介護現場の情報共有を適切に行う方法/夜中に転倒、翌日リハビリを実施したことで家族が激怒した事例に学ぶ|トラブル対策編(第64回)

介護現場の情報共有を適切に行う方法/夜中に転倒、翌日リハビリを実施したことで家族が激怒した事例に学ぶ|トラブル対策編(第64回)

利用者の最新情報がスムーズに関係各所に伝わらないと、大問題になることがあります。特に、利用者の転倒やケガの情報共有がされずにいることを家族が知ると、施設に対して不信感を抱いてしまうので注意が必要です。

事故の詳細

まずは利用者Hさんご本人と事故発生時の状況、事故に対しての施設の対応、トラブルに至る経緯を見てみましょう。

利用者の状況

Hさん 77歳・女性・要介護3・多発性脳梗塞、高血圧症、軽度認知症

Hさん

77歳・女性・要介護3・多発性脳梗塞、高血圧症、軽度認知症

認知症は軽度で、食事は見守り程度で普通食を食べています。排泄は一部介助が必要なものの、歩行は一応自立。軽い左片マヒがあるので、リハビリに熱心に取り組んでいます。

事故発生時の状況

老健に入所しているHさんは、軽い左片マヒと軽い認知症がある女性利用者です。左片マヒは脳梗塞の後遺症で、リハビリに熱心に取り組んでいます。毎日、リハビリの時間を楽しみにしている様子。そんなHさんのやる気を、PTも嬉しく思っています。

ある日の夜中、Hさんはポータブルトイレを使おうとしたらバランスを崩して転倒しました。夜勤の看護師は打撲と判断し、湿布薬を貼って翌日まで様子を見ることにしました。翌朝の日勤との申し送りの場で、看護師はHさんの転倒と経過観察中であることを口頭で伝えました。相談員は朝になってから家族に事故の連絡をし、痛むようであれば受診するつもりであることを伝えました。

転倒した利用者を受診させず経過観察として、リハビリを行っている様子。それを見た家族が激怒しています。

午前中に家族が様子を見に来ると、Hさんは機能訓練室でPTと一緒に歩行訓練を受けているところでした。家族の抗議でその後念のため受診したところ、なんとマヒ側の左大腿骨にヒビが入っていることが判明しました。家族は激怒し、大きなクレームになってしまいました。

配慮されていないと感じた家族が傷つく事故

「介護施設でケガをした」というのは、本人や家族にとっては大事件です。体も傷ついていますが、同じように心も傷ついてナイーブな状態になっています。ですから施設の関係者は当然ケガをしている今の身体状況を把握して、特別に配慮してほしいと思うものです。

そんなとき、職員が利用者のケガを知らずにリハビリをしていたら、家族は施設の管理体制に対して大きな不信感を持つでしょう。それに加え、「大切にしてくれていない」と心情面でも傷ついてしまいます。

施設内の連絡不足という単純な問題が、家族にとっては「大切な親を粗末に扱われている」と心情面で許しがたい不義理に映ることもあるのです。

トラブルを誘発したポイントは?

トラブルを誘発したポイントとしては、次の4点が考えられます。

機能訓練前にPTが利用者の身体状況の確認をしなかった

利用者にPTがリハビリのための声掛けをするイラスト

PTは機能訓練を行う前に、利用者の身体状況を正確に把握する必要があります。体調に問題があれば、リハビリは中止しなければなりません。しかし実際は、毎回機能訓練のたびに全員の全身を完璧にチェックすることは困難です。

経過観察中の利用者への対応が決まっていない

経過観察中の対応が決まっていないことをあらわすイラスト

「転倒して、経過観察中」という状態は「結果的に骨折していれば事故」ですが「特に問題がなければヒヤリハット」として扱う施設がほとんどです。また、事故報告書にもヒヤリハットシートにも未記入であることが少なくありません。

事故報告のしくみが不完全で、新しい事故の情報共有が遅い

事故報告書を提出しただけで、見てもらっていないイラスト

事故報告書はあっても、事故直後に迅速に情報を共有する機能が欠けている施設が多く見受けられます。事故速報が関係各所にしっかり伝わらないことが、この事例の根本原因です。情報共有のしくみを考え直す必要があります。

