誤薬は即受診が基本です/経過観察中に死亡した誤薬事故から対応策を学ぶ|トラブル対策編(第63回)

誤薬は即受診が基本です/経過観察中に死亡した誤薬事故から対応策を学ぶ|トラブル対策編(第63回)

注意していても、ときに起こってしまう誤薬事故。事故が起きた際は、どんな薬であっても、誤薬後に経過観察をしてはいけません。なぜなら、誤薬の影響は多種多様で、医師でないと対応ができないからです。

事故の詳細

まずは利用者Gさんご本人と事故発生時の状況、事故に対しての施設の対応、トラブルに至る経緯を見てみましょう。

利用者の状況

Gさん 92歳・女性・要介護3・脳梗塞、狭心症、アルツハイマー型認知症

Gさん
92歳・女性・要介護3・脳梗塞、狭心症、アルツハイマー型認知症

認知症はあるものの軽度で、食事や排泄は一部介助すれば自分で行えます。移動は車椅子。ふだんは脳梗塞の予防薬と抗認知症薬を服用しています。

事故発生時の状況

ある特養のショートステイの朝食後、利用者G・Sさん(女性92歳、体重32kg)は自らの薬を服用したうえに、同じ姓の利用者であるG・Aさん(女性66歳、体重55kg)の薬を誤って飲まされました。誤薬した看護師がとった対応は「経過観察」。しかし、G・Sさんは意識不明となり、救急搬送されたが2日後に病院で亡くなりました。

施設で、同姓の利用者の薬を誤飲してしまった利用者と慌てる施設職員のイラスト

医師の説明によると「間違えて飲んだアクトスという糖尿病の薬は、日頃飲んでいるワーファリンという脳梗塞の予防などに用いる薬との相性が非常に悪い。そのため急激な血糖値の低下を起こした可能性が高い」とのことでした。遺族は看護師を相手取って、業務上過失致死で刑事告発しました。

G・Sさんが間違って飲んだ薬

  • ラシックス錠40mg(高血圧症)

  • アクトス錠30mg(糖尿病)

G・Sさんが日頃から飲んでいた自身の薬

  • ワーファリン錠5mg(脳梗塞)

  • アリセプト(認知症)

誤薬の影響は多様すぎて予測できない

誤薬事故の防止に努めることは非常に大切ですが、人間のやることですから、それでも起こってしまうことがあります。万一、誤薬事故が起こってしまった場合は、迅速な受診が何よりも大切なことです。


誤薬の定義とは

誤薬とは、次のような場合のことを指します。

  • 飲むべきでない薬を飲んだ
  • 飲むべき薬を飲まなかった

  • 飲むべき時間を間違えた

  • 飲むべき形状で飲まなかった

「事故対応マニュアルでは、誤薬後は即受診、決して経過観察をしていてはいけません」と私は毎回セミナーで力説しています。それでも、相変わらず施設の看護師は何も起こらないだろうと考えて、なかなか即受診を徹底してくれません。

誤薬事が発生した際は、すぐに受診しましょう。最大限の医療処置を行いましょう。施設勤務の看護師の判断で経過観察にしてはいけません。

どんな誤薬でも必ず受診が必要なのは、それだけ難しくて危険な事故だからです。誤薬がその人に与える影響は、多種多様で予測不能のため、医師でなければ対応ができません。

看護師判断での経過観察はなぜダメなのか

看護師による誤薬後の判断はNG。判断は医師法上の「診断」にあたる行為。看護師は「診断」を行えない。医師法違反にあたる。

今回ご紹介した事例のように看護師が誤薬した場合、「何も起こらなければ、自分のミスもなかったことにしよう」という意思が働いているのではないかと勘ぐってしまいます。なぜなら、誤薬事故が発生した際に、家族への連絡もせずに勝手に経過観察にしているケースが散見されるからです。これは医療モラルにかかわる重大な問題と言えます。

そもそも「間違えて飲んだ薬がその利用者にどのような影響を与えるのか」を判断する行為は、医師法上の「診断」に該当する行為です。診断という医療行為を許されているのは医師だけで、看護師は診断を行う資格がありません。看護師が勝手に「問題ないだろう」と診断する行為は医師法違反であり、法に違反して人に傷害を負わせれば「業務上過失傷害」として刑事責任を問われます。 

誤薬後に看護師の勝手な判断で経過観察にするのは、絶対にあってはならない違法行為です。

誤薬がその人に与えるおもな影響

誤薬がその人に与える影響というのは実に多種多様で、医師でないと対応しきれないことは説明しました。では、実際にどのような影響があるのでしょうか。「どれほど危険か」というのをある程度実感していただくために、誤薬のおもな悪影響についてまとめてみました。

