【通所施設での事故防止策⑧】利用中の急な体調不良|事故防止編(第41回)

【通所施設での事故防止策⑧】利用中の急な体調不良 | 事故防止編(第41回)

デイサービスで利用者の異変に気付いた場合、どう対処したらいいのでしょうか。まずは、利用者をしっかりと見守り、「いつもと様子が違う」「異変を察知する」ことが大切です。

事故発生時の状況

Uさんは要介護5の在宅の利用者で、毎日デイサービスを利用しています。認知症と全身機能の低下から、リクライニング式車椅子でウトウトしながらすごすことが多く、静養室で寝ていることも少なくありません。

ある日、デイ到着時から傾眠状態が続き、午前10時の水分補給もしませんでした。昼食の時間には少し食べ物を口にしましたが、やはりすぐに眠ってしまいました。

認知症と全身昨日の低下のある要介護5のデイサービス利用者が、リクライニング式車椅子で傾眠しているイラスト

送迎時間になり自宅へ送り届けましたが、家族がUさんの状態を不審に思い救急車を要請したところ、脳梗塞の発作だったことがわかり、翌日死亡しました。

デイサービスから帰ってきた要介護5の利用者の様子がおかしいことに気がつく家族のイラスト

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事例では、過失の有無はどのように判断されるのでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

デイサービスは入所施設と異なり、24時間利用者の生活に関わっているわけではないので、入所施設のように個別の体調管理の責任をおってはいません。

しかし、ほかの居宅サービス同様、「誰の目にも異常」と映る急変については、迅速に医療機関へ搬送する義務があります

この事故が過失とされる場合

寝たきりの利用者を、疲れているからそっとしておこうとする介護職員のイラスト

以下のような場合には、施設側に過失があると判断されることがあります。

  • 脳梗塞の既往症がある利用者が、急に頭痛や呂律(ろれつ)がまわらなくなるなどの症状が現れたにもかかわらず、迅速に医療機関に搬送する措置をとらなかった場合

  • 原因は不明でも、呼吸停止や意識消失など、通常であれば生命に危険が及ぶ可能性がある症状が出現しているのに、迅速に医療機関への搬送措置をとらなかった場合

こんな事故評価はダメ!

  • 職員の不注意だった。今後はもっと注意して利用者を見る

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

デイサービス中、リクライニング式車椅子などですごし、寝たきりに近い重度の要介護者がいます。このような利用者に突然の発作が起きても、即座に対処することは難しいかもしれません。

しかし、来所中は10時、12時、帰宅前など定時に、利用者に対して一定の働きかけや確認があるのが当然ですから、この定時確認の手段を決めておかなければなりません。

介護施設においては、疾患のあるなしにかかわらず、長時間見守りを欠かしてはいけません。重大な事故や体調の急変が起きたときは必ず、対処の遅れが落ち度とみなされてしまいます。

入所施設の就寝時の居室の巡回などでも、ただ漫然と居室の中を見るだけでは配慮が足りないとされます。表情と呼吸の状況を2~3秒確認するだけで、異変が読み取れることがあるのです。

こんな原因分析はダメ!

  • 昼食は少し食べたので、発作だとは気づきようがなかった

急な体調不良への基本的な対処方法

この事例では体調不良に気づくことができませんでしたが、もしも利用者の異変に気がついた場合は、どのように対処したらいいのでしょうか。

急な体調不良への対応は、下図のような流れで行うようにしましょう。
その際、注意点が2つあるのでそちらについても解説します。

【デイサービス利用中の急な体調不良への基本的な対応方法】体調不良発覚→家族に連絡→医療機関へ搬送。体調不良を理由に一方的に利用を中止するのはNG。サービス利用中に体調不良が怒った場合は、家族に丸投げはNG。施設側が責任を持って医療機関に搬送するなどします。

注意点①「利用中止」はダメ!

利用者の自宅に迎えに行った時点でデイサービスの利用は始まっています。その後、体調不良を理由に一方的に利用を中止してはいけません

注意点②「家族に丸投げ」はダメ!

デイサービスの利用中に体調不良が起こった場合は、施設側が責任を持って医療機関に搬送するなどの対処を行う義務があります

体調急変時の受診判断はどうするか

施設に看護師など医療資格者がいる場合といない場合、それぞれについて解説します。

看護師などの医療資格者がいる場合

看護師がデイサービス利用中に体調不良になった利用者のバイタルチェックをしているイラスト。緊急受信の必要性の有無を判断します。

看護師が容態の観察やバイタルチェックを行い、緊急受診の必要性の有無を判断します。受診が必要だと判断すれば、看護師から医者に状況を説明します。

看護師などの医療資格者がいない場合

デイサービス利用中に体調不良になった利用者の家族に電話をしている介護職員のイラスト。

同居家族に体調急変が起こった場合と同等の配慮が求められます。具体的には、「すみやかにかかりつけ医に連絡をして指示を仰ぐ」「救急搬送する」などの対応が必要です。

急な体調不良に備えて入手しておきたい情報はこの4つ

お年寄りの中には、「持病の影響でときどき意識を消失するが、すぐに回復するので心配ない」など特殊な事情を抱えた利用者がいることがあります。

利用を開始する前には、利用者の身体状況について詳しく確認をとっておくことが大切です。

確認を取っておきたいのは以下の4点です。

【急な体調不良に備えて入手しておきたい情報】体調が急変しやすい時間帯や環境、条件があるか。体調急変時にどのような症状が起こるか。体調急変時にどう対応したらよいのか。どうなったら家族に連絡をするかなどの詳しい連携方法
  • 体調が急変しやすい時間帯や環境、条件があるか

  • 体調急変時にどのような症状が起こるか

  • 体調急変時にどう対応したらよいのか
  • どうなったら家族に連絡をするかなどの詳しい連携方法

サービス利用中は、施設も最低限の安全義務はおうべき

入所施設であれば、運営基準によって、利用者の体調管理や栄養管理などの踏み込んだ医療的配慮が求められます。しかし、デイサービスにおいては本人の体調に関する主たる管理者は、家族とかかりつけ医です。

ですから、看護師の配置が義務づけられているデイサービスにおいても、個別利用者の疾患に対する積極的な配慮は求められていません。つまり、制度・ 法令上、事業者としては訪問介護などと同様に、「高度な」医療上の安全配慮義務は課されていないことになります。

そのため通所施設の中には 「受診は家族にお願いしている」という施設が少なくありません。しかし、これは問題があります。

利用者を送迎車に乗せてからは、施設利用中です。その間に利用者の体調不良が発生した場合、最低限の安全配慮義務はおっています施設が責任を持って医療機関に搬送するなど、適切な対処を行うことが必要です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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