ケアマネジャーの植賀寿夫さんが体験した、認知症の方との寄り添いかたをご紹介する本連載。第2回は、お年寄りたちの豊かな個性とどう付き合い、何をゴールにすると良いのかを植さんに教えてもらいましょう(第1回をまだご覧になっていない方はこちらから)
「お年寄りの個性にどう付き合うか」が介護職の腕の見せ所
グループホームには個性的なお年寄りがそろっています。その個性にどう付き合うか、介護職の腕の見せ所でもあり、悩みどころでもあります。
ある日、「墓に行きたいよ」と身寄りのないおばあちゃんが言いました。
墓の場所は覚えておらず、生まれ故郷らしき「T」という地名だけは覚えています。他の職員に聞けば2年前から言っているらしい。地名を検索すると「T」は意外に近くであることがわかり、おばあちゃんに車の助手席に乗ってもらいダメ元で向かいました。実は、以前同じようなことで行きつけの美容室が見つかったことがあったので、行く価値はある!と思ったんです。
「T」に着いても本人は思い出せません。でも、おばあちゃんは珍しい苗字で、また旧姓のままだったため、区役所に行って尋ねてみると同じ姓の家が1軒「T」で見つかりました。地図や連絡先をもらえなかったので、地図を暗記してとにかく向かいました。
その家に向かっていると、これまでおばあちゃんに「家はどんなとこ?」という質問をしたときに返事に出てきた「川」や「小学校」のフレーズが景色と合致しだしたんです。
ほどなく旧家が見つかりました。離れた場所から様子を窺うと、誰かが暮らしている様子がわかりました。ですが、家の近くには墓らしきものはありません。「どうしよっか?」とおばあちゃんに聴くと「帰る……」と言うので、その日はこのまま帰ることにしました。
ついにお墓を発見!「見つかるもんだなあ」と感動(涙)
後日、住所を頼りに電話番号を調べ、かけてみました。電話に出た男性に、「介護施設の管理者の植と言います。実はこちらに……」と説明しようにも難しく、ぼくの知っているおばあちゃんのきょうだいの名前をとにかく言いました。するとやっと、共通する名前が挙がりました。
おばあちゃんの甥にあたるその人は、60年前の3歳のときにおばあちゃんに会って以来だそうです。おばあちゃんのきょうだいは、探偵に頼んでまでおばあちゃんを探していたと教えてくれました。結局見つからないまま4年前にお兄さんは他界。事情を説明すると、快くお墓の場所に案内してくれました。
お墓までは山道を行かなくてはなりませんでした。おばあちゃんは骨粗しょう症でしたが、「折れたらごめんね」とおんぶして進みます。思いのほか、おばあちゃんが重いことに驚きました。
道はぬかるんでいて本当に怖かったです。15分ほど山道を登ると……
「おばあちゃん、墓だよ!」
お墓に着いたとき、ぼくは感動していました。「見つかるもんだなぁ……」と(涙)。
「一瞬の喜びや安心を積み重ねていくこと」が大切なのでは?
3つあるお墓に丁寧に花を生けると、おばあちゃんは手を合わせました。
「さ、帰ろうや」
「えっ!?」
ぼくの感動に比べると、実にアッサリと「お参り」を終えました(笑)。まるでお墓が、入居している施設の目の前にあるかのように……。
墓参りから帰ると、職員が「よかったね~」とおばあちゃんに声をかけました。
おばあちゃん「何が?」
職員「……墓に行ったんじゃろ?」
おばあちゃん「いいや、行っとらんよ」
職員「……植さん、もう忘れてますよ」
ぼく「……!」
ぼくの疲れはピークに達しました。
しかし次の日、夜勤だった職員から「墓行ってきたんよ」とおばあちゃんがうれしそうに話してくれたとの報告がありました。それから盆やお彼岸あたりになると「墓行きたいよ」と言われ、通うようになりました。
さすがに「骨粗しょう症の人をおんぶする」のは怖かったので、知人に相談し、介護器具を探しました。山道でも登れそうな電動車椅子、江戸時代にありそうな人を運ぶ籠……そしてハッピーおがわの「おんぶラック」を知りました。何度か施設でおんぶラックを使って本人に慣れてもらってから行きました。
一時は「骨折り損だったかな?」と思ったぼくの苦労も、無駄ではありませんでした。お墓参りは、しっかりとおばあちゃんの新しい楽しみになりました。認知症でも、大切なエピソードは心に残る――おばあちゃんからまたひとつ教わった、そんな体験でした。
「すぐに忘れるから」とか言う方もおられますが、忘れるかもしれないけど、一瞬一瞬を生きておられる方に、僕たちはその一瞬を喜んでいただきたい。その一瞬の喜びや安心を積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。
著者/植賀寿夫
イラスト/國廣幸亜
第1回を読む「その人のこだわりに、こだわりたい!」
第3回を読む「最期まで『生活者』として支えたい」