【事例で学べる介護技術】第3回 認知症の方の睡眠障がいを改善するためのケア方法を解説

認知症の方の睡眠障がいを改善するためのケア方法を解説

認知症の方が睡眠障がいになり、昼夜逆転の生活になることは少なくありません。そんなとき、まずは不眠の原因をよく検討し、それを改善するアプローチが大切です。当記事では事例をもとに、認知症で睡眠障がいがある方へのケア方法を解説していきます。

認知症の方の不眠の原因は「見当識障がい」?

認知症の方のなかには、「見当識障がい」という症状によって不眠になってしまう方がいます。見当識障がいとは、簡単に説明すると時間や場所などがわからなくなる、または、わかりづらくなる状態のことをいいます。

【見当識障がいの特徴】時間がわからない・場所がわからない・人がわからない

一般的に、①時間②場所③人の順番にわかりづらくなると言われています。ただし、認知症の方の不眠の原因が、必ずしも「見当識障がい」とは限りません。下記のようなことが、認知症の方の不眠の原因につながることがあります。

  • 利用者さんの生活リズムが乱れる
  • 利用者さんにとって不快な体験をする
  • 利用者さんが不安な気持ちになる

ここからは、こうした認知症の方の不眠への対応方法について、事例を用いて解説していきます。

【事例1】睡眠導入剤を検討している場合

アルツハイマー型認知症のAさん(男性・87歳)は、日中に寝て過ごすことが多く、夜間になると眠れなくなって何度も起きてしまうため、職員は対応に追われています。よって施設ではAさんに対して、睡眠導入剤の内服を検討しています。

すぐに睡眠導入剤に頼らない

まず、利用者さんが夜間に眠れなくなってしまう原因を分析することが大切です。不眠の原因をよく検討しないまま、「認知症による見当識障がい」だと決めつけて睡眠導入剤に頼ってしまうのはNGです。

夜勤業務は大変なので、「夜間に寝てくれないと仕事が増える……」と思われる方もいるかもしれません。しかし、そういった気持ちで安易に睡眠導入剤を検討してしまうと、根本的な不眠の解決にはなりません。

もし原因を分析し、対応をしても不眠が改善されない場合には、利用者さんの日中から夜間にかけての一日の様子を記録し、主治医に相談しましょう。

昼間に寝てしまう原因を考えよう

利用者さんが夜間に眠れない場合は、昼間に眠ってしまっている可能性が考えられます。

昼間に眠っていると、「寝ていた方が介助しなくて楽だから」という介護者の都合などによって、そのまま放置されてしまうケースは少なくない現状があります。

ここで重要なのは、「日中に寝ているから夜間になると眠れないのでは?」「昼夜逆転を改善するにはどうすればよいか?」など、夜間に眠れない理由を掘り下げて考えることです。

例えば、夜に眠れないのは、夜間に眠くなるだけの適度な運動が昼間に足りていない可能性があります。

もしくは、運動量が足りていないことに加え、昼間の何もしていない時間が退屈で、寝てしまっているのかもしれません。

特に、適度な疲労がないと夜間の睡眠の質が下がりやすくなるので、日常生活のなかで適度に動くことのできる環境を整えることが、大切な「ケア」の一環です。

「不安や不快」をあたえない

利用者さんが眠れない原因として、「不安」などの心理的要因も考えられます。

例えば、介護職が利用者さんの気持ちを無視するような、不適切なケアをしてしまったとします。すると、そのときの「不安・不快」が潜在的な心理的要因となって、利用者さんが眠れなくなることも考えられます。

不安などで眠れなくなってしまうことは、認知症の有無に関係なく、どなたでも起こってしまうことではないでしょうか。こうした心理的要因を「認知症のせいだから」と決めつけず、日中に不安や不快を与えてしまっていないか、生活の中でしっかりと対応を見直してみましょう

【認知症の方の不眠の原因】不安、不快・見当識障がい・生活リズムの乱れ・疲労不足

【事例2】活動内容を増やしたが改善しない場合

夜間になかなか眠れない利用者Bさんのため、昼間の活動を増やしていただくことになりました。昼間の疲労感が、夜間の睡眠につながると考えたからです。

しかし、昼間の活動を増やしたところ、Bさんは以前にも増して眠れなくなっているようです。

活動内容にはどんな活動が適切か?

