【マンガで解説】家族のクレームに対する悪い対応/クレーム申立者のニーズを把握することが大切です|トラブル対策編(第66回)

【マンガで解説】家族のクレームに対する悪い対応/クレーム申立者のニーズを把握することが大切です | トラブル対策編(第66回)

本記事では、悪いクレーム対応を例にとって、問題点を整理します。クレームを申し立ててきた家族が「誠意がない施設だ」と感じてしまうポイントはどこでしょうか。くわしく解説します。

クレーム申立者のニーズを摑もう

介護業界で一般的に行われているクレーム対応の、いったいどこが問題なのかを具体的に考えてみましょう。

【マンガで読む】ある特養のクレーム対応事例

【クレーム対応事例漫画①】利用者家族が施設に問い合わせをしたところ、あらゆる部署にたらいまわしにさrてしまっている
【クレーム対応事例漫画②】利用者の足にけががあることを発見した利用者家族が施設に電話をかける。ショート責任者とやり取りをするが、対応が不適切な様子

上のマンガは、介護施設のクレーム対応の悪さが原因で、利用者家族を怒らせてトラブルにつながってしまった事例です。これを読んで、皆さんはどのように感じましたか。

「うちの施設はもっとしっかりした対応ができている」という人もいれば、「うちの施設の中にも、このような対応の職員がいると思う」と感じる人もいるのではないでしょうか。

この事例では、クレーム申立者が欲していること(ニーズ)が掴めていないため、的外れな対応になったことが相手を怒らせてしまった根本原因と言えます。もしも、このクレーム申立者に正しい対応をしていれば、 まったく違う結果を生んだはずです。次項からは、このクレーム対応の問題点を具体的に考えてみましょう。

電話のたらい回しはとても不愉快に感じる

今回の事例でまず問題だったのが、「クレームの受付方法」です。最初は事務員が電話に出ましたが、その後相談員、ショートの責任者と、次々に電話を代わってしまいました。

それぞれの職員に電話を取り次いだ理由があるのはわかりますが、これではお客様が「たらい回しにされている」と感じるのも仕方のないことです。たらい回しにされると、本人にとっては非常にイヤな気持ちになります。というのも、「面倒なものとして扱われている」「きちんと責任を持って向き合おうとしてくれない」という印象を与えてしまうからです。

職員の立場は、お客様にとっては関係がありません。クレーム受付で無責任な印象を与えないよう、受付方法を確立しておく必要があります。

【この事例の問題点1】クレームの受付方法が悪い

【今回電話に出た人のそれぞれの言い分】事務員:詳しいことがわからないため。相談員:ショートステイとは別棟のため。ショートの責任者:忙しい時間帯だったため。お客様の立場から見ると:きちんと受け付けてもらえずたらいまわしにされた。クレーム内容をきちんと聞いてもらえない。電話に出た職員が全員自分が当事者ではないと考えていることが伝わってくる。クレーム受付が悪いと、日ごろから無責任な姿勢で介護にあたっている施設なのではないかと感じ不信感がつのる。

この職員の対応を、お客様の立場から見るとこうなります。

  • きちんと受け付けてもらえずに、たらい回しにされた
  • クレーム内容をきちんと聞いてもらえない
  • 電話に出た職員が全員「私は関係ない。当事者ではない」と考えていることが伝わってくる
  • クレーム受付が悪いと、日頃から無責任な姿勢で介護に当たっている施設なのではないかと感じ、不信感がつのる

【この事例の問題点2】対応に誠意が感じられない

この事例の問題点の2つ目としては、「クレーム対応に誠意が感じられなかった」という点が挙げられます。ここで注目すべきは、「誠意がなかった」のではなく、「お客様にとっては誠意が感じられなかった」という点です。

この施設ではお風呂上がりに利用者の全身を確認して、記録も正確に残していました。これだけ見ても、決して介護に無責任な施設ではないはずです。

それなのに、結果的に誠意がない施設だと思われてしまった最大の原因は、お客様のニーズを把握できなかったことにあります。とりこぼしてしまったお客様のニーズは、大きく分けると次の3点です。

(1)謝罪がない

利用者家族からのクレームに対し、謝罪なしに対応する施設職員のイラスト

クレームを受けたときに、施設側からの謝罪がないと「誠意がない」と感じやすくなります。かといって、本当に施設側に責任があるのかどうかわからない時点で謝罪をしてしまっていいのでしょうか。謝罪したことが原因で、あとで不条理に責任を追及されては困ります。

(2)話を聞かない

利用者家族からのクレーム電話に対し、話を最後まで聞かず担当につなげようとする事務員のイラスト

話を最後まで聞いてもらえないのも、「誠意がない」と感じやすくなるポイントの一つです。この事例の職員は、話がわかる人に早く取り次いだほうがいいと考えました。よくわかっていない職員が話を聞くのと、事情がわかる職員に取り次ぐのとではどちらのほうがいいのでしょうか。

(3)解決しない

施設に電話をしたものの、対応が不適切で問題を解決できず困っている利用者家族のイラスト

クレーム申立者の多くは、何かしら「解決したい問題」を抱えています。クレーム対応を通してその問題が解決しなかった場合、「誠意がない」と感じることが多いようです。原因究明や詳しい調査とお客様が抱えている問題とでは、どちらが優先されるべきでしょうか。 

実はこの3点には、一般企業のお客様センターなどでよく用いられている対応方法の基本的なルールがあります。介護施設でもそうしたルールを取り入れて、クレームの対応方法を確立していくといいでしょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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