利用者の家族とトラブルになりやすい事故とは? 傾向を把握して対策を立てるコツ|トラブル対策編(第52回)

利用者の家族とトラブルになりやすい事故とは? 対策を立てるコツを紹介 | トラブル対策編(第52回)

家族とのトラブルにならないように、段階を踏んで対策を立てましょう。特に、キーパーソンと身元引受人が違う場合はトラブルが起こりやすいので要注意です。

STEP1:まずは法人内での情報収集からはじめよう

介護事故が起こったときに行うべき最低限の家族対応ができるようになったら、今度はトラブルになりやすい事故に対して備えましょう。

トラブルになりやすい事故に対して一から対策を立てる場合、いったい何から手をつけたらいいのでしょうか。まずは、「どういう事故が家族トラブルにつながりやすいのか」を把握する必要があります。

それには施設や部署の枠組みを超えて、法人内で今まで家族トラブルにつながった事故の報告書を全て集めることです。それらを見比べていると、共通点やトラブルにつながりやすいポイントが見えてきます。ポイントが見えてくれば、対策も立てやすくなるものです。

新しい法人であまり事例が集まらない場合などは、スタッフにアンケート調査をする方法もあります。ほかの施設で経験した家族トラブルや、今までの困った経験などを集めれば貴重な資料となるでしょう。

【家族とのトラブル防止対策、まず何からやればいいの?ステップ1:トラブルになりやすい事故を把握する】法人内のすべての部署で、今まで家族トラブルにつながってしまった事故の報告書を集めて検証する。事故報告書に内容なことで、今まで家族との間で困ったことについて職員からアンケートをとる

STEP2:施設内の「横の連携」を確認する

続いて、それらの情報をもとに、「家族対応マニュアル」の充実を図ります。

家族トラブルへの対応は、施設内における横の連携が重要です。相談員が1人で頭を抱えているようではいけません。相談員施設長介護主任看護師の四者がそれぞれの立場と知識を活かして、家族に納得してもらえるよう協力する体制を整えましょう。

四者の連携を整えるには、まずはそれぞれの役割と重要性の確認が必要です。次の図を参考にしながら、事故が起きた際にどの部分に誰が責任を持つのかを明記しましょう。

【家族とのトラブル防止対策、まず何からやればいいの?ステップ2:幹部の連携について確認する】問題は一人で抱え込まない。幹部はそれぞれの役割において、施設全体のために協力すべきだと認識すること

四者の役割について個別に説明していきましょう。

まず、「相談員」の役割はこちらです。

  • 入所時に施設生活やリスクの説明、事務的な手続きを行う(このときに、事故に関する基礎知識や施設に対するよい印象を持ってもらえるように努める)
  • 事故が起こった場合は、書類の作成やとりまとめ、弁護士や保険会社との交渉などの事務的 作業は積極的に引き受ける

  • 家族とのトラブルが起きた際の総合窓口を担当する

  • ほかの施設のトラブル情報などを把握するよう努める

続いて、「介護主任」の役割はこちらになります。

  • トラブルの原因からケース別のトラブル対策案など、現場の意見や経験をもとに話し合う中心となる

  • 事故原因の分析と再発防止策の説明方法などについてしっかり体系化し、現場に伝えるパイプ役となる

  • 相談員にトラブルが持ち込まれたら、現場の状況把握や説明などに積極的に協力する

次は「看護師」の役割です。

  • 事故状況の検証などに立ち会い、医療的な観点からの意見を伝えるようにする

  • 転倒事故などでの経過観察方法や観察記録方法の明確化などを中心になって考え、とりまとめに協力する
  • 医師から説明を聞き、現場や事故処理の担当者に医学的観点からわかりやすく伝えるよう努力する

最後に、「施設長」の役割はこちらです。

  • 実際に事故が起こった際は、なるべく早く現場に駆けつけてスタッフから詳しい話を聞き、そのうえで家族にていねいに説明する

  • 基本的にはその後の対応や家族に対する報告などは、施設長が前面に立って行うようにすると家族の心証がいい

STEP3:キーパーソン、身元引受人への対応に気を付ける

トラブルになりやすい事故への備えとして、盲点なのが「キーパーソンへの対応」です。

施設に入所する際には、家族の中から身元引受人を選びます。これはおもに利用者の代理人の役割を担う人物で、多くの場合は配偶者や実子です。

一方で、入所する際には緊急連絡先となる家族を数名書いてもらいます。この緊急連絡先の1番目に名前が載っている人がキーパーソンです。キーパーソンには日常の細々とした連絡をし、緊急事態の際には真っ先に連絡を入れます。

この身元引受人とキーパーソンが同一人物の場合は、問題ありません。気をつけなければいけないのは、身元引受人とキーパーソンが違う場合です。

【家族とのトラブル防止対策、まず何からやればいいの?ステップ3:キーパーソン以外の重要人物を把握する】キーパーソンの対応だけで安心していると、身元引受人とトラブルになることも。

実際には、身元引受人は会社勤めなどをしている長男で、キーパーソンはその奥様というケースが多く見受けられます。利用者に対してもっとも強い思いがあるのは長男なのに、日頃は仕事で忙しいので細かい対応を妻に任せているというパターンです。このケースだと、一般的に施設はキーパーソンである奥様と人間関係を築きます。

しかし、奥様は身元引受人とは違って決定権がありません。そのうえ、在宅で介護の苦労を経験しているので、「施設にお世話になっている」という意識が強くなりがちです。このような奥様は、施設に対して物わかりがいいため、施設は「関係良好」と安心してしまいます。

ところが、いざというときに重要な決定を行うのは身元引受人である長男です。事故の説明や過失による補償などの重要な話を、日頃から連絡をとり合っている奥様だけにしてはいけません。身元引受人である長男は、施設のこの態度から、自分をないがしろにしている印象を受けてしまいます。

重要な局面で身元引受人を軽視しないよう、十分注意しましょう

【事例で解説】キーパーソンと身元引受人が違う場合の対応方法

ここからは、事例をもちいて「キーパーソンと身元引受人が違う場合の事故対応方法」を解説していきます。

【事例】転倒事故で骨折した利用者Aさんのご家族の場合

入所したばかりの認知症の利用者さんが転倒してしまっているイラスト

特養に入所して間もないAさん(男性90歳)には認知症があり、転倒しているところを発見されました。大腸骨を骨折しており、入院と手術が必要とのことです。

転倒事故の説明をキーパーソンに報告しているイラスト

事故に対して、キーパーソンである息子さんの奥様は「家でも何度も転倒していたので仕方がない」と理解してくれたのですが……。

転倒事故に対して苦情を言う身元引受人の長男のイラスト

事故後最初の土曜日に、突然、長男が施設に怒鳴り込んできました。「納得できない。ちゃんと見守ってくれれば事故は防げたはずだ」とのことでした。相談員が「防ぐことが難しい事故でした」とていねいに説明しましたが、長男は国保連に苦情を申し立てました。

身元引受人への適切な対応方法を確認

この事例への適切な対応方法としては、次の4つが考えられます。ひとつずつ解説していきましょう。

キーパーソンと身元引受人が違う場合はチェックしておく

資料を色分けして、要注意点をわかりやすくする介護職員のイラスト

日常において施設と家族との間で連絡窓口になっている人と、身元引受人が違う場合は要注意です。いざというときにすぐにわかるよう、あらかじめ資料を色分けするなどの工夫をしておきましょう。

キーパーソンの立場を理解する

キーパーソンと話をする介護職員のイラスト

キーパーソンは家族の中で、もっとも施設に対して強い要求がしにくい立場の人と言えます。日頃施設に対してお世話になっているという意識が強いうえに、入所を拒否されたら、いちばん困るのは在宅で介護をする奥様だからです。

本当に信頼関係を築くべき相手は身元引受人のほう

身元引受人とキーパーソンが話しているところを介護職員が見ているイラスト

日頃キーパーソンとばかり信頼関係を築いて「家族との人間関係づくりはできている」と思っていては危険です。いざというときに重要な決定を行うのは身元引受人ですから、日頃から身元引受人にも信頼してもらう努力をしましょう

事故時だけでなく、その他の重要な局面でも身元引受人に説明を

身元引受人にていねいな説明をおこなう介護職員のイラスト

終末期のケア、体調や身体機能の著しい変化、長期入院による退所、感染症への感染、施設利用の自己負担金の変更などの重要な局面では、キーパーソンだけでなく必ず身元引受人に対してもていねいな説明を行いましょう

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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