本記事では、悪いクレーム対応を例にとって、問題点を整理します。クレームを申し立ててきた家族が「誠意がない施設だ」と感じてしまうポイントはどこでしょうか。くわしく解説します。
クレーム申立者のニーズを摑もう
介護業界で一般的に行われているクレーム対応の、いったいどこが問題なのかを具体的に考えてみましょう。
【マンガで読む】ある特養のクレーム対応事例


上のマンガは、介護施設のクレーム対応の悪さが原因で、利用者家族を怒らせてトラブルにつながってしまった事例です。これを読んで、皆さんはどのように感じましたか。
「うちの施設はもっとしっかりした対応ができている」という人もいれば、「うちの施設の中にも、このような対応の職員がいると思う」と感じる人もいるのではないでしょうか。
この事例では、クレーム申立者が欲していること(ニーズ)が掴めていないため、的外れな対応になったことが相手を怒らせてしまった根本原因と言えます。もしも、このクレーム申立者に正しい対応をしていれば、 まったく違う結果を生んだはずです。次項からは、このクレーム対応の問題点を具体的に考えてみましょう。
電話のたらい回しはとても不愉快に感じる
今回の事例でまず問題だったのが、「クレームの受付方法」です。最初は事務員が電話に出ましたが、その後相談員、ショートの責任者と、次々に電話を代わってしまいました。
それぞれの職員に電話を取り次いだ理由があるのはわかりますが、これではお客様が「たらい回しにされている」と感じるのも仕方のないことです。たらい回しにされると、本人にとっては非常にイヤな気持ちになります。というのも、「面倒なものとして扱われている」「きちんと責任を持って向き合おうとしてくれない」という印象を与えてしまうからです。
職員の立場は、お客様にとっては関係がありません。クレーム受付で無責任な印象を与えないよう、受付方法を確立しておく必要があります。
【この事例の問題点1】クレームの受付方法が悪い

この職員の対応を、お客様の立場から見るとこうなります。
【この事例の問題点2】対応に誠意が感じられない
この事例の問題点の2つ目としては、「クレーム対応に誠意が感じられなかった」という点が挙げられます。ここで注目すべきは、「誠意がなかった」のではなく、「お客様にとっては誠意が感じられなかった」という点です。
この施設ではお風呂上がりに利用者の全身を確認して、記録も正確に残していました。これだけ見ても、決して介護に無責任な施設ではないはずです。
それなのに、結果的に誠意がない施設だと思われてしまった最大の原因は、お客様のニーズを把握できなかったことにあります。とりこぼしてしまったお客様のニーズは、大きく分けると次の3点です。
(1)謝罪がない

クレームを受けたときに、施設側からの謝罪がないと「誠意がない」と感じやすくなります。かといって、本当に施設側に責任があるのかどうかわからない時点で謝罪をしてしまっていいのでしょうか。謝罪したことが原因で、あとで不条理に責任を追及されては困ります。
(2)話を聞かない

話を最後まで聞いてもらえないのも、「誠意がない」と感じやすくなるポイントの一つです。この事例の職員は、話がわかる人に早く取り次いだほうがいいと考えました。よくわかっていない職員が話を聞くのと、事情がわかる職員に取り次ぐのとではどちらのほうがいいのでしょうか。
(3)解決しない

クレーム申立者の多くは、何かしら「解決したい問題」を抱えています。クレーム対応を通してその問題が解決しなかった場合、「誠意がない」と感じることが多いようです。原因究明や詳しい調査とお客様が抱えている問題とでは、どちらが優先されるべきでしょうか。
実はこの3点には、一般企業のお客様センターなどでよく用いられている対応方法の基本的なルールがあります。介護施設でもそうしたルールを取り入れて、クレームの対応方法を確立していくといいでしょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています