職員の労力と対策の効果を比較検討してみましょう。中には、感染症対策とはいうものの、チグハグで意味をなさないことを行っている施設もあります。ここでは、施設の衛生管理の基本を解説します。
施設の衛生管理を優先させよう
厚生労働省が出している「特養の運営基準」には、『「感染症防止対策の指針」を整備すること』という項目があります。そのため、施設では感染防止の取り組みをアピールしなければならないとあって、家族に面会を控えるよう注意を促すなどの対策に躍起です。
しかし、どう見ても的外れな取り組みがあり、職員の労力と効果のバランスを欠いたものも少なくありません。つまり、外部からの感染防止ばかりに注意を奪われていて、肝心の施設の衛生管理の基本がなおざりにされているのです。
施設で見られるチグハグな取り組み
施設のチグハグな対応例をイラストで示しました。これでは、何のための衛生管理なのか本末転倒になりかねません。
面会者は「手洗いした後」靴を下駄箱に入れる
ある特養では、面会時に玄関わきの特設の洗面台で手を洗わせています。しかし、その洗った手で靴を脱いで汚れたスリッパにはき替えねばならず、何のための手洗いかわかりません。
職員に不合理な手洗いを強要する
ある施設では、逆性石鹸とブラシを使って職員に 「正式な手洗い」をさせています。これは手術前に医師が行う方法で、大変時間がかかり、介護職には非現実的な手洗いと言えます。
職員がマスク姿でセキをしている
利用者の家族に「インフルエンザが流行しているので、面会を控えてください」と書かれた手紙が来ました。ところが、職員がマスク姿でセキをしているので説得力がありません。
家庭用加湿器をいっぱい並べても効果は低い
冬季にはインフルエンザ対策として、家庭用加湿器をたくさん並べる施設が多いものです。しかし、ほとんどインフルエンザの予防に必要な湿度に達していません。また、ほかの感染症には逆効果です。
施設の総合衛生管理対策の基本とは
対して下のイラストは、実際に施設が行うべき対策です。つまり、行うべきは感染症対策よりも総合衛生管理対策だということになります。
どんなに外部からの侵入防止対策を講じても焼け石に水です。施設は、日頃の衛生管理をきちんと行ったうえで、「感染症発生時の初期対応」に重点を置かなければなりません。
厨房の衛生管理が基本中の基本
厨房の衛生管理には、「食材の温度管理」と「調理手順の分離」という2つの基本ルールがあります。後者は、肉や魚を切った包丁やまな板でサラダの野菜を切らないといったことです。
利用者がよく触る場所は職員が清掃を
利用者の居室の清掃は、外注業者に任せている施設が少なくありません。ひどい施設では、1週間に1回です。これでは雑菌が繁殖するので、手すり、ベッド柵、ドアなど利用者がさわる場所は、職員が頻繁に清掃を行いましょう。
介助をひとつしたら手指の消毒を
手洗いなど介護職員の衛生管理は、「完璧な除菌よりも頻回な除菌」を目指しましょう。手術を行う医師ではないので、「簡単でもいいから1介助1手洗い(手指消毒)」にすると長続きします。
外部からの感染防止には限界がある
施設には、家族の面会を制限する権利はありません。協力をお願いするという形が基本です。「面会禁止」などを強制するとトラブルになるので、感染症発生時の初期対応に力を入れましょう。
現実的なマニュアルづくりが必要
説明したポイントをまとめましょう。感染症対策には、次のような現実的なマニュアルづくりが必要になります。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(2018年2月14日発売/講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています