介護施設の感染症対策では、基本となるリスクを「感染リスク」「発症リスク」「重度化リスク」の3つに分けて考えると効果的です。またそれぞれに対して、どのような場合に施設側の過失が問われるかも検討していきましょう。
施設の感染症対策の考え方
ある施設長が言いました。
「昨年は当施設では恥ずかしいことにノロウイルスの感染者を2人も出しました。今年は気を引き締めて、ノロウイルスもインフルエンザも絶対施設に入れないようにします」
しかし、施設職員も家族も施設の外で生活しているのですから、外部からの侵入を完全に防ぐことは不可能です。侵入対策ばかり強調せず、3つに分けて対策を立てましょう。
![介護施設の 基本となる3つのリスク。1)感染リスク。病原体に接触し、体内に病原体が侵入するリスク。施設環境や職員からの感染対策。面会者など施設外からの感染対策。発症者が出た時の二次感染対策。2)発症リスク。病原体が体内に侵入したときに発症するリスク。発症しやすい人に対する発症防止策。免疫力の低下を防止する対策。3)重度化リスク。発症したときに生命に関わる重篤な症状になるリスク。重症化しやすい人に対する重度化対策。合併症を防止する対策。](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/riskmanagement_81_01-960x1248.png)
1つ目は、感染リスクへの対策です。これは病原体の体内への侵入を防ぐ対策ですから、衛生行動や感染者との接触防止が基本になります。
具体的には、頻繁に手洗いを行う、利用者へも手洗いとうがいを徹底する、居室の温度と湿度を高めに設定してインフルエンザウイルスの不活性化対策を行う、などです。通院時は病院の待合室での長時間滞在を避け、できるだけ車内にとどまりましょう。施設内に発症者が出たら素早く隔離し、二次感染を防ぐことも大切です。
2つ目は、発症リスクへの対応ですが、ここでは予防ワクチンの接種がもっとも効果的な対策になります。ワクチンによって体内に抗体をつくると、抗体が侵入してきたウイルスを不活性化してくれるので発症を抑えます。ただし、接種したワクチンの型が感染したインフルエンザと異なると発症することがあるので注意が必要です。
そのほかの一般的な発症リスク対策としては、免疫力の維持があります。好きな食べ物を積極的に提供したり、カロリーを高めにしたりするなどの低栄養防止策が効果的です。
3つ目は、重度化リスクへの対策になります。介護施設で注意すべき重度化リスクは、「肺炎の併発」と「持病の悪化」なので気をつけましょう。
施設がより重い責任を問われるケースを解説
感染症が発生してしまった場合、施設がより重い責任を問われるのは以下のようなケースです(外部からの感染だけが、やや軽いケースになります)。
![【介護施設での感染症発生時、施設がより思い責任を問われるケース】1)感染に対する施設の責任[✕]施設の食事が原因で利用者が集団でノロウイルスに感染した[✕]1人目のノロウイルス発症者が嘔吐したとき処理を誤り、利用者が集団で二次感染した[△]面会に来た家族から、利用者がインフルエンザに感染した。2)発症に関する施設の責任[✕]利用者がインフルエンザを発症したとき、胃ろうで免疫力が低下している同室の利用者に感染した3)重度化に対する施設の責任[✕]ノロウイルスの疑いがある利用者が現れたが、対応が遅れたために重度化して死亡した[✕]肺炎球菌ワクチンの接種をすすめられたが徹底せず、インフルエンザを発生した利用者が肺炎で死亡した](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/riskmanagement_81_02-960x1785.png)
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています