デイサービスで利用者の異変に気付いた場合、どう対処したらいいのでしょうか。まずは、利用者をしっかりと見守り、「いつもと様子が違う」「異変を察知する」ことが大切です。
事故発生時の状況
Uさんは要介護5の在宅の利用者で、毎日デイサービスを利用しています。認知症と全身機能の低下から、リクライニング式車椅子でウトウトしながらすごすことが多く、静養室で寝ていることも少なくありません。
ある日、デイ到着時から傾眠状態が続き、午前10時の水分補給もしませんでした。昼食の時間には少し食べ物を口にしましたが、やはりすぐに眠ってしまいました。
送迎時間になり自宅へ送り届けましたが、家族がUさんの状態を不審に思い救急車を要請したところ、脳梗塞の発作だったことがわかり、翌日死亡しました。
【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか
この事例では、過失の有無はどのように判断されるのでしょうか。
事故評価の基本的な考え方
デイサービスは入所施設と異なり、24時間利用者の生活に関わっているわけではないので、入所施設のように個別の体調管理の責任をおってはいません。
しかし、ほかの居宅サービス同様、「誰の目にも異常」と映る急変については、迅速に医療機関へ搬送する義務があります。
この事故が過失とされる場合
以下のような場合には、施設側に過失があると判断されることがあります。
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったのか
デイサービス中、リクライニング式車椅子などですごし、寝たきりに近い重度の要介護者がいます。このような利用者に突然の発作が起きても、即座に対処することは難しいかもしれません。
しかし、来所中は10時、12時、帰宅前など定時に、利用者に対して一定の働きかけや確認があるのが当然ですから、この定時確認の手段を決めておかなければなりません。
介護施設においては、疾患のあるなしにかかわらず、長時間見守りを欠かしてはいけません。重大な事故や体調の急変が起きたときは必ず、対処の遅れが落ち度とみなされてしまいます。
入所施設の就寝時の居室の巡回などでも、ただ漫然と居室の中を見るだけでは配慮が足りないとされます。表情と呼吸の状況を2~3秒確認するだけで、異変が読み取れることがあるのです。
こんな原因分析はダメ!
急な体調不良への基本的な対処方法
この事例では体調不良に気づくことができませんでしたが、もしも利用者の異変に気がついた場合は、どのように対処したらいいのでしょうか。
急な体調不良への対応は、下図のような流れで行うようにしましょう。
その際、注意点が2つあるのでそちらについても解説します。
注意点①「利用中止」はダメ!
利用者の自宅に迎えに行った時点でデイサービスの利用は始まっています。その後、体調不良を理由に一方的に利用を中止してはいけません。
注意点②「家族に丸投げ」はダメ!
デイサービスの利用中に体調不良が起こった場合は、施設側が責任を持って医療機関に搬送するなどの対処を行う義務があります。
体調急変時の受診判断はどうするか
施設に看護師など医療資格者がいる場合といない場合、それぞれについて解説します。
看護師などの医療資格者がいる場合
看護師が容態の観察やバイタルチェックを行い、緊急受診の必要性の有無を判断します。受診が必要だと判断すれば、看護師から医者に状況を説明します。
看護師などの医療資格者がいない場合
同居家族に体調急変が起こった場合と同等の配慮が求められます。具体的には、「すみやかにかかりつけ医に連絡をして指示を仰ぐ」「救急搬送する」などの対応が必要です。
急な体調不良に備えて入手しておきたい情報はこの4つ
お年寄りの中には、「持病の影響でときどき意識を消失するが、すぐに回復するので心配ない」など特殊な事情を抱えた利用者がいることがあります。
利用を開始する前には、利用者の身体状況について詳しく確認をとっておくことが大切です。
確認を取っておきたいのは以下の4点です。
サービス利用中は、施設も最低限の安全義務はおうべき
入所施設であれば、運営基準によって、利用者の体調管理や栄養管理などの踏み込んだ医療的配慮が求められます。しかし、デイサービスにおいては本人の体調に関する主たる管理者は、家族とかかりつけ医です。
ですから、看護師の配置が義務づけられているデイサービスにおいても、個別利用者の疾患に対する積極的な配慮は求められていません。つまり、制度・ 法令上、事業者としては訪問介護などと同様に、「高度な」医療上の安全配慮義務は課されていないことになります。
そのため通所施設の中には 「受診は家族にお願いしている」という施設が少なくありません。しかし、これは問題があります。
利用者を送迎車に乗せてからは、施設利用中です。その間に利用者の体調不良が発生した場合、最低限の安全配慮義務はおっています。施設が責任を持って医療機関に搬送するなど、適切な対処を行うことが必要です。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています