ヒヤリハットシートの活用方法を紹介 分析にはマクロな視点が必要です|事故防止編(第10回)

ヒヤリハットシートの活用方法を紹介 分析にはマクロな視点が必要です | 事故防止編(第10回)

せっかく集まったヒヤリハットシートを活かすも殺すも、着目点次第です。つまり、分析の方法を間違えると、せっかくのデータも活かせません。事例をもとに、ヒヤリハットシートの分析方法を解説しましょう。

統計や集計だけでは事故防止に直結しない

いろいろな施設の事故防止委員会のヒヤリハット活動を見ていると、あともうひと息なのにちょっとだけ路線がズレてしまっていることがあります。その代表例が、「統計・集計専門の事故防止委員会」です。

ヒヤリハットシートを書くだけで終わらせず、有効活用しようという姿勢は見て取れます。問題なのは「統計・集計専門」で、その一歩先の分析までたどり着けていないことです。

例えば、こんな施設がありました。

そこは事務長が主導して事故防止委員会を運営している施設でした。ヒヤリハットシートが集まると、エクセルを使って職場ごとにどのような事故が何件発生しているかを集計します。そして次回の事故防止委員会で、「3階の職場では誤嚥が多い」とか「4階の職場では転倒が多い」といって集計結果を発表するのです。

【よくある統計や集計の失敗例】統計や集計だけでは事故防止に直結しません。利用者さんの状態など、現場の市職員なら集計しなくてもわかることが多いため、ただの反省資料になってしまうことも。

ちょっと聞いた感じでは、有用に感じるかもしれません。

しかし、こうした自施設内の単純な集計は、多くの場合「3階は重度で嚥下機能が低下した人が多いから当然だ」「4階は徘徊する認知症の人が多いから仕方がない」など、現場の職員なら集計しなくてもわかることが多いものです。

そして事故原因の核心に触れないまま「3階は誤嚥事故を減らす努力をしましょう」などと、ただの反省材料にされてしまいます。これではせっかくのヒヤリハットシートが事故防止に直結しません。

統計や分析が有効だった実例を紹介

せっかく統計をとるのであれば、これからご紹介する事例にあるように、「ほかの施設と比較する」「長期間で比較する」などのマクロな視点が必要になります。

【実例1】ほかの施設と比べて転倒事故の割合が多い

【統計や分析が有効だった実例】ほかの施設で見学・研修会への参加で転倒事故が半減した。

今までは自施設内での事故件数だけを集計していたある施設が、ほかの施設の事故発生率と比較する分析を行いました。すると誤嚥事故や行方不明事故などは目立った違いがなかったけれど、転倒事故だけは自施設の発生率が非常に高いことがわかったのです。

そこでこの施設の職員は、ほかの施設で歩行介助の方法を見学させてもらいました。また、介助方法の研修会に積極的に参加するなどの改善策を行ったところ、転倒事故が半減したそうです。

【実例2】ある県の訪問介護事業者だけ誤嚥事故が突出して多い

【統計や分析が有効だった実例】食事介助方法の調査を行って原因を発見できた。

かつて、ある県の訪問介護事業者だけ誤嚥事故が突出して多いということがありました。他県に比べて明らかだったので、その県の訪問介護事業者の行う食事介助方法についての調査を行ったのです。

するとその県では、座位のとれる利用者もベッドでギャッチアップして食事をさせていることがわかりました。この方法は少し上を向いた状態で食べ物を飲み込むので、気管に入り込むなどの誤嚥を起こしやすい危険な食べ方だったのです。

いかがですか? 個別の事故を見ていても気がつかないような、大きな母集団での傾向を摑む分析ができて初めて、ヒヤリハットの統計や集計は意味あるものになるのです。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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