【事故防止編 第6回】介護の一環でも身体拘束は権利侵害になる

介護の一環でも身体拘束は権利侵害になる | 事故防止編(第6回)

転倒事故を起こしたくないからといって、利用者をベッドから立てなくする――これでは介護本来の目的を見失っていますし、何より権利を侵害してしまいます。身体拘束はモラルの問題という次元ではなく、犯罪なのだと認識しましょう。

介護の目的は生活を支えること

介護事故防止活動を進めていくと時々、必要以上に利用者の自由を制限しようとする施設が出てきます。確かに、立てないようにすれば転倒することもできません。事故件数も減るでしょうし、数字の上では事故防止活動が順調に進んでいるように見えるかもしれません。

事故を起こしたくない気持ちはわかりますが、これでは介護の目的を見失っています。介護の目的はあくまでも生活を支えることであり、事故防止のために利用者の自由な生活を奪ってしまっては本末転倒です。

そうは言っても、プロとして利用者の安全を守る義務もあります。利用者の自由な生活をどこまで守れるかというのは、非常に難しい問題です。

そんなときは「事故防止活動で得られる安全の大きさ」と、「それによって利用者が受ける悪影響」を天秤にかけて考えるようにしましょう。いくら安全で便利でも、利用者の心身に対する悪影響が大きい方法であれば採用してはいけません

【事故防止と高速の関係性と考え方】事故防止活動は、それをおこなうことによって利用者にあたえる悪影響と安全を比較して判断します。利用者が自分で降りれないようにベッドを柵で囲むことの悪影響は、自由が奪われ、身体機能や精神機能が低下すること。一方安全はベッドからの転落や転倒を防ぐこと。ベッドからの転落や、ベッドから降りて転倒するのを防ぐために柵を取り付けるのも身体拘束です、得られる安全に対して、「自由に動くことが奪われ、寝たきりになるため筋力も衰え、認知症も進む」ということであれば悪影響が大きすぎます。

身体拘束は原則的に犯罪である

介護保険法では、「介護は自立支援」という理念があるため身体拘束は禁止されています。ただし、「利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高く」「身体拘束以外に代替する介護方法がなく」「身体拘束が一時的なものである」という3つの条件がそろった場合のみ、例外的に身体拘束が認められているのです。

【厚生労働省が発表した身体拘束にあたる行為】1.徘徊しないように車イスや椅子、ベッドに体感や四肢をひも等で縛る。2.転落しないように、ベッドに体感や四肢をひも等で縛る。3.自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。4.点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。5.点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、また皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。6.車イスや椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車イステーブルをつける。7.立ち上がる機能がある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。8.脱衣やオムツ外しを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。9.他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。10.行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。11.自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
出典:厚生労働省『身体拘束ゼロへの手引き』をもとに作成

また、身体拘束は刑法によっても禁止されています。介護の一環でも、他人の行動の自由を奪うことは権利侵害になるので、「逮捕・監禁罪」に該当する違法行為だと考えられるからです。本当にやむをえない場合のみ例外的に正当性が認められることもありますが、身体拘束が原則的に犯罪であるということは覚えておきましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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