事故後の家族対応で「やるべきこと」をマニュアル化しておこう!基本的な流れを解説|トラブル対策編(第53回)

事故後の家族対応で「やるべきこと」をマニュアル化しておこう!基本的な流れを解説 | トラブル対策編(第53回)

通常、介護事故が起こったあとは、どのようなことを心がければいいのでしょうか。場当たり的な対応はNG。あらかじめ「やるべきこと」をマニュアル化しておき、それに沿って行動し、利用者や家族を安心させることが大切です。

利用者や家族が納得する対応手順とは?

前回までのテーマは「事故をめぐる家族トラブルの急増」でした。介護事故が家族トラブルに発展するポイントについて、詳しく紹介してきました。

ここからのテーマは「事故後家族対応マニュアルの実際」です。介護事故が起きた際の家族対応について、具体的に見ていきましょう。

事故が起こった際の具体的な流れをまとめたのが、こちらのチャートです。

【やるべきことを時系列で見ていくと】1)施設内の速報:現場職員から相談員や施設管理者に対して報告をします。2)家族への第一報:現場職員から相談員や施設管理者に対して報告をします。3)事故直後の家族への説明:事故発生の状況や石からの説明など、今わかっていることを家族に伝えます。4)利用者の生活復帰に対する協力:利用者が生活復帰を果たすために施設は何ができるかを話し合います。5)事故状況再検証:事故の翌日には現場検証を行い、事故を詳しく調査します。6)自治体への報告:自治体に報告をします。7)調査報告書作成:5日程度十分時間をかけて、書類にまとめます。8)保険会社への報告:施設が契約している保険会社に連絡します。

事故発生時は現場はバタバタしますから、「次に何をするべきか」をあらかじめ決めておく必要があります。こうしたマニュアルがないと場当たり的な対応になってしまい、家族対応に不手際が起こってしまうものです。

事故後の家族対応で注意するべきポイント

前章でご紹介した事故後の家族対応の流れにおいて、注意するべきポイントをまとめました。上のチャート図と合わせてご一読ください。

①施設内の速報

  • 現場で事故対処に関わった職員から相談員やケアマネジャー、施設管理者などに事故報告を入れる
  • ここでの報告は急ぐので、口頭で行う

  • 内容、時間、場所などを詳しく伝える

②家族への第一報

介護事故発生時に、家族に電話連絡をしている介護職員のイラスト
  • 受診の前に必ず家族に連絡を入れ、受診の了解を得る(救急搬送を除く)

  • この電話で伝えるのは、本人の状態、受診の判断のみとする
  • 詳しい事故報告は受診後に行う旨を伝える

③事故直後の家族への説明

事故の詳細は改めて説明すると伝える介護職員のイラスト
  • 入院を要する事故の場合、相談員だけでなく施設管理者も病院に急行する
  • 現場職員からの報告と医師から受けた説明を、施設管理者から家族に説明する

  • 事故原因や過失の有無など、事故の詳細については後日あらためて行うことを約束する(事故後1週間~10日以内)

④利用者の生活復帰に対する協力

  • 職員・医師・ケアマネジャーで、今後の治療方針や対応方法などについてよく話し合う
  • 利用者や家族は、起きてしまった事故に対する不満だけでなく、今後の「不安」が大きいことを理解する
  • 生活復帰に対して施設ができることを積極的に提案し、サポートする姿勢を見せて安心してもらう

⑤事故状況再検証

  • 施設管理者は現場職員に対し、事故調査と報告書の提出を指示する

  • 家族への報告を考え、期限は事故後5日程度

  • 報告内容は以下の5点

    ・事故前の利用者の様子

    ・事故の発生状況

    ・事故発生時の対処

    ・事故原因

    ・再発防止策

  • 事故状況が不明でも、状況を推定して必ず上記5点を洗い出す

⑥自治体への報告

介護事故の報告書のイラスト
  • 事故が起きた場合は、自治体に迅速(2日以内)に報告する

  • 「速報」と「詳細」に分ける場合、詳細には「原因」や「再発防止策」を明記する

⑦調査報告書作成

日ごろから相談できる弁護士を決めておきましょう
  • 現場が提出した報告書をもとに、施設の過失の有無について判断する

  • 責任の所在の判断が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談する
  • 弁護士に相談した場合、家族への事故説明の際に弁護士の氏名を必ず伝える

⑧保険会社への報告

  • 保険会社に対しては事故後すぐに連絡を入れ、少しでも過失があると思ったら補償内容を担当者と話し合う

⑩利用者宅にて家族との面談

介護事故の説明・報告・相談をするために利用者宅を訪れる施設管理者、相談員、介護主任のイラスト
  • 家族に最終的な説明・報告・相談をするために、施設管理者(場合によっては相談員、もしくは現場の介護主任も同行する)が利用者宅を訪問する

家族が安心できるかどうかは事業者側の対応しだい

介護事業者側にまず理解してもらいたいことは、事故が起こったことで、家族は「今後どうなってしまうんだろう」という強い不安の中にいるという点です。

そんなときに施設側が中途半端な說明しかしないと、家族は「こちらから何か言わないと、そのままにするつもりなんじゃないだろうか」などと、疑心暗鬼になってしまいます。一度家族にこうした不信感を与えてしまうと、あとになって信頼を回復するのは非常に困難です。

家族に安心してもらうためには、「正式な調査結果や補償の話は、10日後に行います」といったように、今後の経過について、家族に聞かれる前に提示する必要があります。そして、仮に10日後に家族に説明を行うためには、現場の事故原因の調査は4~5日以内に完了しなければ間に合いません。

家族の不安を和らげる対応をするためには、何よりも事業者側が対応手順を明確にして行動することが大切です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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