【訪問介護の事故原因②】利用者の危険要因の把握が困難|事故防止編(第43回)

【訪問介護の事故原因②】利用者の危険要因の把握が困難 | 事故防止編(第43回)

必要な情報を必要な人に過不足なく伝えるのは、意外と難しいものです。しかしそれを怠ってしまうと、思わぬ事故につながることもあるので気を付けましょう。

訪問介護は他業種との連携を強めていくべき

入所施設であれば、毎日の様子を見ながら各利用者の介護で気をつけるべきポイントなどを徐々に知っていくことができます。あるいは施設であれば、複数の介護職が「あの利用者にはこうするべきだ」などと話し合ってケアの質を高めることもできるでしょう。

しかし、訪問介護の利用者は在宅生活をしているので、変化があってもそれを事業者側が全て把握することはできません。それに、訪問介護のサービス提供責任者が得られる利用者情報は、基本的にケアマネジャーからの情報と、家族からの情報に限られます

訪問介護は介護に不利な「居宅」という慣れない環境でサービスを提供するだけでなく、得られる情報も十分ではないのが現状です。

より安全な介護を提供するためには、訪問介護事業者は積極的に他業種(デイサービス、訪問看護など)との連携を強める必要があります

なぜ利用者情報(アセスメント)が不足しやすいのか

訪問介護事業者が、アセスメントが不足しやすい要因はどこにあるのでしょうか。
(1)ケアマネジャー(2)利用者家族(3)サービス提供責任者それぞれの立場で、わかりやすい解説図にまとめたのでご覧ください。

【利用者情報(アセスメント)不足の要因】1)ケアマネジャー:利用者が受けるサービス全般を管理する。サービス提供責任者が得られる情報はケアマネジャーと家族からばかりで情報内容が偏りがち。2)利用者家族:利用者の状態やサービスの希望を伝える。最新の情報が届いていなかったり、必要な情報を伝えてもらえないことがある。3)サービス提供責任者:ケアマネジャーから得た情報と家族の要望に沿って、訪問介護の具体的なサービス内容を決定する。サービス受付やヘルパーの管理、スケジュール調整など訪問介護に関わる事務手続きを一手に引き受ける。かかりつけ医や訪問看護師が知っている医療的な情報は、連階がきちんととれていないと伝わりにくい。

利用者情報(アセスメント)の不足で起こるおもな事故

アセスメントが不足すると、次のような事故が起きやすくなります。

最新情報を知らなかったために起こる事故

最新情報をしらなかったために起こる事故の例。入院度、身体状況が変わっていることを知らずに介助したため、腕をいためている利用者。

利用者が入院したあとなどによく起こる事故です。身体状況や必要な介護内容が変わっているのに、それを知らずに従来どおりの介護を行ったことが原因になります。

家族からの情報収集が不十分だったために起こる事故

家族からの情報収集が不十分だったために起こる事故の例。利用者に徘徊癖があることを知らなかったため鍵をかけなかった介護職員。

利用開始から間もない時期によく起こる事故がこれです。注意すべきBPSDなど、必要な情報を得ていないことに気づかずサービスを行うことが原因です。

ケアマネジャーからの情報伝達が不十分だったために起こる事故

ケアマネジャーからの情報伝達が不十分だったために起こる事故の例。デイサービスではソフト食にしたことを知らず、訪問介護で普通食をだしてしまった介護職員。

「デイサービスではソフト食に変更したことを知らず、訪問介護で普通食を出して窒息事故」など、ケアマネジャーが情報伝達しきれなかったことが原因となって起こる事故です。

医者からの情報収集が不十分だったために起こる事故

医者からの情報収集が不十分だったため起こる事故の例。特定疾病の患者や重度障害者の利用者について、医者からの情報提供が十分ではなく、注意事項を把握できていなかった介護職員。

訪問介護は要介護者だけでなく、特定疾病の患者や重度障害者もサービス対象です。医者からの情報提供が不足していると、事故の原因になることもあります。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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