【介護施設の感染症対策】感染症対策より総合衛生管理を行おう|トラブル対策編(第82回)

【介護施設の感染症対策】感染症対策より総合衛生管理を行おう | トラブル対策編(第82回)

職員の労力と対策の効果を比較検討してみましょう。中には、感染症対策とはいうものの、チグハグで意味をなさないことを行っている施設もあります。ここでは、施設の衛生管理の基本を解説します。

施設の衛生管理を優先させよう

厚生労働省が出している「特養の運営基準」には、『「感染症防止対策の指針」を整備すること』という項目があります。そのため、施設では感染防止の取り組みをアピールしなければならないとあって、家族に面会を控えるよう注意を促すなどの対策に躍起です。

しかし、どう見ても的外れな取り組みがあり、職員の労力と効果のバランスを欠いたものも少なくありません。つまり、外部からの感染防止ばかりに注意を奪われていて、肝心の施設の衛生管理の基本がなおざりにされているのです。

施設で見られるチグハグな取り組み

施設のチグハグな対応例をイラストで示しました。これでは、何のための衛生管理なのか本末転倒になりかねません。

面会者は「手洗いした後」靴を下駄箱に入れる

介護施設の誤った衛生管理の例:目㎜会社は手洗いしたあとに靴を下駄箱に入れる

ある特養では、面会時に玄関わきの特設の洗面台で手を洗わせています。しかし、その洗った手で靴を脱いで汚れたスリッパにはき替えねばならず、何のための手洗いかわかりません。

職員に不合理な手洗いを強要する

介護施設の誤った衛生管理の例:介護士に手術前医師の手洗い方法をさせている

ある施設では、逆性石鹸とブラシを使って職員に 「正式な手洗い」をさせています。これは手術前に医師が行う方法で、大変時間がかかり、介護職には非現実的な手洗いと言えます。

職員がマスク姿でセキをしている

介護施設の誤った衛生管理の例:職員がマスク姿で咳をしています。

利用者の家族に「インフルエンザが流行しているので、面会を控えてください」と書かれた手紙が来ました。ところが、職員がマスク姿でセキをしているので説得力がありません。

家庭用加湿器をいっぱい並べても効果は低い

介護施設の誤った衛生管理の例:家庭用加湿器をたくさん置いている

冬季にはインフルエンザ対策として、家庭用加湿器をたくさん並べる施設が多いものです。しかし、ほとんどインフルエンザの予防に必要な湿度に達していません。また、ほかの感染症には逆効果です。

施設の総合衛生管理対策の基本とは

対して下のイラストは、実際に施設が行うべき対策です。つまり、行うべきは感染症対策よりも総合衛生管理対策だということになります。

どんなに外部からの侵入防止対策を講じても焼け石に水です。施設は、日頃の衛生管理をきちんと行ったうえで、「感染症発生時の初期対応」に重点を置かなければなりません。

厨房の衛生管理が基本中の基本

介護施設の総合衛生管理対策の基本。厨房の衛生管理は基本中の基本です

厨房の衛生管理には、「食材の温度管理」と「調理手順の分離」という2つの基本ルールがあります。後者は、肉や魚を切った包丁やまな板でサラダの野菜を切らないといったことです。

利用者がよく触る場所は職員が清掃を

施設の総合衛生管理対策の基本:利用者がよく触る場所は職員が清掃を

利用者の居室の清掃は、外注業者に任せている施設が少なくありません。ひどい施設では、1週間に1回です。これでは雑菌が繁殖するので、手すり、ベッド柵、ドアなど利用者がさわる場所は、職員が頻繁に清掃を行いましょう。

介助をひとつしたら手指の消毒を

施設の総合衛生管理対策の基本:1介助1手洗い

手洗いなど介護職員の衛生管理は、「完璧な除菌よりも頻回な除菌」を目指しましょう。手術を行う医師ではないので、「簡単でもいいから1介助1手洗い(手指消毒)」にすると長続きします。

外部からの感染防止には限界がある

介護施設に面会にきている利用者家族と利用者のイラスト

施設には、家族の面会を制限する権利はありません。協力をお願いするという形が基本です。「面会禁止」などを強制するとトラブルになるので、感染症発生時の初期対応に力を入れましょう。

現実的なマニュアルづくりが必要

説明したポイントをまとめましょう。感染症対策には、次のような現実的なマニュアルづくりが必要になります。

【介護施設感染症対策マニュアル作りのポイント】1)自施設を感染源とする感染症・食中毒⇒確実に施設の責任を問われる。①食事の衛生管理 ②設備の衛生管理 ③職員の衛生管理。2)外部の感染源からの侵入による感染症・食中毒⇒不可抗力性が高く完全に防ぐことは困難。①感染者の面会制限 ②利用者の抵抗力を上げる ③感染症が発生したときの二次感染の防止。優先度は1)>2)

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(2018年2月14日発売/講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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