身体介護でも生活援助でも、非常に多いパターンのクレームです。利用者家族が「自分の思う通りにヘルパーが動いてくれない」と申し立ててくることに対して、どのような対応、改善をすると良いか解説します。
クレーム発生時の状況を説明
まずは、利用者Dさんのご家族からクレーム申し立てがあった内容と、トラブルになった経緯を見てみましょう。
利用者の状況

Dさん
78歳、女性、要介護2
既往症:脳梗塞の後遺症で左片マヒ、認知症あり
ADL:立位は短時間なら可能。歩行は介助が必要。食事は普通食。発語あり。認知症の影響でコミュニケーションがうまくいかないことがあるが、基本的には会話が成立する
ご家族からのクレーム内容
私は79歳の男性です。妻が69歳の若さで脳梗塞を起こして倒れて以来、9年間も私1人で妻の介護を続けて参りました。
しかし去年の夏、妻の入浴介助をしていたらぎっくり腰になってしまったのです。それをきっかけに1人で行う介護に限界を感じ、週に3日はヘルパーをお願いするようになりました。ところが、ヘルパーは介護のプロだと思っていたのに、全然ダメな人が多くて困っているのです。

わが家では、一度バスタオルを使っても洗わずに干しておいて、2~3回使ってから洗濯機で洗います。それなのに1人目のヘルパーはたった1回使用しただけのバスタオルを洗濯機に入れてしまっていたのです。そういう勝手なことをされては困るので、サービス提供責任者にクレームを入れました。
2人目のヘルパーもダメでした。妻はお風呂に入る前に、必ずトイレに行くことになっています。それなのにトイレに連れて行かなかったために、浴槽を汚してしまったんです。これもクレームを入れて、ヘルパーを替えてもらいました。
それ以降は何人かのヘルパーが入れ替わりながら来るのですが、みんなまったくダメです。だから、私はヘルパーが来ている間に食材の買い物に行きたいのに、家を空けることができません。訪問介護事業所に話しても「すみません」というだけで、何も変わりません。

難しい注文でも即否定はしない
デイサービスや入所施設と違って、ホームヘルパーに関するクレームでは、このような「やり方が気に入らない」という内容が目立ちます。
この事例のクレーム申立者は男性で、内容は身体介護のやり方でした。それが同じヘルパーでも生活援助になると、途端に女性利用者からのクレームが多くなります。女性は長年自分のやり方で家事をやってきましたから、自分の家で違う家事のやり方をされると非常に気になるようです。
実際には、利用者とヘルパーは違う人間ですから、まったく同じやり方をするというのは無理があります。それでも情報をうまく引き出して管理できれば、ある程度意向に添うことはできるはずです。
その努力をしないままで、「そんなのは無理だ」と考えて対応を怠ってはいけません。こうした努力は、お客様のためだけでなく、一方的に責められることからヘルパーを守ることにもつながります。
このクレーム対応のおもな問題点は2つ
このクレームにおいておもな問題点となるのは次の2つです。それぞれ解説します。
無理な話だと思ってきちんと対応してこなかった

事業者としては、このクレームを「無理だ」「難しい注文だ」と感じる人が多いのではないでしょうか。利用者の動きにはその人その人でくせがありますし、訪問介護事業所は顧客をたくさん抱えていますから、それぞれの家庭の細かいルールまで把握しきれません。そのうえ、派遣されるヘルパーは何人もいます。
だからといって何も対応しないのでは、信頼関係が崩れるばかりです。まずは、最善の対応ができるよう努力する必要があります。
ヒアリング不足と申し送りの体制が不十分

クレーム内容を見ると、これだけ要求が細かい利用者のご家庭であるにもかかわらず、ほとんど情報の引き継ぎがされていないように見えます。新しく担当するヘルパーにはある程度の内容がしっかり伝わるように、サービス提供責任者は引き継ぎのシステムを見直す必要があるのではないでしょうか。
また、訪問介護事業所側の「なるべくしっかり引き継ごうとする姿勢」が感じられたら、ご家族の態度も軟化するかもしれません。
このクレーム対応の改善点は?
改善案として次の4点が提案できます。

このクレームの適切な対応方法(一例)
わが家では一度バスタオルを使っても洗わずに干しておいて、2~3回使ってから洗濯機で洗います。それなのに1人目のヘルパーはたった1回使用しただけのバスタオルを洗濯機に入れてしまっていたのです。そういう勝手なことをされては困るので、サービス提供責任者にクレームを入れました。
すると、すぐにサービス提供責任者とケアマネジャーがわが家を訪ねてきたのです。そして、私の介護のやり方について、非常に細かく聞いてメモをとりました。入浴介助の部分で1ヵ所だけ「奥様の手はこちらに置いたほうがやりやすいのではないか」と指摘されましたが、そこは確かにいつも腰に負担がきて大変な部分でした。手の場所を変えることで、安定感が増したので、「さすがプロだな」と感じて驚きました。
それからというもの、新しいヘルパーが来ても、そのメモを見ながら介護してくれるので安心です。たまに間違ったことをすることもありますが、注意するとメモを見返して「本当だ。間違えてしまいました。すみません」と謝ってくれます。
新しいヘルパーが来たときは、最初の数回はきちんと見ていないといけませんが、それ以降は任せて買い物に出ても大丈夫です。以前に比べたらだいぶ楽になりました。

なんでもこの訪問介護事業所では私のクレームをきっかけにして、もっと利用者家族の介助方法を詳しく聞いて取り入れるシステムに変わったそうです。「業務改善にご協力いただいた」などとお礼を言われて、驚きました。
その後も、ときどきサービス提供責任者やケアマネジャーが「困ったことはありませんか?」と聞きに来てくれるようになったので、このままの調子でやっていくつもりです。
話し合いを通して最良のケアを探ることが大切
在宅で利用者と家族介護者の間で行われている独自の介助方法を、突然来たヘルパーがすぐに再現するのはほぼ不可能です。そのうえ、介護のプロであるヘルパーのやり方のほうが理論上は正しいことが多いので、基本的にヘルパーは自分のやり方で介護を行います。ですから介助方法にクレームを申し立てられても、利用者家族が悪いと感じて応じないヘルパーが多いのではないでしょうか。
大切なのは、家族と一緒に考えることです。押しつけてはいけません。それには、サービス提供責任者が家族の介助方法を細部まで聞き出すことが必要です。もし、危険なやり方や、利用者と介護者にとって負担になる点があれば指摘します。
そしてお互いのやり方をどこまで合わせられるかの妥協点を探り、合意してからサービスを始めるべきです。そうすればこの種のクレームを、劇的に減らすことができます。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社/2018年2月14日発売)の内容より一部を抜粋して掲載しています