ひとくちに介護事故と言っても、その背景によって「防ぐべき事故」「防げない事故」があります。プロとして防ぐべき事故とはどのようなものでしょうか。その見分け方を覚えましょう。
過失になる事故、過失にならない事故
「過失のある事故」とはどんな事故なのでしょうか。 次の事例を参考に、過失の判断について考えてみましょう。
介護職が部屋に様子を見に行ったら、利用者がベッドのそばで倒れていました。どうやら排泄のために自力でポータブルトイレに移乗しようとして、転倒してしまったようです。すぐに看護師を呼んで診てもらうと、太もものあたりを激しく痛がります。病院に搬送したところ、大腿骨骨折でした。
過失にならない(防げない事故)
過失にならない事故、つまり防ぐことができない事故には次の2つのパターンが該当します。
過失になる(防ぐべき事故)
施設側の過失になる事故、つまり防ぐべき事故(防げる事故)には次の3つのパターンが該当します。
判断が難しくなる場合
施設側に過失があるかどうかの判断が難しい事故には、次のパターンが該当します。
何をもって過失になるかの基準とは
職員の目が届かない居室の中で起こった転倒事故は、一般的 に「防げない事故」です。
居室にいる利用者が自由に動くのを抑制することはできませんし、転倒するときに支えることもできません。この状態で事故が起きたなら、多くの場合は「過失のない事故」になります。
こうした「事業者の過失に当たらない、防ぎようがない事故」に対して、必死に防止対策を考える事業者が多いのが問題です。防ぎようがない事故を無理に防ごうとすると多くの場合、マンパワーに頼って非効率的になります。
例えばこの事例の場合だと、「事故を未然に防げるように、見まわりを強化しよう」といった防止対策のことです。 居室の中で利用者がいつ何を行い、どれが事故に結びつくかはわかりません。それを、ただでさえ忙しい職員による見まわりの強化で防ごうというのは、無駄な労力と言わざるをえません。
しかし、過去にこの利用者が同様の転倒事故を起こしていたらどうでしょうか。その場合は危険の予測ができますから、事故を防ぐためにこの利用者個人に対しては何かしらの対策を講じる必要があります。それを怠ったために起きてしまった事故であれば、「施設に過失のある事故」になるでしょう。
難しい言葉になりますが、法律の観点から言うと「予見可能性がある事故で、結果回避可能性が認められれば多くの場合は結果回避義務が生じる。これを怠ると過失と認定される」と説明されます。これはつまり、「過失のある事故とは、プロとしてやるべきことをしっかりできていれば、防ぐことができた事故を指す」ということです。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています