植賀寿夫さん連載「僕とお年寄りと認知症」第5回_介護の世界を変えてやる!~決意のとき~

介護の世界を変えてやる!~決意のとき | 僕とお年寄りと認知症(5)

前回は、植賀寿夫さんが大変な苦労をされて専門学校に入学したことをお伝えしました。さて今回は、専門学校時代に実習に行ったときのエピソードをご紹介します。実習先の介護施設で見た、ある光景で「介護の世界を変えなければ」と強い決意をした植さん。いったい、何を見たのでしょうか。

介護実習にて~人生初の施設介護は「ブラジャー外し」だった

専門学校ではとくに、実習でいろいろなことを学べました。今回はそのときの話をしたいと思います。

初めての実習は特別養護老人ホームでした。実習3日目だったと思います。職員さんが
「植さんも介助してみる?」
「はい、させてください」
ということで、お風呂の介助をすることになりました。

連れていかれたのは大浴場の女湯でした。ガラッと戸を開けると脱衣場があり、生まれたままの姿のおばあちゃんたちが……。そのとき、まだぼくは素人だったので、反射的に<やべえ!>と思って戸を閉めてしまいました。

「女性風呂ですけど……」
とぼくが言うと、職員さんに、
「慣れないと」
と言われ、脱衣場へ入らされました。

脱衣場に入ったはいいのですが、何をしていいかわからないので、隅に突っ立っているしかありませんでした。目のやり場にも困っていたぼくに、おばあちゃんが寄ってきて、
「これ、外して」
と言って背中にあるブラジャーのホックを示します。

ぼくの人生初の施設介助は「ブラジャー外し」でした

そして大型施設特有の入浴介助……。当時は、これに「慣れないと」と思っていました。テキパキこなしている職員を見て、「あれが『できる』職員の姿なんだ」と思ってたんです。

ですが、次の実習先で、もっと「ひどい介護」を目の当たりにして、考えが変わるきっかけになりました。

ひどい介護を目の当たりに…「絶対に変えなければ」と誓った

その老人ホームでは、リビングでオムツ交換をしていたり、お年寄りが「トイレに行きたい」と言っているのに「おむつしてるんだから、いいでしょ」と言ったり……。こんな施設があるのかと、目を疑いたくなりましたね。

見るに見かねたぼくは、他の実習生といっしょに、隠れてトイレ誘導をしました。でも、学生がそんな介助をしていることすら気づかない施設なのです。ひどいものです。

節分のイベントでは、お年寄りに豆を渡して「まいて!」と職員が指示するだけの何とも形式的なもの。楽しい雰囲気がまるでないのです。ぼくたち実習生は、目を見合わせて「こんなのないよね……」と言いました。施設に、獅子舞の獅子頭があったので、それをかぶって鬼に見立てて節分イベントを楽しいものにしようとしました。結果、お年寄りはとても楽しんでくれました。

こんな施設があるなんて、がっかりしましたよ……。そこで、介護の世界を変えてやる! と誓いました。これは、絶対に変えないとダメだって思ったのです。

ひどい介護現場を見て「介護の世界を変えてやる」と決意した植賀寿夫さんのイラスト

「実習生キラー」との対決! とにかく本音でぶつかった結果…

専門学校時代3度目の実習は、ある老健。学校では「厳しい実習先」として知られていました。なんでも「実習生キラーと言われる女性主任がいる」と……。学校で優秀な生徒が次々と送り込まれても、ことごとく厳しい評価をつけられるそうです。

ぼくは逆に<おもしろそうだな>と思い、立候補しました。

実習初日の朝9:30。テレビの前に入居者のほとんどが集められ、朝礼です。ぼくは自己紹介しました。職員さんは新聞で読んだネタなど話していました。

2日目。朝礼で急にぼくが話すことになりました。「来た!」と思いつつ、何とか無茶ぶりをうまく乗り切ろうとしましたが、うまく話せるはずもなく……。すると、「キラー」と噂される女性主任がやってきて、

「皆さ~ん。どうでした~? 今日の実習生は? 合格点あげれそうな……あげれんよねぇ」

って言うじゃありませんか。どうやったら、こんなイヤミな人間になれるのか(笑)。

悔しかったので、翌日は自分から立候補して朝礼に臨みました。

9:30、満を持して話しはじめ、10時までしゃべりまくってやりました。終わるとキラーがやってきて、「いつまで話すんですか! お茶の時間があるのよ! 考えなさい!」と一喝……。

昼休憩。「キラー」と呼ばれた女性主任は、集団を外れ一人で食べることが多い人でした。ぼくは「いいですか?」と隣に座りました。なぜか嫌いではなかったんだと思います。ぼくは実習生の宿題だったケアプラン立案の相談をしたり、キラーが自分の介護観などを話してくれて、「へええ」と頷いたりしていたと思います。

ある日、時間つぶしと実習の得点稼ぎのため居室を掃除してると、キラーが「あなたは掃除をしに来たんですか?」と一言。
カチンときたぼくは、
「いえ、実習したいんですけど、あまりに汚かったんで」
と反撃しました。実は全然キレイな居室なんですけどね……。この頃はぼくも、だいぶとがってたんですね(笑)。

すると、キラーはモップを持ってきて拭き始めました。
キラー「そんなに汚い?」
ぼく「今までの実習先の中でも一番汚いんじゃないですかねぇ」

こんな応酬がありましたが、それから何となく話しやすくなりました。それにしても、本音でぶつかったのがよかったのか、キラーは上司に「今回の実習生はイイ」と伝えて下さったそうなんです。

実習生キラーと呼ばれる女性主任とぶつかる植賀寿夫さんのイラスト

老健での入職試験、話しかけてきた気のいいおばちゃんの正体

その後、ぼくはこの老健の入職試験を受けることになりました。

試験当日のこと。筆記試験を終えたのち、面接の前にトイレの順番を待っていると、後ろに並んだおばちゃんから「試験でしょ? できた?」と話しかけられました。

ぼく「いやぁ、むずかしかったです」
おばちゃん「大丈夫よ、今からは男性職員は大事なんだから」
ぼく「そのことを、この病院がどれだけ分かってるかですよねぇ」

そして面接。面接室へ入るとさっきのおばちゃんが目の前に……。先ほどのおばちゃんは、なんと看護部長でした

ヒヤッとしましたが、なんとか合格。採用してもらえました(笑)。

採用後はデイケアに配属になり、男性が多かったこともあって本っっっっ当に仲の良い職場で、人間関係で悩むことが全くありませんでした。このときの先輩とは今でも家族ぐるみで集まります。

2年目には花の教育委員会に抜擢され、3年目に入居施設へサブリーダーとして大抜擢されて異動。何度か怒られましたけど、キラーとも仲良くやりました。

著者/植賀寿夫
イラスト/國廣幸亜

第4回を読む「介護の仕事に出会うまで~情熱の原点~
第6回を読む「養護学校のバイト体験~ぼくの介護観を変えた生徒たち

書籍紹介

認知症の人のイライラが消える接し方

「認知症の人のイライラが消える接し方」表紙イメージ

出版社: 講談社

植 賀寿夫(著)
認知症で困っているお年寄りに対して、ウソやおどかしに頼らず、心地よい関係性を構築するための上手なかかわり方、声かけの方法をわかりやすく解説した本書。介護職をはじめ、ご家族の認知症で悩んでいる方にも必読の一冊です。

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  • 國廣幸亜

    國廣幸亜

    漫画家。介護福祉士。愛知県より上京後、会社員として勤めながら漫画を投稿し、1998年に『BE・LOVE』(講談社)にてデビューする。同年には、ホームヘルパー2級(現・初任者研修)を修了し、訪問介護事業所、デイサービスなどに勤務する。2006年に介護福祉士資格を取得。

    ホームページ|漫画家國廣幸亜の公式ホームページ
    Twitter|@quniquniquni

    國廣幸亜のプロフィール

  • 植賀寿夫
    フィレール 代表

    植賀寿夫

    介護福祉士、ケアマネジャー。広島県出身。2002年に専門学校を卒業し、介護老人保健施設などで勤務する。商業施設、警察、市役所、学校などで一般向け認知症講座の講師、介護職員や介護施設の管理者を対象にしたセミナーの講師などを全国で年間30回程度勤める。

    Twitter|@w7i7wjhF2v49Nnp
    Facebook|植賀寿夫

    植賀寿夫のプロフィール

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