【1】正常値の人が飲むと低血圧や低血糖症を引き起こす

血圧降下剤を誤って飲んで、意識を失う高齢者のイラスト

お年寄りが一般的に服用している薬の中には、正常値の人が間違って飲むと危険なものがいくつかあります。その代表的な薬が、高血圧症の人が飲む「血圧降下剤」と、糖尿病の人が飲む「血糖降下剤」の2つです。私たちは突然血圧や血糖値が下がると、意識を失い昏睡(こんすい)状態になることもあります。これらを誤薬した場合は、すぐに医療的な処置が必要です。

薬名 効能 薬に添付されている注意書き
ラシックス 血圧降下剤 【慎重投与】
重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者

【高齢者への投与】
心疾患等で浮腫のある高齢者では急激な利尿は急速な血漿(けっしょう)量の減少と血液濃縮をきたし、脳梗塞等の血栓塞栓症を誘発する恐れがある
アクトス 血糖降下剤

【禁忌】
心不全の患者及び心不全の既往歴のある患者

【併用注意】
糖尿病用薬の血糖降下作用を増強する薬剤 β遮断剤、サリチル酸剤、モノアミン酸化酵素阻害剤、フィブラート系の高脂血症治療剤 等

【高齢者への投与】
1日1回15mgから投与を開始し、経過観察しながら慎重に投与する

【2】間違えた薬と自分の薬の相互作用で起こる危険

薬の飲み合わせが悪いと副作用が出ることをあらわすイラスト

薬には「飲み合わせ」があり、一緒に飲むと副作用が出たり薬効が下がることがあります。薬の相互作用は医師や薬剤師がチェックしているので、処方された場合は問題ありません。しかし、誤薬の相互作用までチェックできる看護師はほとんどいないので注意が必要です。

【3】間違えた薬の作用が、その人の疾患に悪影響を及ぼす

誤薬によって、その人が抱えている疾患に対して悪影響がでることを表すイラスト

誤薬によって、その人が抱えている疾患に対して悪影響を与えてしまうことがあります。低血圧の人が血圧降下剤を飲めば、異常低血圧になって非常に危険です。この事例ではラシックスもアクトスも心疾患に悪影響を及ぼす可能性があり、要注意とされています。

【4】年齢や体格差から見て量が多すぎる

年齢や体格差によって処方量が異なることをあらわすイラスト

高齢者では体格や年齢によって代謝機能に差があるため、処方量を調節します。一般的には体重が少ない人には量を減らし、65歳と90歳では90歳の人を少量にするものです。事例では誤薬したG・SさんはG・Aさんよりも高齢で体重も少ないので、より危険な誤薬だと言えます。

【5】薬によっては、いきなり規定量を飲むと効きすぎる

誤薬による副作用は薬や患者によっては予測がたたないことをあらわすイラスト

全ての薬には何らかの副作用がありますが、重大な副作用が予想される薬の一部には「〇mgから処方を開始して、徐々に規定量まで増やすこと」などの増量規定があります。こういう薬を誤薬してしまうと、副作用がどれだけ出るのかまったく予測がつかないので特に危険です。 

どんな誤薬でも即受診を徹底しよう

ここに出ている影響が全てではありません。しかし、上の5項目を見るだけでも非常に対応が難しいことはわかっていただけることでしょう。

たとえば今回取り上げた誤薬事故は、大変深刻な事例と言えます。なぜなら、G・Sさんが誤薬させられたG・Aさんの薬の相互作用を調べてみると、かなり危険な飲み合わせであることがわかるからです。

まず1点目。間違えて飲んだ血圧降下剤のラシックスの持つ危険性です。ラシックスは、心疾患のあるG・Sさんにとって血栓塞栓症を起こす危険があります。それに高血圧でないG・Sさんがラシックス錠40mg(かなり量が多い)を服用すれば、異常低血圧に陥る危険もあります。

2点目は、ワーファリンという脳梗塞の薬を飲んでいる人が、アクトスという糖尿病薬を誤薬した際に起こる危険です。この薬によって血糖降下作用が強くなり、異常低血糖に陥る可能性が高くなります。また、通常15mgから服用を始めるべき薬をいきなり30mg服用しているので、急激な低血糖になる可能性がより高くなります。

このように今回の誤薬事故は対処が非常に難しく、医師でも悩んでしまうケースでしょう。しかし看護師は、一般人に対する服薬の影響しか考えていません。経過観察にしたということは、薬の相互作用などに対する知識も、きちんと学んでいなかったのでしょう。

お年寄りの体はデリケートなので、どんな誤薬であっても即受診を徹底しましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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