家族とのトラブルにならないように、段階を踏んで対策を立てましょう。特に、キーパーソンと身元引受人が違う場合はトラブルが起こりやすいので要注意です。
STEP1:まずは法人内での情報収集からはじめよう
介護事故が起こったときに行うべき最低限の家族対応ができるようになったら、今度はトラブルになりやすい事故に対して備えましょう。
トラブルになりやすい事故に対して一から対策を立てる場合、いったい何から手をつけたらいいのでしょうか。まずは、「どういう事故が家族トラブルにつながりやすいのか」を把握する必要があります。
それには施設や部署の枠組みを超えて、法人内で今まで家族トラブルにつながった事故の報告書を全て集めることです。それらを見比べていると、共通点やトラブルにつながりやすいポイントが見えてきます。ポイントが見えてくれば、対策も立てやすくなるものです。
新しい法人であまり事例が集まらない場合などは、スタッフにアンケート調査をする方法もあります。ほかの施設で経験した家族トラブルや、今までの困った経験などを集めれば貴重な資料となるでしょう。

STEP2:施設内の「横の連携」を確認する
続いて、それらの情報をもとに、「家族対応マニュアル」の充実を図ります。
家族トラブルへの対応は、施設内における横の連携が重要です。相談員が1人で頭を抱えているようではいけません。相談員、施設長、介護主任、看護師の四者がそれぞれの立場と知識を活かして、家族に納得してもらえるよう協力する体制を整えましょう。
四者の連携を整えるには、まずはそれぞれの役割と重要性の確認が必要です。次の図を参考にしながら、事故が起きた際にどの部分に誰が責任を持つのかを明記しましょう。

四者の役割について個別に説明していきましょう。
まず、「相談員」の役割はこちらです。
続いて、「介護主任」の役割はこちらになります。
次は「看護師」の役割です。
最後に、「施設長」の役割はこちらです。
STEP3:キーパーソン、身元引受人への対応に気を付ける
トラブルになりやすい事故への備えとして、盲点なのが「キーパーソンへの対応」です。
施設に入所する際には、家族の中から身元引受人を選びます。これはおもに利用者の代理人の役割を担う人物で、多くの場合は配偶者や実子です。
一方で、入所する際には緊急連絡先となる家族を数名書いてもらいます。この緊急連絡先の1番目に名前が載っている人がキーパーソンです。キーパーソンには日常の細々とした連絡をし、緊急事態の際には真っ先に連絡を入れます。
この身元引受人とキーパーソンが同一人物の場合は、問題ありません。気をつけなければいけないのは、身元引受人とキーパーソンが違う場合です。

実際には、身元引受人は会社勤めなどをしている長男で、キーパーソンはその奥様というケースが多く見受けられます。利用者に対してもっとも強い思いがあるのは長男なのに、日頃は仕事で忙しいので細かい対応を妻に任せているというパターンです。このケースだと、一般的に施設はキーパーソンである奥様と人間関係を築きます。
しかし、奥様は身元引受人とは違って決定権がありません。そのうえ、在宅で介護の苦労を経験しているので、「施設にお世話になっている」という意識が強くなりがちです。このような奥様は、施設に対して物わかりがいいため、施設は「関係良好」と安心してしまいます。
ところが、いざというときに重要な決定を行うのは身元引受人である長男です。事故の説明や過失による補償などの重要な話を、日頃から連絡をとり合っている奥様だけにしてはいけません。身元引受人である長男は、施設のこの態度から、自分をないがしろにしている印象を受けてしまいます。
重要な局面で身元引受人を軽視しないよう、十分注意しましょう。
【事例で解説】キーパーソンと身元引受人が違う場合の対応方法
ここからは、事例をもちいて「キーパーソンと身元引受人が違う場合の事故対応方法」を解説していきます。
【事例】転倒事故で骨折した利用者Aさんのご家族の場合
特養に入所して間もないAさん(男性90歳)には認知症があり、転倒しているところを発見されました。大腸骨を骨折しており、入院と手術が必要とのことです。
事故に対して、キーパーソンである息子さんの奥様は「家でも何度も転倒していたので仕方がない」と理解してくれたのですが……。
事故後最初の土曜日に、突然、長男が施設に怒鳴り込んできました。「納得できない。ちゃんと見守ってくれれば事故は防げたはずだ」とのことでした。相談員が「防ぐことが難しい事故でした」とていねいに説明しましたが、長男は国保連に苦情を申し立てました。
身元引受人への適切な対応方法を確認
この事例への適切な対応方法としては、次の4つが考えられます。ひとつずつ解説していきましょう。
キーパーソンと身元引受人が違う場合はチェックしておく

日常において施設と家族との間で連絡窓口になっている人と、身元引受人が違う場合は要注意です。いざというときにすぐにわかるよう、あらかじめ資料を色分けするなどの工夫をしておきましょう。
キーパーソンの立場を理解する

キーパーソンは家族の中で、もっとも施設に対して強い要求がしにくい立場の人と言えます。日頃施設に対してお世話になっているという意識が強いうえに、入所を拒否されたら、いちばん困るのは在宅で介護をする奥様だからです。
本当に信頼関係を築くべき相手は身元引受人のほう

日頃キーパーソンとばかり信頼関係を築いて「家族との人間関係づくりはできている」と思っていては危険です。いざというときに重要な決定を行うのは身元引受人ですから、日頃から身元引受人にも信頼してもらう努力をしましょう。
事故時だけでなく、その他の重要な局面でも身元引受人に説明を

終末期のケア、体調や身体機能の著しい変化、長期入院による退所、感染症への感染、施設利用の自己負担金の変更などの重要な局面では、キーパーソンだけでなく必ず身元引受人に対してもていねいな説明を行いましょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています