こんな家族対応はトラブルの元! 対応は利用者や家族の立場になって考えよう|トラブル対策編(第54回)

こんな家族対応はトラブルの元! 対応は利用者や家族の立場になって考えよう | トラブル対策編(第54回)

利用者の家族とどのような場面でもめごとになるのか、事故対応マニュアルに入れ込みます。思わぬところにトラブルの種がたくさんあることをまずは把握しましょう。

トラブルの原因はこんなにたくさんある!

第52回「トラブルになりやすい事故への備え」において、これまで法人内で家族とトラブルになった事故を全て洗い出すことをおすすめしました。

こうした「代表的なトラブルになりやすい事故」を時系列でまとめた一例が、次の図です。

事故後に家族トラブルが発生しやすい場面の一覧

この図1を見るとわかるように、事故後はこんなにたくさんのトラブルの種が散らばっています。

こうして問題になった事故を並べてみると、事故の大きさは軽傷から死亡事故までさまざまです。

死亡事故などの重大事故が家族トラブルに発展しやすいことは、当然理解できます。では、軽傷なのに家族トラブルに発展してしまうのはどうしてでしょうか。図1では「容態確認と受診判断」が原因で起きた2つのトラブルがそれに当たるので、検証してみましょう。

看護師が容態確認を行い、受診するかどうかなどを判断するときに重視するのは「軽傷か、重症か」という医学的観点です。しかし家族にとっては、医学的観点と同じくらい感情的な観点も大切だと言えます。

たとえ医学的に見て重症でなくても、大切な家族が長時間痛みに耐えていたと知ったら「放っておかれてかわいそう」と怒りが湧くものです。痛みやかゆみなどの不快感は、利用者の気持ちになって親身に対応するよう心がけましょう。

また、顔面のケガも注意が必要です。そのケガがひざにできていれば気にしないような軽傷でも、顔面にあると痛そうに見えて家族はショックを受けます。

このように「ケガが顔面にあるので目立つ場合」や「出血が多くて大ケガに見える場合」は、家族がショックを受けやすい状況です。医学的に見て軽傷であっても、家族の感情面を考慮して受診するようマニュアルに明記するといいでしょう。

緊急時対応マニュアルはシンプルがベスト

図1でトラブルに発展したケースを見ると、トラブルの原因は大きく3つに分かれることがわかります。それが「施設側の対応に誠意が感じられない」「事故発生時の対処を明確に記録できていない」「緊急時に適切で迅速な判断と対応ができなかった」の3つです。

トラブルに発展しやすい条件と対策。施設側の対応に誠意が感じられず、不信感が生まれてしまうケース→第53回の家族対応を徹底する。事故発生時の対処を明確に記録できていないことで、信頼を失ってしまうケース。→本ページの図3を参考に、緊急時も記録をとることをマニュアルにする。緊急時に適切で迅速な判断と対応ができなかったことを、あとになって悔やむ家族から攻められるケース→本ページの図3を参考に、緊急時対応マニュアルを整備する。

1つ目の「施設側の対応に誠意が感じられない」というのは、図1の「施設管理者が病院に駆けつけていない」「搬送先で施設に過失はなかったと主張」に当たります。家族に納得してもらうためのポイントについては、すでに第53回で紹介したとおりです。これを参考に、家族対応マニュアルを作成しましょう。

2つ目の「明確に記録できていない」ためのトラブルに該当するのは、図1の「経過観察記録の開示要求」や「調査報告書の要求」などです。あとで正確な報告書を作成するためには、事故時に正確な記録を残しておく必要があります。次の例を参考に、必要な情報をマニュアル化しましょう。

【緊急時対応マニュアル(一例)】誤嚥事故対応マニュアル:利用者誤薬→看護師に報告し、誤薬した薬の内容を確認→相談員に連絡→相談員から家族に連絡し、報告→医療機関を受診し、医師の指示をあおぐ。→指示内容を看護師が実施→相談員から家族に連絡し、一連の内容を説明する→相談員が市町村の担当課に事故報告書を提出する。夜間に利用者の容態が急変した場合は…(生死にかかわるとき)容態急変を認知したら、夜勤者パートナーやほかのフロアの夜勤者と状況を判断し、バイタルチェックをする。(体温・血圧・脈拍などを確認し、カルテに記入)→利用者を静養室に移動させる→気道確保(枕を外し、のどを上にひいて、気道確保、または)→酸素2リットル吸入。心肺停止の場合は心肺蘇生開始→医務室カウンターにあるカルテを見る。最初のページに書いてある搬送先を確認。→救急車要請(119に電話。要請時間、到着、出発、病院到着の時刻を記録する。)→搬送先の病院に電話し、救急外来につないでmろあう。利用者ID(診察券番号)がカルテの最初のページに書いてあるのでそれを伝え、状況報告とこれから緊急搬送することを伝える。→医師・相談員・施設管理者に報告する。守衛に連絡し、正門・正面玄関をあけてもらい、救急車の誘導を依頼する→救急車到着。看護師がいれば看護師が、間に合わなければ夜勤の介護職が同乗する。医務室より利用者のカルテを持参する。連絡用の現金も持参する。※パートナーの夜勤者とよく話し合って連携を取り、冷静に行動してください。※時間の記録をその都度しっかりとってください。

3つ目の緊急時の判断は、非常に難しい問題です。図1では、「救急車の要請が遅れて死亡」や「誤薬後に経過観察をして死亡」に当たります。つまり緊急時の対応というのは、判断を間違えれば命に関わるようなデリケートな問題です。上の図3を参考に「緊急時対応マニュアル」を作成し、経験の浅い職員でも対応できるように準備しておきましょう。

緊急時対応マニュアルは、シンプルがいちばんです。緊急事態で焦っているときに、長々とした文章を読む余裕はありません。「やるべきこと」の動作を具体的に、順番通りに記載するようにしましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部をあ抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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