家族が要求する介護方法で事故が起きたらどうなる…/事故予防策をくわしく解説|トラブル対策編(第62回)

家族が要求する介護方法で事故が起きたらどうなる…/事故予防策をくわしく解説|トラブル対策編(第62回)

家族からの要望は断りにくいものですが、利用者の家族から「こうしてほしい」と頼まれて、それを実行して事故が起きた場合はどうなるのでしょうか。要求があった際の適切な対応を解説します。

事故の詳細

まずは利用者Fさんご本人と事故発生時の状況、事故に対しての施設の対応、トラブルに至る経緯を見てみましょう。

利用者の状況

Fさん  81歳・女性・要介護5・脳梗塞(2回)、四肢マヒ、前年に胃瘻造設

Fさん

81歳・女性・要介護5・脳梗塞(2回)、四肢マヒ、前年に胃瘻(いろう)造設

移動は車椅子で、更衣・排泄・食事等は全介助。利き腕ではない左腕だけ肩まで上がるものの、あとはほとんど動かない状態。認知症も重度で、常にボーッとしています。

事故発生時の状況

Fさんは前年に胃瘻を造設したものの食べる意欲はあり、これまでは在宅で、次女が経口摂取と経管栄養剤を併用して介助してきました。今回の入所に当たって、次女から「在宅でやっていたときと同じように口から食べさせてほしい」という強い要求があったので、施設はこれを受け入れました。

「胃瘻でも口から食べさせて」と介護士に危険な要求をする利用者家族のイラスト

入所後も次女は毎日来所して食事介助を行い、要求も多く出してきました。なかには「主食は全粥(ぜんがゆ)だが、混ぜごはんは利用者の好物なので普通食で出してほしい」という危険な要求もありました。

ある日、次女が旅行に出て食事介助に来ませんでした。2日目の昼食時に、混ぜごはんを普通食で食べさせたところ、Fさんは急に苦しそうな顔になりました。誤嚥と判断して食事を中止し、タッピングを施行。このとき、かなり吐き出しました。それから吸引を施し、それでもむせが長引いたので救急搬送。

全て迅速に行いましたが、Fさんは亡くなりました。次女は「施設の責任」と主張してクレームを入れました。施設側は「家族の要求した介助をしたのだから、責任はない」と主張。このままいくと、家族は裁判に訴える構えです。

家族の要求による介護方法でも施設の責任になる

家族が要求する介護方法で事故が起こった場合、施設側の過失になるのでしょうか。これは、残念ながら施設側の過失になります。なぜなら家族は介護のプロではないので、当然間違えることがあるからです。家族から医学的に見て間違った要求をされた場合は、そのまま受け入れてはいけません。介護のプロである施設のほうに、家族に適切な説明をして説得をする義務が生じます。

なかには利用者への思い入れの強さから、自分のやり方を施設に要求する家族がいるものです。「入浴後はこのクリームを塗ってください」といった小さな要望であれば快く受け入れますが、度を越した要求はきちんと拒否することも大切です。

トラブルを誘発したポイントは?

次の2点が考えられます。

介助方法をめぐって家族と意見が対立したときに、しっかり話し合わずに受け入れてしまった

介助方法をめぐって家族と意見が対立したときに、しっかり話し合わずに受け入れてしまったイラスト

胃瘻でも口から食事ができる人はたくさんいます。しかし利用者の身体状況をしっかり確認していない段階で、一方的に家族の主張だけを受け入れるのは危険です。家族の要求は安易に受け入れず、施設側もしっかりと利用者の状況を把握するようにしましょう。

家族の要求する食形態が医学的に見て問題があったのに、そのまま受け入れてしまった

家族の要求する食形態が医学的に見て問題があったのに、そのまま受け入れてしまったイラスト

介護施設の職員には、医学的な判断が必要なケースであるのに、医師や看護師に相談するのを面倒に思う人が多いようです。そのため、家族の要求を自分だけの判断で受け入れてしまいます。医学的な問題は、せめて看護師には相談したいものです。

受け入れられない基準を決めておく

今回の事例は、度を越した要求に応じたために起こった事故と言えます。本来なら、入所の時点で不適切な部分はお断りするべきだったのです。

家族が1対1で介護する在宅と、限られた職員で多くの利用者の生活と安全を守らなければならない施設とでは条件が違います。せめて、「家族が来て食事介助するときは求められる食形態で出すが、来られないときは施設側が適切だと考える食形態で出す」というところまで持っていくべきでした。

そうなると、「どのような要求は受け入れて、どのような要求は拒否するのか」という基準を決めておく必要があります。私の関わっている施設が「こういう内容の要求は断る」と決めているのが、次の3つです。ぜひ参考にしてください。

強い決意で拒否すべき3つのポイント

本人にとって不適切な場合

強い決意で拒否すべき家族からの要求/本人にとって不適切な場合

要求の内容が本人の苦痛を伴う場合や、介護の専門的な観点から考えて本人に適切でない要求をされた場合。

運営上、対応が不可能なもの

強い決意で拒否すべき家族からの要求/運営上、対応が不可能なもの

「常時見守りをしてほしい」など施設の運営上、どうしても人員配置ができないような要求をされた場合。

明らかに危険が伴う場合

強い決意で拒否すべき家族からの要求/明らかに危険が伴う場合

「口から食べて死ぬなら本望だろうから、おいしい普通食を食べさせてほしい」などの、危険が伴う要求の場合。

真っ向対立は避け専門家が説得する方法も

多くの介護施設は、施設の方針に合わない要求をしてくる家族に対応するノウハウを持ち合わせていません。そのため意見が対立すると真っ向から自分の意見を主張して、関係が悪化します。かといって、家族の提示する危険を伴う要求に全て応えてしまうのも問題です。

このような場合は、医師の力を借りて説得しましょう。この事例なら、口腔外科や口腔リハビリの専門医がいいでしょう。

今回の家族の要求は「主食は全粥だが、混ぜごはんは好物なので普通食で」というものでした。この場合は口腔関連の医師から「Fさんの嚥下障害の状態から見て、とろみをつけない食事は危険であること」を科学的に説明してもらいます。

施設側は「医師の許可がないと対応することはできない」という立場を守るといいでしょう。「介護保険法に抵触する」といった説明をするのも、相手の気分を害さない方法です。

家族と意見が対立したときの説得方法は?

医師から説得してもらう

家族と意見が対立したときの説得方法/医師から説得してもらう

家族と施設とで意見が割れてしまったときに、「家族も頑固なら施設も負けずに頑固」ではらちがあきません。お互いの意見を言い合ううちに、関係が悪化してしまいます。このような場合は、施設がお世話になっている医師から説得してもらいましょう。頑固な家族も、医師の意見には納得して従うことが多いものです。

制度や立場を理解してもらう

家族と意見が対立したときの説得方法/制度や立場を理解してもらう

危険と知りつつ強い要求をしてくる家族もいます。本望と言われても、実際に事故が起こったら施設の過失になるのです。こんな場合、「私たちは介護保険制度の指定を受けた事業者なので、利用者様の生命を守る義務があります。危険とわかって行う行為は介護保険法に抵触し、指定取り消しになるので受け入れられません」と説明しましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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