利用者の家族とどのような場面でもめごとになるのか、事故対応マニュアルに入れ込みます。思わぬところにトラブルの種がたくさんあることをまずは把握しましょう。
トラブルの原因はこんなにたくさんある!
第52回「トラブルになりやすい事故への備え」において、これまで法人内で家族とトラブルになった事故を全て洗い出すことをおすすめしました。
こうした「代表的なトラブルになりやすい事故」を時系列でまとめた一例が、次の図です。
この図1を見るとわかるように、事故後はこんなにたくさんのトラブルの種が散らばっています。
こうして問題になった事故を並べてみると、事故の大きさは軽傷から死亡事故までさまざまです。
死亡事故などの重大事故が家族トラブルに発展しやすいことは、当然理解できます。では、軽傷なのに家族トラブルに発展してしまうのはどうしてでしょうか。図1では「容態確認と受診判断」が原因で起きた2つのトラブルがそれに当たるので、検証してみましょう。
看護師が容態確認を行い、受診するかどうかなどを判断するときに重視するのは「軽傷か、重症か」という医学的観点です。しかし家族にとっては、医学的観点と同じくらい感情的な観点も大切だと言えます。
たとえ医学的に見て重症でなくても、大切な家族が長時間痛みに耐えていたと知ったら「放っておかれてかわいそう」と怒りが湧くものです。痛みやかゆみなどの不快感は、利用者の気持ちになって親身に対応するよう心がけましょう。
また、顔面のケガも注意が必要です。そのケガがひざにできていれば気にしないような軽傷でも、顔面にあると痛そうに見えて家族はショックを受けます。
このように「ケガが顔面にあるので目立つ場合」や「出血が多くて大ケガに見える場合」は、家族がショックを受けやすい状況です。医学的に見て軽傷であっても、家族の感情面を考慮して受診するようマニュアルに明記するといいでしょう。
緊急時対応マニュアルはシンプルがベスト
図1でトラブルに発展したケースを見ると、トラブルの原因は大きく3つに分かれることがわかります。それが「施設側の対応に誠意が感じられない」「事故発生時の対処を明確に記録できていない」「緊急時に適切で迅速な判断と対応ができなかった」の3つです。
1つ目の「施設側の対応に誠意が感じられない」というのは、図1の「施設管理者が病院に駆けつけていない」「搬送先で施設に過失はなかったと主張」に当たります。家族に納得してもらうためのポイントについては、すでに第53回で紹介したとおりです。これを参考に、家族対応マニュアルを作成しましょう。
2つ目の「明確に記録できていない」ためのトラブルに該当するのは、図1の「経過観察記録の開示要求」や「調査報告書の要求」などです。あとで正確な報告書を作成するためには、事故時に正確な記録を残しておく必要があります。次の例を参考に、必要な情報をマニュアル化しましょう。
3つ目の緊急時の判断は、非常に難しい問題です。図1では、「救急車の要請が遅れて死亡」や「誤薬後に経過観察をして死亡」に当たります。つまり緊急時の対応というのは、判断を間違えれば命に関わるようなデリケートな問題です。上の図3を参考に「緊急時対応マニュアル」を作成し、経験の浅い職員でも対応できるように準備しておきましょう。
緊急時対応マニュアルは、シンプルがいちばんです。緊急事態で焦っているときに、長々とした文章を読む余裕はありません。「やるべきこと」の動作を具体的に、順番通りに記載するようにしましょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部をあ抜粋して掲載しています