転倒事故を起こしたくないからといって、利用者をベッドから立てなくする――これでは介護本来の目的を見失っていますし、何より権利を侵害してしまいます。身体拘束はモラルの問題という次元ではなく、犯罪なのだと認識しましょう。
介護の目的は生活を支えること
介護事故防止活動を進めていくと時々、必要以上に利用者の自由を制限しようとする施設が出てきます。確かに、立てないようにすれば転倒することもできません。事故件数も減るでしょうし、数字の上では事故防止活動が順調に進んでいるように見えるかもしれません。
事故を起こしたくない気持ちはわかりますが、これでは介護の目的を見失っています。介護の目的はあくまでも生活を支えることであり、事故防止のために利用者の自由な生活を奪ってしまっては本末転倒です。
そうは言っても、プロとして利用者の安全を守る義務もあります。利用者の自由な生活をどこまで守れるかというのは、非常に難しい問題です。
そんなときは「事故防止活動で得られる安全の大きさ」と、「それによって利用者が受ける悪影響」を天秤にかけて考えるようにしましょう。いくら安全で便利でも、利用者の心身に対する悪影響が大きい方法であれば採用してはいけません。
身体拘束は原則的に犯罪である
介護保険法では、「介護は自立支援」という理念があるため身体拘束は禁止されています。ただし、「利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高く」「身体拘束以外に代替する介護方法がなく」「身体拘束が一時的なものである」という3つの条件がそろった場合のみ、例外的に身体拘束が認められているのです。
また、身体拘束は刑法によっても禁止されています。介護の一環でも、他人の行動の自由を奪うことは権利侵害になるので、「逮捕・監禁罪」に該当する違法行為だと考えられるからです。本当にやむをえない場合のみ例外的に正当性が認められることもありますが、身体拘束が原則的に犯罪であるということは覚えておきましょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています