効率的な感染症対策を行うには、感染症に関する正確な知識が欠かせません。本記事では、介護職が知っておくべき基本的な知識をわかりやすく解説します。
目次
これだけは知っておきたい感染症の基本知識
- ①感染症とは?
- 感染症とは、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などの病原体が体内に侵入することで発症する病気です。これらの病原体が体内で増殖したり毒素を出したりすることで、さまざまな症状が現れます
- ②病原体とは?
- 病原体は種類によって性質や大きさが異なり、感染経路などもそれぞれ異なります。病原体の大きさは、小さい順にウイルス→細菌→真菌→微生物→寄生虫の順です。そのため、細菌が防げるマスクでもウイルスは通過してしまいます。
- ③感染するとは?
- 病原体が体内に侵入することを感染すると言います。しかし、感染してもすぐに発症するわけではありません。発症しない期間(潜伏期間)があり、長期間発症しないこともあります。体内に病原体を持っている人をキャリアと呼びます。
- ④発症するとは?
- 病原体が体内で増殖し細胞の破壊などの損傷を与えると、症状が出現します。これが発症(または発病)です。一般に免疫力の高い人は発症しにくく、免疫力の低い人(高齢者、幼児、妊婦、基礎疾患のある患者など)は発症する可能性が高くなります。また、一度感染して回復した人は、体内に抗体ができるため、次に感染しても発症しにくくなります。
- ⑤感染経路とは?
- 病原体が体内に侵入する経路のことで、病原体によって決まっています。たとえば、ノロウイルスは口から消化器官を通じて体内に侵入しますが、インフルエンザウイルスは上気道の粘膜から体内に侵入します。
- ⑥感染症の種類
- 医師が保健所へ届け出る義務がある法定感染症は、1~5類に分類されています。
感染症基本知識テスト
下記の設問は、ある感染症対策研究会での確認テストです。コピーして、 施設の研修会で活用してください(次章で解答と解説を掲載します)。この設問に正しく答えられるでしょうか。
![【感染症基本知識テスト】問1:免疫力の低い人は感染症に感染しやすい。問2:石けんで念入りに手を洗えば、手に付着した細菌やウイルスはほぼ100%洗い落とせる。問3:ヨウ素系うがい薬でうがいするほうが、 水でうがいするよりインフルエンザの感染を防げる。問4:若い人のほうが感染症に感染したとき発症しやすい。問5私たちが「風邪をひく」と呼んでいる感冒は、全てウイルスの感染によるものである。問6:インフルエンザの重症化で起こる肺炎も、本当は別の病原体の感染によって起こっている。問7:インフルエンザウイルスの付着した食物を食べると必ず感染する。問8:インフルエンザウイルスは患者の吐いた息から空気感染する。問9 MRSAは治療する薬がないので、絶対に感染を防がなくてはならない。問10:ノロウイルスは二枚貝の中など、水分がある場所でなければ生存できない。](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/riskmanagement_79_01-960x1016.png)
テストの解答と解説
テストの正解は、問4、5、6が「○」でその他の設問が「×」です。間違えた人は、もう一度感染症について学び直しましょう。解説は、下の表を参照してください。
![【感染症基本知識テスト解答】問1:「感染症に感染する」とは、感染症の病原体(細菌やウイルスなど)が体内に侵入することであって、発症することではありません。免疫力の低い人は、発症しやすいのであって感染しやすいわけではないのです。感染リスクと発症リスクは、区別する必要があります。問2:都立駒込病院で「念入りな手洗いによる除菌率」を調査したところ、平均除菌率は58.1%でした。ちなみに、擦式手指消毒剤による平均除菌率は57.3%でほぼ同率でした。問3:京都大学のグループが、水によるうがいとヨウ素系うがい薬によるうがいの、インフルエンザ予防効果を調査しました。その結果、両者とも予防効果は同率で、発症率が40%減少することが実証されました。問4:高齢者は長年の生活でさまざまな感染症に感染し、体内に病原体の抗体をたくさん持っているので感染しても発症しにくいのです。若年者は高齢者に比べて抗体が少ないので、発症する可能性が高くなります。問5:私たちが日常的に風邪をひいて病院に行っても病原体の検査などしませんが、実は風邪(感冒)も原因はすべてウイルスです。ライノウイルス、RSウイルス、コロナウイルス、エンテロウイルスなど実に多くの種類があります。問6:インフルエンザに感染し発症しても、インフルエンザで肺炎が起こるわけではありません。インフルエンザによって体力や免疫力が低下するために、ほかの病原体により肺炎を発症します。肺炎球菌性の肺炎の8割を予防できるので、インフルエンザの重度化予防に肺炎球菌ワクチンが使われるのです。問7:一般にインフルエンザウイルスは、上気道(鼻腔から喉頭付近までの気道)の粘膜から体内に侵入し、消化器官からは侵入しません。食べ物から上気道を経て侵入することもないわけではありませんが、可能性は低いでしょう。また、インフルエンザウイルスは、唾液や消化液に分解されてしまう性質もあります。問8:インフルエンザウイルスは、ウイルスだけで空中を浮遊することはありませんから、厳密には空気感染は起こりません。しかし、セキやくしゃみなどで飛び散った飛沫の水分が蒸発して飛沫核となり、空中を浮遊し感染することがあります。これを飛沫感染と呼び、空気感染とは区別しています。問9:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、抗生物質メチシリンへの薬剤耐性を持った細菌です。発症するとほとんどの抗生物質が効かないので、病院内では厳重な院内感染防止策が必要とされますが、一般生活者の免疫レベルで発症することはありません。常在菌でもあり、私たちの周囲には保菌者がたくさんいます。問10:ノロウイルスは経口感染し、十二指腸や小腸などで消化器感染症(感染性胃腸炎)を起こす病原体です。感染経路としては、食物への付着による感染のほか、嘔吐物や糞便の接触感染と、発症者の吐瀉物が乾燥して空気中に舞い上がり、大量の感染者を出すことがあります](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/riskmanagement_79_02-960x1266.png)
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています