拘縮で関節が固まっている利用者さんの排泄介助や更衣介助に苦労している介護職の方は、多いのではないでしょうか?正しい関節の動かし方をすることで、利用者さんも介護職も負担をすることができます。
【事例1】拘縮でおむつ交換が難しい利用者Aさん
利用者Aさんは、手足が拘縮により屈曲してしまっています。
脳血管障害などの既往歴はありませんが、日常生活全般に介助が必要な状態です。
立ったままの状態でいるのも難しいAさんは、トイレに移動して排泄介助をすることができないので、ベッド上でおむつ交換を行っています。
また、股関節が開きにくく、両足の膝が内側に強く押し合ってしまっているため圧迫されて発赤(ほっせき)も起きています。より股関節を開きやすくするには、どうしたらよいのでしょうか?
おむつ交換のコツ | 股関節はまず曲げる
これまで介護現場では、拘縮予防のために、曲がってしまう足は伸ばして、閉じてしまう股関節は開こうとしてきたと思います。
しかし、その方法では筋肉がより緊張してしまい、拘縮が進んでしまうケースも少なくありません。
股関節を開きたいときには、伸ばすのではなく、曲がる方向に動かすことがポイントです。
股関節を開く4つのステップ
仰向けに寝ている方の股関節を開く方法を、イラストをもとに解説します。
- ステップ1 | 膝と股関節を曲げる
- 仰向けに寝ている利用者さんの股関節を開く場合、まずは膝と股関節を曲げてみましょう。 曲げることによって利用者さんの背中がそりにくくなり、背中とマットレスの隙間がなくなるので、体が安定しやすくなります。 よって、利用者さんの筋の緊張を低下させることができます。
- ステップ2~3 | 片足ずつ膝を閉じてかかとを離す
- 次は片足ずつスライドして外側へと動かします。こうすることで、股関節の筋肉を内もも側に回すように動かすことができ、筋肉を緩ませることができます。
- ステップ4 | 股関節を開く
- 最後に、膝を両側に開くようにして、股関節を開きましょう。 排泄介助のときなどにも、より負担がなく股関節を開きやすくすることができます。
拘縮予防と褥瘡予防を両立させよう
ここまでに解説したように、利用者さんの膝を曲げると体が安定し、筋緊張を低下させることができるので、拘縮を予防する効果があります。
しかし、その姿勢によって仙骨(骨盤の中心部にある骨)あたりの圧が高まって、褥瘡のリスクが上がると問題です。
足全体をクッションなどで支えることによって、仙骨部の圧を減らすことができます。つまり、拘縮と褥瘡の両方の予防を行うことができます。
寝ている利用者さんの両足は、ベッドに接する全面をなるべく柔らかすぎないクッションで支えるようにすることで、筋緊張を低下させる効果があります。
膝裏にあえてクッションを置かずにスペースを作った方が良いという意見もありますが、スペースを作ると脊椎のねじれなどによって、利用者さんが痛みを感じ、全身の緊張を高めやすくなります。そのため、膝裏も支えるようにした方が効果的です。
【事例2】拘縮で更衣介助が難しい利用者Bさん
利用者Bさんは、自分でも肩関節が動かしにくく、介護者もケアするときになかなか脇が開かず困っています。
特に、上半身の更衣介助が行いにくい状態で、上着やシャツの着脱に苦労しています。
拘縮の方に更衣介助するときの注意点
利用者さんに痛みを与えてしまう強引な介助は、利用者さんの体の筋緊張を高めてしまい、拘縮を進めてしまう可能性があります。
特に、強引な介助になりやすいのは、上半身の服の更衣介助です。
服には「かぶり式」と「前開き式」がある
利用者さんの服の形状には、かぶり式と前開き式があります。
かぶり式の場合は、肩関節を90度近く動かせる利用者さんでないと服を着ていただくことは難しいです。
前開き式の場合は、肩関節を20度~30度ほど動かすことができれば、介助の負担を少なく着せることができます。
大きめの服は褥瘡のリスクを上げる
更衣介助を楽にするために、「服を大きめのものにする」という方法もありますが、服にしわやズレが生じやすく、褥瘡のリスクも高まります。
ベッドで横になっているときや、リクライニング車椅子に座るときには、背中など体の下側に生じる衣服のしわやズレに気を付けましょう。
