生な状態だと唾液は出にくくなり、口腔内が乾燥し、ひどくなると舌がひび割れてしまうこともあります。

また、加齢や服用薬の影響が口腔内を乾燥させることがあります。

この唾液の分泌を促進するためには、口腔ケアを実施することが効果的です。

歯ブラシなどで唾液腺を刺激することで唾液腺の働きを活発にし、唾液の分泌を促せるだけでなく、自浄作用にかかわる舌や口腔内の筋肉にも刺激を与えることができます。

口腔ケアは認知症予防の効果も期待されている

高齢者に対して行われた研究から、適切な口腔ケアを実施することで、認知機能低下の予防につながる可能性が高いとわかりました。

口腔ケアによる刺激が脳に伝えられることで、脳の活性化を促し、認知機能の低下を予防することにつながったのではないかということです。

また、噛むことは顔面や口腔を運動することであるため、脳を活性する効果があることも研究でわかっています。口腔ケアにより噛む力を維持することで、認知症を予防する効果が期待できます。

当記事では、口腔ケアのさまざまな効果を解説してきました、実際に口腔ケアを実施するときの手順については、こちらの記事『【歯科医監修】口腔ケアの手順|イラストでわかりやすく解説』もぜひ参考にしてください。

(参考)
咬合・咀嚼が創る健康長寿
Daily oral care and cough reflex sensitivity in elderly nursing home patients.
Daily oral care and risk factors for pneumonia among elderly nursing home patients.
Effect of oral care on cognitive function in patients with dementia.

著者/松井英子
監修者/菊谷武
イラスト/アライヨウコ

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