ルールを守らない利用者が事故を起こしたらどうなる…/適切な家族対応、事故予防策をくわしく解説|トラブル対策編(第61回)

ルールを守らない利用者が事故を起こしたらどうなる…/適切な家族対応、事故予防策をくわしく解説|トラブル対策編(第61回)

事故の原因を調べてみると、利用者が施設の規則を破っていたことがわかりました。この場合、施設の責任になるのでしょうか。責任はどこにあるか、また適切な対応について解説します。

事故の詳細

まずは利用者Zさん、Eさんそれぞれと事故発生時の状況、事故に対しての施設の対応、トラブルに至る経緯を見てみましょう。

利用者の状況

Zさん 90歳・男性・要介護3・ 認知症、片マヒ

Zさん
90歳・男性・要介護3・ 認知症、片マヒ
重度の認知症で、生活行為は全体的に介助が必要。嚥下に問題があるので、食事はとろみをつけたソフト食。

Eさん 82歳・女性・要介護2・高血圧症、腰痛

Eさん
82歳・女性・要介護2・高血圧症、腰痛
腰痛の影響で動きに制限があるものの、認知症もなく社交的な性格なのでデイサービスの人気者。

事故発生時の状況

週に3回デイサービスを利用しているEさんは、社交的で明るい性格。認知症もなくしっかりしていて、気をつかってみんなに話しかけるので職員やほかの利用者からも好かれている人気者です。

そんな世話好きのEさんには、1つだけ困った習慣があります。それは食べ物の持ち込みが禁止されているデイサービスにお菓子を持ってきては、ほかの利用者に配ってしまうこと。注意しても直りません。

ある日、Eさんが持ってきた饅頭(まんじゅう)をZさんがのどに詰まらせて、救急車で運ばれる騒動が起きました。幸い命に別状はありませんでしたが、非常に危ないところでした。

老人ホームにお菓子を持ち込んで規則違反をする利用者

契約書には「禁止事項に違反して事故が起きた場合、デイサービスは責任を負わない」と明記してあります。そのため、今回の事故に関しては規則違反を犯したEさんの家族に、Zさんへの謝罪と補償をお願いしました。Eさんの家族もこれを了承しました。

ところが数週間後、Zさんの家族が国保連に苦情を申し立てました。調べたところ、Eさんの家族はどうしたらいいかわからず、Zさんの家族に対して謝罪も補償もしていませんでした。

誰が責任をとるかわかりにくい事故

介護施設で起こる事故の多くは、施設側の過失が問題となります。しかしこの事例のように、利用者同士のやりとりの中で起こる事故の過失責任はどう考えたらいいのでしょうか。

この事例では規則違反を犯したEさんの責任ということで、Eさんの家族が補償を行うことになりました。では、実際に裁判になった場合、施設の責任は問われないのでしょうか。

Zさんの家族の怒りは、デイサービスに向かいました。Eさんの家族に補償を丸投げしたデイサービスの態度が、無責任に思えたからです。しかし契約書には「禁止事項違反があったらデイサービスは責任を負わない」と書いてあります。どうしたらよかったのでしょうか。

トラブルを誘発したポイントは?

トラブルを招いた点として、「注意喚起の方法が不十分だった」「ある程度黙認してしまっていた」「契約書があるので安心していた」「施設の責任について考えなかった」この4つが考えられます。

注意喚起の方法が不十分だった

トラブルを誘発したポイントは、利用者への注意喚起が不十分だったことを説明するイラスト

「ダメですよ」「規則です」などの抽象的な説明ばかりで、Eさんが食べ物を持ち込む危険性をしっかり認識できていたか疑問があります。

ある程度黙認してしまっていた

トラブルを誘発したポイントは、規則違反を介護士が黙認していたことを表すイラスト

「悪気はないから」「みんな楽しそうだから」ということで黙認してしまい、対処が甘かったと言えるでしょう。お預かりするなどの一歩踏み込んだ対処までは行わなかったのも一因です。

契約書があるので安心していた

トラブルを誘発したポイントは、規則違反による事故について施設は責任を負わないと契約書にあるので安心していたことにあると説明するイラスト

契約書に書いてあるから施設側に責任はないと考えて、事故後の補償をいっさい行いませんでした。実際に裁判になったら、この主張は通るのでしょうか。

施設の責任について考えなかった

トラブルを誘発したポイントは、施設側に責任が生じることを考えていないかったことを説明するイラスト

「禁止していたのだから、こちらに落ち度はない」という思いから、被害者やその家族に対する態度が悪く、配慮に欠けていました。

このトラブルを回避する方法は?

利用者の契約違反や、規則違反が原因でも、施設の施設管理が問われることを理解し、真摯に対応しましょう。

契約が無効とされる事例

契約が無効とされる事例の紹介イラスト/認知症の利用者の行動・心理症状が原因で事故が起きても、施設は責任を負わないとするもの/利用者同士のトラブルについて、施設は責任を負わないとするもの/患者が医師の指導に従わずに事故を引き起こした場合、医師または病院は賠償責任をいっさい負わないとするもの
  • 認知症の利用者の行動・心理症状が原因で事故が起きても、施設は責任を負わないとするもの
  • 利用者同士のトラブルについて、施設は責任を負わないとするもの
  • 患者が医師の指導に従わずに事故を引き起こした場合、医師または病院は賠償責任をいっさい負わないとするもの

禁止事項を契約書に書いても無効になる

この事例がトラブルにつながった原因の一つは、契約書に「禁止事項に違反して事故が起こった場合、デイサービスは責任を負わない」という内容を明記していた点が挙げられます。では、契約書にこうした項目を設けておけば、事故が起こっても本当に施設側は責任を負わなくてすむのでしょうか。

残念ながら実際に事故が起こって裁判などになった場合、事業者の責任を一方的に免除するこうした契約内容は消費者契約法によって無効になります。ですから施設側の対応に過失があれば、契約書の内容にかかわらず責任は問われるのです。

2001年4月に施行された消費者契約法では、「事業者の債務不履行や不法行為によって生じた賠償責任の一部または全部を免除するような条項を設けて消費者に約束させても無効」と定められています。

そうなると「規則で禁止していたから、規則を破ったEさんの責任だ」という主張は通りそうにありません。問題となるのは、施設側の対応に過失があったかどうかです。

この事例の過失判断は非常に微妙なラインですが、「トラブルを誘発したポイントは?」で触れたように注意喚起や事故が起こるまでの対応が不十分だったと考えられます。おそらく裁判になれば、「デイサービスという施設の性質上、禁止していてもお年寄りは食べ物を持ってくる可能性があることを予測して対処する義務がある」という結論が出るでしょう。

ですからまずは、被害者であるZさんと家族に対して、施設が中心となって補償や謝罪を真摯に行う必要があります。

また、再発防止のために次のような対策をルール化することも大切です。

この事故を防止する方法|ルール化すべきポイント4つ

危険性をわかりやすく説明する

規則違反による事故を防止する方法/危険性をわかりやすく説明する

認知症がない利用者は、きちんと説明すれば理解してくれます。「どのような人に対するどんな行為が、どのように危険なのか」を具体的に説明するといいでしょう。多くの場合は、納得してやめてくれます。

何度もくり返して説明する

規則違反による事故を防止する方法/何度もくり返して説明する

「禁止です」と言うだけでは不十分です。危険なことについては、くり返し注意喚起を行いましょう。「見つけた場合は、衛生面への配慮もありますので、お帰りまで預からせていただきます」などと対応を決めるといいでしょう。

家族にも危険性を理解してもらう

規則違反による事故を防止する方法/家族にも危険性を理解してもらう

本人への注意喚起で収まらない場合、家族に協力を求めるのも有効です。施設に食べ物を持って来る前に、家族でチェックしてもらえると安全性が上がります。発見したら、施設で預かることへの了承もとりましょう。

安全にできるお手伝いをお願いする

規則違反による事故を防止する方法/安全にできるお手伝いをお願いする

「喜んでもらいたい」という気持ちが強い利用者が、食べ物を配ることがあります。そのタイプなら、ほかの安全な作業を手伝ってもらうのも有効です。手伝ってもらったときは、必ず感謝の言葉を添えるようにしましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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