デイやショートなど、部門ごとに情報が分断されている

部門ごとに情報が分断されているため、利用者の情報をうまく連携できていないことをあらわすイラスト

併設のデイサービスやショートでも、同様のトラブルが起こることがあります。職種や部門が違っても、利用者から見れば「同じ施設の職員」です。ケガをしているのにレクリエーションやリハビリをすすめると、「配慮がない」と感じます。

情報共有に必要なしくみをルール化する

この事例のように「利用者がケガをしたことが施設内で伝わらなかったことによる事故やトラブル」を防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。

まずは、ケガをしたという情報がその利用者の関係する人たち全員に伝わるように、情報伝達のしくみをつくり直す必要があります。いちばん簡単で確実な方法は、ケガをした利用者のベッドの近くに経過観察中であることがわかるように貼り紙をすることです。こうしておけば、この利用者に関わる人はひと目で状況を理解できます。

本来、施設内で事故が起きた場合は、すぐに事故報告書が書かれて情報が伝わるはずです。経過観察中は「もし大きなケガでなかったら、ヒヤリハットですむかもしれない」という思いから、事故報告書を書かないで待っている場合もありえます。しかし、その間にリハビリをしては問題です。転倒して経過観察中だということは、骨折しているかもしれないし、頭部を打ちつけているかもしれません。 容態が不明確な状態ですから、本来なら絶えず気にかけるべきなのです。

そんなときのために、「事故速報シート」を作成しましょう。「事故速報シート」とは、事故報告書を書くまでの期間に関係各所に配慮してもらうためのシートです。「事故が起きたこと」「関係者は配慮してほしいこと」という内容を事前に印刷しておいて、記入者が簡単な情報を書けばいいようにしておきます。記入内容をなるべく少なくすることが、上手に活用してもらうポイントです。

この事故速報シートを関係する部署にFAXで送るようにルール化すれば、短時間で必要な人たちに経過観察をしてもらえるようになります。情報さえ伝わっていれば、利用者や家族に配慮のある言葉かけを行うこともできるはずです。

このタイプのトラブルを回避するための「4つのルール」

ルール化すべきこととして、「ベッドの近くに転倒情報を貼っておく」「事故速報シートを作成する」「事故速報シートを関係各所にFAXし、掲示してもらう」「緊急時は施設長の携帯等にメールを入れる」この4つが挙げられます。

【1】ベッドの近くに「○月✕日転倒 経過観察中です」などの転倒情報を貼っておく

介護施設において、利用者のベッドの近くに転倒情報を貼っているイラスト

前日の夜に転倒して経過観察中であれば、骨折や頭を強打した可能性もあります。容態が不明確な状態ですから、Hさんに関わる全ての職員が絶えず気にかけるべきです。ベッド付近に転倒の情報を貼っておけば、少なくともリハビリは中止されたことでしょう。

【2】経過観察の場合は、「事故速報シート」を作成するようにルールを変える

経過観察中などで、事故報告書を書くべきなのかヒヤリハットシートを書くべきなのか迷う場合のために、「事故速報シート」をつくりましょう。

事故速報シートの例。【事故速報】下記の事故がおきました!関係する職員は対応に適切な配慮を行ってください!!施設名・場所・報告者・自己種類・利用者名を記載。

これは「転倒はしたものの、口頭の引き継ぎばかりで記録がない」という宙ぶらりんな時間帯をなくすためです。書式は、各施設で工夫してください。

【3】事故速報シートは関係各所にFAXで送り、掲示してもらう

自己速報シートを、ヘルパーステーションやリハビリ室など関係のある全ての部署にFAXで贈り、掲示してもらうイラスト

事故速報シートを書いたら、ヘルパーステーション、ナースステーション、リハビリ室などの関係する部署全てにFAXで送ります。FAXが来たら、それを掲示するようルール化するといいでしょう。入所の利用者が、併設するデイサービスを利用している場合などは、そちらにも忘れずに送信します。

【4】夜間の転倒や体調急変は、施設長の携帯等にメールを入れる

利用者の事故や体調の急変を知らない施設長が、駆けつけた家族に不適切な言葉をかけてしまうイラスト

以前、家族が心配して駆けつけたときに、偶然出勤してきた施設長が、何も知らずに「今日はお早いですね」とふつうに声をかけてしまってクレームに発展してしまったことがあります。事故が起こった場合、夜間であっても施設長にはメールで一報を入れるようにしましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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