【事故防止編 第4回】実例から考える 事故が起きた場合の過失の有無とは

事例から考える 事故が起きた場合の過失の有無とは | 事故防止編(第4回)

ひとくちに介護事故と言っても、その背景によって「防ぐべき事故」「防げない事故」があります。プロとして防ぐべき事故とはどのようなものでしょうか。その見分け方を覚えましょう。

過失になる事故、過失にならない事故

「過失のある事故」とはどんな事故なのでしょうか。 次の事例を参考に、過失の判断について考えてみましょう。

介護職が部屋に様子を見に行ったら、利用者がベッドのそばで倒れていました。どうやら排泄のために自力でポータブルトイレに移乗しようとして、転倒してしまったようです。すぐに看護師を呼んで診てもらうと、太もものあたりを激しく痛がります。病院に搬送したところ、大腿骨骨折でした。

介護職員が部屋に利用者の様子を見に行ったら、利用者がベッドのそばで倒れていたイラスト

過失にならない(防げない事故)

【防げない転倒事故】いつもは排泄の際、必ずナースコールを押し介助依頼をする利用者が、突発的に「忙しいのに悪いな」と思って自力でやろうとし転倒しているイラスト

過失にならない事故、つまり防ぐことができない事故には次の2つのパターンが該当します。

  • この利用者が日頃は問題なく自力で移乗ができていて、この日だけつまずいたなどの突発的な原因によって転倒した場合
  • いつもは排泄の際に必ずナースコールを押して介助依頼していたのに、この日だけ突発的に自力でやろうとしてしまった場合

過失になる(防ぐべき事故)

【防げる転倒事故】利用者がナースコールを鳴らしたのに職員が来なかったため、自力で移乗しようとして転倒してしまうイラスト

施設側の過失になる事故、つまり防ぐべき事故(防げる事故)には次の3つのパターンが該当します。

  • この利用者が以前にも同様の転倒事故を起こしていて危険だと気がついていたのに、特に何も対策を立てていなかった場合
  • いつもは排泄の際に必ずナースコールを押して介助依頼していたのに、この日だけ突発的に自力でやろうとしてしまった場合
  • 日頃からナースコールを無視することが何度もあった場合

判断が難しくなる場合

【施設側に加湿があるか判断が難しい転倒事故】認知症がある利用者が、「尿意を感じたらナースコールを押して排泄介助をしてもらう」という流れを理解しているかどうかによって過失の大きさが変わる

施設側に過失があるかどうかの判断が難しい事故には、次のパターンが該当します。

  • 認知症がある利用者の場合、「尿意を感じたらナースコールを押して排泄介助をしてもらう」という一連の流れが理解できるかどうかによって過失の大きさが変わることがある

何をもって過失になるかの基準とは

職員の目が届かない居室の中で起こった転倒事故は、一般的 に「防げない事故」です。

居室にいる利用者が自由に動くのを抑制することはできませんし、転倒するときに支えることもできません。この状態で事故が起きたなら、多くの場合は「過失のない事故」になります。

こうした「事業者の過失に当たらない、防ぎようがない事故」に対して、必死に防止対策を考える事業者が多いのが問題です。防ぎようがない事故を無理に防ごうとすると多くの場合、マンパワーに頼って非効率的になります。

例えばこの事例の場合だと、「事故を未然に防げるように、見まわりを強化しよう」といった防止対策のことです。 居室の中で利用者がいつ何を行い、どれが事故に結びつくかはわかりません。それを、ただでさえ忙しい職員による見まわりの強化で防ごうというのは、無駄な労力と言わざるをえません。

しかし、過去にこの利用者が同様の転倒事故を起こしていたらどうでしょうか。その場合は危険の予測ができますから、事故を防ぐためにこの利用者個人に対しては何かしらの対策を講じる必要があります。それを怠ったために起きてしまった事故であれば、「施設に過失のある事故」になるでしょう。

難しい言葉になりますが、法律の観点から言うと「予見可能性がある事故で、結果回避可能性が認められれば多くの場合は結果回避義務が生じる。これを怠ると過失と認定される」と説明されます。これはつまり、「過失のある事故とは、プロとしてやるべきことをしっかりできていれば、防ぐことができた事故を指す」ということです。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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