【介護施設の感染症対策】マニュアルをつくる前に、まず病院の感染症対策を知ろう|トラブル対策編(第78回)

【介護施設の感染症対策】まずは病院の感染症対策を知ろう | トラブル対策編(第78回)

施設の感染症対策の参考になるのは、医療機関の院内感染症対策です。ただし、医療と介護では内容が異なるので注意が必要です。「スタンダード・プリコーション」を例に、感染症対策マニュアルづくりのコツを解説します。

介護施設の独自性をいかに保つか

医療の世界には、「【参考】院内感染症対策の基本」で示すように、厳しい院内感染症対策の基本があります。それがスタンダード・プリコーションと呼ばれるものです。

これらは、おもに医療従事者が行う対策ですが、入院患者にもさまざまな影響が出ます。こうした規制だらけの環境にいれば、少なからず自由が制限されることになるからです。

介護施設でも、医療機関のスタンダード・プリコーションを参考に職員が守るべき標準予防策の規定をつくり、それを徹底しなければなりません。

しかし、医療と介護では、その内容が異なります。マスク、手袋、ガウンの着用は、利用者に疎外感を与え、精神的に傷つける面もあるので注意が必要です。

スタンダード・プリコーションとは何か

介護施設の感染症対策のイラスト。医者と施設職員、利用者さんがいます。

スタンダード・プリコーション(標準予防策)とは、医療機関で行われる院内感染症対策の基本で、「特定の感染症や疾病を対象とせず、標準的に講じられる感染症対策」のことです。

その目的は、血液やその他の体液への接触を最低限にすることで、汗を除く全ての患者の血液、体液、粘膜および損傷した皮膚を感染の可能性のある対象として対応することにより、患者と医療従事者双方に対する院内感染の危険性を減少させるものです。

【参考】院内感染症対策の基本

下記に示したのは「日本医療福祉設備協会管理指針」の抜粋です。介護施設で感染症対策マニュアルをつくる場合は、あくまでも参考にとどめてください。

介護施設の感染症対策についての表。血液・体液暴露 防止対策:●全ての患者の血液、体液、粘膜および損傷した皮膚を感染の可能性のある対象とした防 止策をとる ●高リスクである鋭利器具(注射器、メスなど)の取り扱いに注意する ●廃棄物の扱いに注意する ●損傷皮膚をドレッシング材(包帯など)で保護する。手洗い:●院内感染予防対策上、もっとも基本的な行為として位置づける ●手指に付着している 微生物等を消毒・除去するためには30秒以上の手洗いを必須とする ●手洗いの原則は 「1処置1手洗い」なので、1回の医学的処置に対して1回ごとに手洗いを行う ●日常的手洗いは、食事の前やトイレのあとなどに石けんと流水で行う ●医療現場での衛生的手洗いは、無菌操作時やその他手指消毒を目的とし、消毒剤と流水により行う。うがい:●うがいは通常食物残渣などの異物と通過菌を洗い流すのが目的である。イソジンガーグルを用いても口腔内の常在菌数は100分の1程度に減少するだけであり、消毒剤による頻繁なうがいは逆に口腔内の常在菌叢(そう)に影響を与える。手袋:●使い捨て手袋は、湿性の体液の取り扱い時(採血、出血予想の注射、容器内排泄物の破棄、失禁患者の身体清拭、採尿バッグの取り扱い、気管内吸引、創の手当て、救急処理排泄物の処理)などでおもに使用●マスクはおもに医療従事者保護の目的で使用する ●マスクはひもの部分のみを持って取り扱い、破棄するとき以外は顔から外さない ●マスクを手で持ち歩いたり、首の回り にかけて歩かない ●使い捨てマスクは、湿ったり汚染したときは随時交換する。マスク:●マスクはおもに医療従事者保護の目的で使用する ●マスクはひもの部分のみを持って取り扱い、破棄するとき以外は顔から外さない ●マスクを手で持ち歩いたり、首の回り にかけて歩かない ●使い捨てマスクは、湿ったり汚染したときは随時交換する。ガウン、エプロン:●医療従事者の制服を患者の血液や体液による汚染から保護する目的と、医療従事者の制服から患者を保護するために使用する ●医療従事者は、プラスチックエプロンを着用したまま病棟区域から退出しない。白衣、 ナースキャップ、聴診器、 花瓶:●白衣は予防衣であるため、汚染されていることを常に認識する ●前ボタン式の白衣 は、診療または看護中は常にボタンを留めておく  ●ナースキャップのみならず、医療従事者の顔面や頭部は汚染されていることを認識し、仕事中は髪の毛はもとより、首から上には決して触れないよう心がける ●花や花瓶または花瓶の水には微生物が存在するた め、花瓶を取り扱った後は、花瓶の外側を乾燥させ、取扱者は必ず手洗いを行う ●花瓶 の水は緑膿菌増殖の温床となりうるので、水は毎日交換する。ケアに使用した器具:●器具を操作・洗浄するときは、手袋やプラスチックエプロンを着用する。なお、ディスポーザブル製品の場合は適切に破棄する。リネン:●汚染されたリネンは、周囲を汚染しないように運搬し、適切に消毒する。感染性医療廃棄●血液など湿性の体液などが付着した廃棄物は正しく分別し、適正な廃棄容器に適量(75%程度)破棄する。院内清掃:●靴のまま歩く床は感染のリスクが少ないが、血液や体液で汚染された床は消毒が必要で、消毒後清掃および乾燥が必要である。ゾーニング:●病院内を全て同じように清潔に保つことは不可能なので、求められる清潔度に応じて対応を変える必要がある

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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