【事故防止編 第5回】介護現場の事故を正しく評価するにはどうすればいいか

介護現場の事故を正しく評価するにはどうすればいいか | 事故防止編(第5回)

事故防止活動の要となるのは、正しい基準を持つことです。今回は、介護現場の事故をどう評価するかについてご紹介します。また、ご家族に事故のリスクを説明する際の注意点もあわせて考えてみましょう

過失の大きさで事故を評価する

事故の大きさを損害の大きさで評価すると、職員の努力でコントロールできない部分なので現場の士気が下がってしまいます。では、事故はどう評価すればいいのでしょうか。

私たちは施設の過失の有無や大きさによって、次のように5段階に分けて評価します。

【事故の正しい評価方法】の図。以下、1~5段階で施設の責任を表している。数字が小さいほど施設の責任は大きくなり、「簡単に防げる事故」。数字が大きいほど、施設の責任は小さくなり、「防ぐことが困難な事故」である。「過失とみなされる」ものは、「1:ルール違反で起こる事故」「2:ミスが原因で起こる事故」「3:基本的な事故防止対策で防げる事故・標準的な技術で防げる事故」がある。「過失はない」とされるものは、「4:事故防止のためには高度な技術や特殊な知識を必要とする事故」「5:どんな対策を講じても防げない事故(不可抗力)」がある。1~3は「賠償責任が発生」する事故。1~4.5は「家族が期待するレベル」の、施設側が責任をとるべき事故。4~4.5は「賠償責任は発生しないが、家族は納得してくれない」事故。

もっとも施設の過失が大きいのが、 レベル1の「ルール違反で起こる事故」です。反対に施設の過失が「なし」とされるのが、レベル5の「どんな対策を講じても防げない事故」です。 

レベル1~3は過失になるので、賠償責任が発生する「防ぐべき事故」と言えます。一方の レベル4と5は、基本的に施設の過失にはなりません。

防げない事故と家族への説明

防げない事故が起こったときに問題になるのが、家族の感情です。

多くの家族は、施設側から「この事故は防げません」と言われても、そう簡単には納得できません。ですから、事故の可能性について、入所時から丁寧に説明しておくことが大切です。

【入所時に家族に渡す資料(一例)】の図。

事故の可能性についてご家族に説明する際、「お父様は歩行が不安定なので転倒する危険性があります。ご了承ください」などと事実だけを述べてはいけません。これでは施設が何の努力もなしに、責任を放棄しているように聞こえてしまいます。

そのようなときは、「事故の危険性」と「防止するために施設で行っている対策」をセットで説明することが必要です。

そこで家族に協力してほしいことを併せて伝えれば、家族も当事者意識を持ってくれます。 「プロに預けたから万事安全」ではなく、当事者意識を持って施設生活を見てもらうと、初めて事故防止の難しさを理解してもらえるのです。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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