【自施設を感染源にしないために】食事の衛生管理を徹底しよう|トラブル対策編(第82回)

【自施設を感染源にしないために】食事の衛生管理を徹底しよう | トラブル対策編(第83回)

介護施設では、食事の衛生管理基準が甘すぎるのが実情です。食品の管理と調理、清掃などは厳しく行うべきでしょう。注意したいポイントを、わかりやすく解説していきます。

食事の衛生管理は施設運営の基本

一般の給食業者は、厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」の遵守が求められています。しかし、このマニュアルは健常者に対する衛生管理の基準なので、免疫力の低い幼児や高齢者などの施設では、もっと厳しくあるべきだという識者もいるほどです。

たとえば、食材を冷蔵庫で管理する場合の温度も、基準より2℃以上低くしないと、食中毒を起こしかねないと指摘されています。介護施設の衛生管理者は、そのことを十分意識した運営を心がけましょう。

また、食材受け入れ→食材洗浄→調理→盛りつけ→保存、の全ての調理工程を分離し、その都度、調理器具を熱処理または交換する必要もあります。

食品の衛生管理で気を付けたい4つのポイント

食品の衛生管理においては、「調理服の着用順序」「調理器具の滅菌方法」「食材の温度管理」「厨房の床を清潔に保つ」、この4つのポイントが重要になります。

調理服を着用する順序

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。調理服の着用についてです。

①調理帽をかぶり②服を着替え③靴をはき替え④その後に手をよく洗います。この順序が逆になると靴の雑菌が服に付き、髪の毛が服に落ちたり髪の塵が服に付いたりしてしまいます。

調理器具などの減菌方法

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。調理器具の滅菌方法についてです

包丁やまな板などの減菌方法は加熱処理が正解で、消毒剤や洗剤ではありません。0-157は75 °Cで1分、ノロウイルスは85°Cで1分など、おもな病原体の熱処理温度と時間を覚えましょう。

食材や製品などの温度管理

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。食材や製品の温度管理について

厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュア ル」では、食肉10°C以下、生食カキ10°C以下、液卵8°C以下が基準とされていますが、介護施設ではそれより2°C以上低くしたいものです。

厨房の床を清潔に保つ

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。厨房の床について

厨房の床は、通常コンクリートにタイル張りです。水を流すことを前提にしているためですが、食材の破片が床に落ちたままだと大変不衛生なので、こまめな掃除が必要です。

【わかりやすく解説】食堂と配膳の衛生管理

続いて、施設の食堂と、食事を配膳する際の衛生管理の注意点について解説していきます。

食堂の衛生環境はどうか

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。食堂について

玄関を入ったエントランスやデイサービスを行うパブリックな空間と食堂との間に、仕切りの扉がない施設は問題があります。食堂は2階以上の居住スペースに設けましょう。

食事介助する職員の衛生管理

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。食事介助をする職員について

介護職は、排泄介助時にはいている靴や着ている服で食事介助をしています。これではせっかく手洗いをしても意味がないので、せめて食事介助用のエプロンを着用しましょう。

帽子を着用して配膳する

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。配膳について

厨房の調理員は、髪の毛が食事に混入しないように帽子をかぶっています。小学校の給食当番でさえかぶっているのに、食堂で無帽の職員が食事を配膳しているのは問題です。

食堂の清掃状況は要確認

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。食堂の椅子や机について

食堂のテーブルは配膳前にクロスでふきますが、椅子や床はどうでしょう。食堂のすぐ横に使わなくなったステージがあり、そこはほこりだらけという施設も少なくありません。

居室に持ち込まれた食べ物について

介護施設の食事の衛生管理のイラスト。居室にご家族が持ち込んだ食べ物について

施設が感染源というわけではありませんが、家族が持ち込んだ食べ物によって食中毒が起こることもあります。そのため、食べ物の持ち込みを禁止したり、全て職員に申し出てもらう施設もあるようです。

家族にお願いする場合、持ち込みは可として、食べ残しだけは持ち帰ってもらいましょう。同室の入所者へのお裾分けは、飲み込みの機能が低下したお年寄りもいるので禁止が妥当です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

Amazonで購入

  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

フォローして最新情報を受け取ろう

We介護

介護に関わるみなさんに役立つ楽しめる様々な情報を発信しています。
よろしければフォローをお願いします。

介護リスクマネジメントの記事一覧