【介護施設の感染症対策】未然防止策より拡大防止策に力を入れよう|トラブル対策編(第80回)

【介護施設の感染症対策】未然防止策より拡大防止策に力を入れよう | トラブル対策編(第80回)

外部から入ってくる感染症に対しては、感染源の侵入を防止する「未然防止策」と、施設内で感染が広がらないための「拡大防止策」で対応します。そのふたつをどのように考え、対応していけば良いか解説します。

家族の面会制限は注意が必要

介護施設は地域に開かれている必要があるので、外部からの感染を防ぎたいからといって、完全に侵入経路を遮断することは不可能です。下のイラストのように、未然防止策に固執しすぎず、むしろ二次感染の防止に力を入れましょう。

大切なのは未然防止策より拡大防止策

感染症対策は「未然防止策」から「拡大防止策」へ。感染症の侵入を未然に防ごうとするのは当然だが、それよりも感染症の発生を迅速に発見し、二次感染を防ぐほうが大切

外部との関係を遮断しすぎると弊害が大きい。未然防止策にばかり固執していると、万一、施設内に感染症が侵入した場合に発見が遅れるという弊害もあります。

感染症の侵入を未然に防ごうとするのは当然ですが、その先を考えておく必要があります。

それよりも感染症の発生を迅速に発見し、二次感染を防ぐほうが大切です。

外部からの感染は起こるものと考え、発生時のマニュアルを用意しておきましょう。特に、おもな感染症の罹患時に現れる特徴的な症状を研修しておくことは大切です。

外部者への依頼は注意喚起ポスターが効果的

家族への面会制限の徹底も、好ましくありません。感染症を怖がるあまり、未発生時点で家族の面会を制限(拒否)したとして、家族から訴訟寸前の強いクレームを受けた施設があるので注意が必要です。すでに感染症にかかっている利用者と体調不良の利用者のみ、面会の自粛を依頼しましょう。ポスターをつくり、手洗いやうがいに協力してもらうと効果的です。

介護施設の感染症拡大予防例。外来者への注意喚起ポスターの例。特別養護老人ホーム○○苑 施設長。感染症・食中毒の防止に関するお願い。以下本文:平素は当施設の運営にご協力をいただき厚く御礼申し上げます。さて、今年も食中毒や感染症の多発する時期を迎えました。皆様もご存じのとおり、当施設には抵抗力のないお年寄りがたくさんおり、O-157などの細菌性食中毒や感染症が発生すると、入所者の生命に関わる重大な問題となります。当施設では入所者の皆様の健康を守るため、調理の衛生管理や職員の手洗い・うがいの励行など、感染症・食中毒の防止に対して厳しく取り組んでおります。つきましては、ご面会のため来苑される皆様にも、感染症・食中毒の防止のため下記の注意事項を厳守いただき、ご協力を賜りたくお願い申し上げます。感染症・食中毒の防止のためにご協力いただきたいこと。感染症の防止について●感染症にかかっているかたは、居室への入室をご遠慮ください。●ご家族で感染症にかかっているかたがいらっしゃいましたら、職員までお申し出ください。 ●来苑されたかたは、玄関近くの手洗い所で手洗いとうがいをしてください。●風邪などで体調不良のかたは、マスクを着用してください(マスクは事務室でお渡ししています)。食中毒の防止について。●食べ物の持ち込みについては極力ご遠慮ください。●食べ物をお持ちいただいたかたは、職員に申し出て指示に従ってください。●お持ちいただいた食べ物で召し上がらず残った場合は、必ずお持ち帰りください。●お持ちいただいた食べ物を、同室の入所者に配ること(お裾分け)はご遠慮 ください(飲み込みの機能に問題があるかたがおり、危険な場合があります)。

エントランスに手洗い設備を設け、上記のような注意喚起ポスターを設置しましょう。面会者用スリッパが不衛生な施設が多いので、そうした施設は改善が求められます。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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