更衣介助のコツ | 拘縮で固まった肩の動かし方
肩関節の動かし方は、事例1で解説した股関節の動かし方と、基本的な考え方は同じです。
肩関節(脇)を開きたいとき、まずは肘を内側にゆっくりと動かしてから、外側に動かすようにします。下記のイラストを参考にしてください。
人の体の仕組みとして、肘を内側へ動かすと肩甲骨は外転し、肘を外側に動かすと肩甲骨は内転します。
よって、肘を内側に動かすことによって、筋緊張を低下させることができるのです。
もし肘が後方に引かれている状態の方であれば、肘を少し前方に動かすだけでも肩甲骨は外側に移動するため、利用者さんの負担軽減につながります。
片麻痺の方と寝たきりの方の肩甲骨は中心に寄りやすい
脳卒中による片麻痺によって腕が曲がっている状態の方の場合、神経のつながりによって肩甲骨が背中の中心に寄りやすくまります。
また、寝たきりの方も、背中の抗重力筋(重力に逆らって姿勢を保つための筋肉)の緊張が高まって、肩甲骨が背中の中心に寄りやすい状態です。
こういった場合には、先述したように肩甲骨を動かせば、腕の筋緊張を低下させることができます。
脇にクッションは差し込まない
利用者さんの脇を開いて脇にクッションを挟むと、逆に肩甲骨を内側に移動させることになります。すると上肢全体の緊張を高めてしまい、拘縮を進めることになりますので、行わないように気をつけましょう。
【事例3】拘縮で手指が開かない利用者Cさん
利用者Cさんは、手を強く握りこんでしまうため、手のひらが湿っており、臭ってしまう状態です。また、爪も手のひらに食い込んでしまい、傷になっています。
手を清潔に保つため、介護職が指を広げて、利用者さんに握らせる専用のクッションなどを使っていますが、握り込みは少しずつ強くなってきています。
まずは肘を内側にポジショニング
指を強引に開いてスキンケアを行ったり、ロール状のクッションなどを握らせるという対策は、利用者さんのことを思ってのことだと思いますが、かえって利用者さんの体の緊張を高め、手指の拘縮を進めてしまいます。
処置を必要とし、このようなケアをしなくてはならない場面もあるとは思います。しかし、それと並行して、緊張が高まらないような対策が必要です。
事例2の対策と同じように、まずは肘を内側に、肩甲骨を外側に動かしてポジショニングを行います。このポジショニングをするだけでも、手指の緊張が低下して開きやすくなります。
手指を開くコツ | 親指を引き出してから手を開こう
手のひらの開き方は、下記のイラストをもとに説明していきます。
私は以前まで、まず手首を掌屈位(しょうくつい。手のひらの方向に手首を曲げる状態)にして、手指が伸びやすくなってから指を開くという介助を行っていました。
しかし、拘縮が進むと手首が動きづらくなっている方が多く、また手首を曲げて指を開きながら清潔保持の介助を同時に行うのは難しかったため、実践的ではありませんでした。
拘縮のある方の握り込みを観察したところ、多くの場合は親指が内側に入って握りこんでいる状態になっています。
親指を握り込んでいる方の場合には、まず親指の根元にある母指球を軽く圧迫しながら、ゆっくり開くと親指が握りこんだ指から出しやすくなります。
母指を引き出してからだと、ほかの4本の指が開きやすくなります。ほかの4本の指を開くときには、人差し指から小指にかけて1本ずつ開くか、もしくは4本まとめてゆっくり開きましょう。
小指から手を開くのはNG
手指の開き方で小指から開くと良い、と習った方もいるのではないでしょうか。
「小指から先に開くことで、薬指も開きやすくなるから」といった意見などがありますが、この方法は利用者さんの痛みを伴いやすく、結果的に緊張を高めやすくしてしまうため逆効果です。
他にもいろいろな方法があるとは思いますが、拘縮を強くする原因の多くは、痛みなどによる筋肉の過緊張があります。
そのため、自分が今行っている手法が過緊張を起こしていないか、改善が見られない場合は見直しをしてみましょう。
著者/田中義行
イラスト/アライヨウコ
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