【自施設を感染源にしないために】設備の衛生管理は職員がルールを決めて行おう|トラブル対策編(第84回)

【自施設を感染源にしないために】設備の衛生管理は職員がルールを決めて行おう | トラブル対策編(第84回)

設備の清掃は業者任せにせず、職員がルールを決めて行いましょう。居室や廊下などの清掃ルールの一例をご紹介します。また感染防止対策として、施設で家庭用加湿器を使う際のコストについて検証したデータもご紹介します。

【例を紹介】居室などの清掃規則

設備の清掃は業者任せにせず、職員がルールを決めて行いましょう。居室などの清掃規則の一例をご紹介します。

居室の衛生管理(定期清掃)

  1. 居室床の掃き掃除→毎日
  2. タンス、整理ボックス、オーバーテーブル、ベッド柵のふき掃除→毎日
  3. ベッドパッドの乾燥消毒→週1回以上
  4. マットレスの乾燥消毒→年1回以上
  5. ポータブルトイレ、尿器→使用の都度洗浄、週1回消毒
  6. 殺菌灯による居室の消毒→月1回30分程度
  7. 居室内換気→換気システムを使用し適切な温度と湿度を保つ
  8. 湯のみ、水のみ、歯ブラシ、コップの消毒→週1回
  9. 体温計、冷却枕、爪切り、耳かき→使用の都度アルコール綿でふいて消毒
  10. シーツ、オムツなどのリネン類の交換には、周囲を汚さないようランドリーボックスやバケツを利用する(※便や尿で汚染されたものは、その都度消毒を行う)

居室以外の建物設備の衛生管理

  1. 廊下、階段の掃き掃除→毎日
  2. 廊下、階段の手すり、ドアノブなどの清拭消毒→週1回
  3. 食堂の掃き掃除、備品の清拭消毒→毎日

【危険箇所】トイレと浴室の衛生管理について

外食チェーンのトイレは、3時間おきにアルコール系の洗剤でふき掃除をしたうえ、チェック表に清掃実施者の氏名を書き込むのがルールです。介護施設のトイレ清掃は、どのように管理されているのでしょうか。チェック表が掲示されたトイレは、あまり見かけません。

浴室に循環式浴槽を使っている施設は、レジオネラ属菌が繁殖しないように、保健所から定期検査が義務づけられています。そのため、比較的管理されているものです。しかし、洗い場や入浴用具などの清掃はどうでしょうか。浴室とトイレはノロウイルスの二次感染の危険性が高い場所なので、薄めた次亜塩素酸ナトリウムの使用も視野に入れる必要があります。

介護施設では体調管理のために加湿器を設置していますが、家庭用の加湿器を使用している施設も多いのではないでしょうか。ここでは、家庭用加湿器を施設で使用する際のコストについて考えます。

家庭用加湿器は「コスト倒れ」になる可能性も

従来型の多床室で、家庭用の比較的大きな加湿器を1部屋に1つ、11月から3月まで稼働させている施設があります。家庭用加湿器1台では、多床室の湿度は高くても30%くらいにしかなりませんから、50%の湿度が必要なインフルエンザ予防にはなりません。電気代や給水にかかる職員の人件費は莫大で、コスト倒れの対策と言えます。

インフルエンザウイルスと湿度の関係

季節性インフルエンザが流行する毎年11月~3月には、特別養護老人ホームでは加湿器がフル稼働します。インフルエンザウイルスは、湿度が高くなると生存率が著しく低下することがわかっているからです。

まだ感染者が出ていない介護施設でも、今後感染者が出れば加湿器に頼るかもしれません。このインフルエンザウイルスの性質は過去に論文で発表されており(下の表参照)、これを見ると温度20.5~24°C、湿度50%以上で6時間後の生存率が下がることがわかります。

インフルエンザウイルスろ湿度の関係性の表。介護施設の感染症予防。インフルエンザ予防で特養では加湿器がフル稼働します。以下温度:湿度:6時間生存率。20.5度~24度:50%以上:3~5%。20.5度~24度:20%:66%。7~8度:50%以上:35~42%。7~8度:23%:63%。32度:50%:0%に近い。32度:20%:17%

【検証】家庭用加湿器を施設で使うコストを計算

さて、ここからは実際に特養で家庭用加湿器をフル稼働させた場合に発生するコストをシミュレーションしていきましょう。

【施設の概要】
①特養:入所120名、短期入所15名
②デイサービス42名
③ケアハウス50名
④訪問介護事業所
⑤居宅介護支援事業所:地上5階建て、加湿器稼働期間5ヵ月間(11月~3月)

【家庭用加湿器】
110台(スチーム式80台、ミスト式30台)
給水回数1台1日平均3回
給水と洗浄時間平均5分

①電気代:861,150円(1ヵ月172,230円×5ヵ月)

1ヵ月電気料金:スチーム式1,872円×80台+ミスト式749円×30台
合計172,230円

(電気消費量はスチーム式は200W、ミスト式は80W、電力料金単13円/1kw時、24時間30日稼働として計算)

②人件費:4,248,750円(1ヵ月849,750円×5ヵ月)

1ヵ月の人件費:1日3回×5分×110台×30日=825時間(1ヵ月の労働時間)×1,030円 
合計849,750円
(平均月収34万円、時給換算1,030円として計算)

介護施設の感染症予防。1シーズンの1施設にかかる家庭用加湿器の総費用は5,109,900円。※加湿器の買い替え費用は除く

上の図をみればおわかりの通り、家庭用加湿器を使用する場合、1シーズン1施設に必要なコストは実に510万円以上になるのです。驚きの結果と言えるでしょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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