睡眠障がいの改善のため、利用者さんの活動時間を増やす場合、どんな活動内容にするのかをよく検討しましょう。

例えば、レクリエーションを大人数で行ったとき、利用者さん一人ひとりが身体を動かす時間はたったの数分になるケースがあります。これでは、運動量は大して増えていません。

また、利用者さん自身がレクリエーションを「ただやらされている」と感じていたら、不快感につながって逆効果になる可能性があります。

そのため、あくまでも利用者さんに合わせた活動を提案することが大切です。

「目的」や「役割」を生み出す活動をしよう

具体的に提案する活動としては、日常生活のなかで「目的」や「役割」を感じられる活動になっていることが大切です。

「とにかく疲れてもらおう」と過度に運動させてしまうと、生活リズムが狂ったり、身体のだるさにつながって、利用者さんがかえって眠れなくなることがあります。そのため、体操やスポーツなど、トレーニングのような負担の大きい特別な運動は、無理にしていただかなくてもいいのではないかと思います。

例えば、食事の「配膳・下膳」「洗い物・後片付け」「洗濯物を干す」など、日常生活のなかで役割を担える方には、そういったことができる環境になるよう整えていきましょう。

そういった環境は、「手続き記憶」を引き出したり、維持したりする「認知症ケア」、さらには自立支援の視点にもつなげることができます。

このように、日常生活のなかで身体と脳を適度に疲労へとつなげたり、目的や役割を遂行していただくことで、睡眠につながっていきます。

生活リズムを考える

夜間に眠るためには、下記のような生活リズムが大切です。

  1. 起床して一日を始めるまでの「準備」
  2. 身体を動かし始める「開始」
  3. 身体の動きが良くなる「ピーク」
  4. 身体を休めるための「ダウン」

夜間に眠るための生活リズム 1.準備。起床して1日をはじめるまで。2.開始。身体を動かし始める。3.ピーク。身体の動きが良くなる。4.ダウン。身体を休める。

ただ、介護施設では忙しさのあまり(1)~(3)で一日が終わってしまうことが多々あります。

とはいえ、夜しっかり眠るためには、就寝時間に向けて徐々に身体と脳を休めていくことが必要ではないでしょうか?

特に、「入浴」は身体と心を休めるのに効果的だと言われています。しかし、利用者さんの多くは午前中、もしくは午後の早い時間から「入浴」して、それからレクリエーションなどの活動をすることが多くあります。

つまり、生活リズムとして考えたときに「ピーク」と「ダウン」が逆転してしまっているのが現状なのです。

もちろん、昼のお風呂が好きな利用者さんにまで強制する必要はありませんが、もし夜なかなか寝付けない利用者さんであれば、入浴の時間帯を見直すことや、夕食後しばらくしてから「足浴」を実施することなどを検討してみるとよいと思います。

【事例3】睡眠を強要している場合

介護職Cさんはいつも、昼食から30分ほどすると利用者さん全員に「昼寝の時間ですよ~」と言ってまわり、1時間以上の昼寝を勧めています。

Cさんは、特に夜間の睡眠時間が少ない利用者Dさんに、「睡眠不足は事故につながる」と思って必死に昼寝を促します。

そのことで、Dさんは不機嫌そうに横になり、そのまま眠りこみました。そして起きたときにも、Dさんは機嫌が悪いままでした。

昼寝の時間の長さを見直す

昼寝が長すぎることによって、夜間の睡眠に影響が出てしまうことは少なくありません。

昼寝をケアと考えるのであれば、その効果を考えることが重要です。20分くらいのノンレム睡眠であれば、午前中の疲労やストレスの軽減につながるとされています。

しかし、1時間以上(30分以上の睡眠)も眠ってしまうと体内の睡眠リズムが変化しやすくなります。夜間に寝られるリズムを整えるためにも、昼寝の時間には注意しましょう。

リラックスできる環境を提供する

少し疲れていると感じた利用者さんに、昼寝をすすめるのは悪いことではありません。しかし、「利用者さんは全員、昼寝をしなければならない」と強要してしまうのは適切ではありません。

無理に昼寝を促すことが、利用者さんの不快や不安となった場合、その感情が潜在的に夜まで続いてしまい、不眠の原因になることがあります。これでは、職員が睡眠障がいを引き起こすことになりかねません。

また、寝る環境ではなく、くつろぐことのできる環境を提供することも一つの手段です。「食後に少しくつろいでほしい」「夜間睡眠につなげたい」と思う場合には、照明を少し暗くしたり、ゆったりした音楽を流すなどの工夫をすると良いでしょう。

認知症の方の睡眠障がいを改善するために、ゆったりとした音楽をかける・関節照明などで部屋を暗くするなど、くつろげる環境づくりをすることも1つの手段です。

「視覚・聴覚」からの刺激を減らす環境にすることは、疲れを軽減するための大切な要素です。

さらに、生活空間に休憩スペースがあると、くつろぎたいときにそこに行かれる利用者さんもいます。「認知症だから、職員側が何とかしなければ……」と思い込まず、利用者さんに委ねることができる環境を提供することも大切なケアといえます。

まとめ

ここまで、睡眠障がいがあったり昼夜逆転している認知症の利用者さんのケアについてお話しました。

介護職は業務が多く、進めなければならないこともたくさんあると思います。しかし、業務の時間を作るために、利用者さんの時間を管理して「一律的な対応」をしてしまうと、利用者さんの「不安や不快」につながる可能性が高まります。

一人ひとりの意思を尊重するために、必要なのは「自律支援」だと思います。興味や関心、目的、役割をつくることで「自ら行動」できる環境こそが、睡眠の改善にも役立つといえるでしょう。

著者/山出貴宏
監修者/佐藤眞一
イラスト/アライヨウコ

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