ストレッチャーの転倒で死亡事故/トラブルになりやすい事故への対策②|トラブル対策編(第58回)

ストレッチャーの転倒による死亡事故/器具の欠陥による事故への対応方法|トラブル対策編(第58回)

介護用機器の構造上の欠陥で起きた事故について見てみましょう。この場合、事故の責任は、使っていた施設側か介護用器具のメーカー側か、どちらにあると判断されるのでしょうか。また家族への正しい説明方法についても解説します。

事故の状況説明

利用者Bさんご本人と事故発生時の状況、事故に対しての施設の対応、トラブルに至る経緯を見てみましょう。

利用者の状況

Bさん 78歳・女性・要介護5・くも膜下出血、脳血管性認知症

Bさん

78歳・女性・要介護5・くも膜下出血、脳血管性認知症

くも膜下出血の後遺症により、移動・食事・排泄など全介助。脳血管性認知症もあるので、ロ頭での説明で物事を理解することは難しい状態です。便失禁・尿失禁あり。

事故発生時の状況

ある特養の入浴中に、機械浴のストレッチャーが利用者を乗せたまま転倒しました。利用者は頭部を強打し、救急搬送されましたが搬送先の病院で亡くなりました。当初は職員のミスが原因だと判断され、施設が全面的に賠償する意向でした。

ストレッチャーの転倒事故のイラスト

しかしその後、法人内のほかの施設でも同様の事故が起きていることがわかりました。検証した結果、このストレッチャーは脚が内側に付いているため、利用者が台の端に寄ると倒れやすい構造でした。製造業者に問い合わせたところ、「タイヤが横を向いていると転倒しやすくなる。洗体作業をするときはタイヤを縦向きにして使用してほしい」という回答がありました。

法人では「このストレッチャーに構造上の欠陥があるので、事故は製造業者の責任である」と判断しました。この判断を受けて被害者家族に対して「事故の原因はストレッチャーの欠陥にあるので、賠償金は製造業者に請求してほしい」と説明。すると家族はその対応を不満に思い、施設に対して訴訟を起こしました。

機器の欠陥による事故は、責任の所在がわかりにくい

この事例は介護機器の構造上の欠陥が原因の事故ですが、こうした「責任の所在がわかりにくい事故」はトラブルに発展しやすい事故だと言えます。

施設側に明らかな過失がある場合には、施設側も誠心誠意謝罪します。賠償の話も、多くの場合は施設側から積極的に提示するでしょう。施設側の反省と謝罪を受け取ることで、被害者や家族は悲しみや怒りを何とか消化していきます。

一方で「責任の所在がわかりにくい事故」が起こると、施設側は「自分たちに過失はなかった」と考えるので、謝罪の意識が前面に出ません。被害者側からするとその態度が無責任に思えて怒りが湧き起こり、トラブルに発展するのです。

トラブルを誘発したポイントは2つある

トラブル誘発ポイントの1つ目としては、「転倒しやすい不安定な構造だった」という点が挙げられます。

【トラブルを誘発したポイント】てんとうしやすい不安定な構造が事故原因。1)背中を洗う時は側臥位になるので、重心がかたよる。2)タイヤが横を向くと左右に重心が寄ったときに支えられない

この事故に対する製造業者の回答は「ストレッチャーのタイヤが横を向いていると転倒しやすくなる。洗体作業をするときはタイヤを縦向きにして使用してほしい」ということでした。しかし移動するたびにタイヤの向きを確認することは、業務効率を著しく悪化させるので現実的ではありません。

しかも根本的な原因は、ストレッチャーの脚が内側に寄っていることにあります。ストレッチャーの脚を外側に付けることはコスト面・技術面からも可能であり、製品の機能も損なわれない。よって製品の構造上の欠陥が事故原因であると言えます。

トラブル誘発ポイントの2つ目は、「家族対応の不適切さ」にあります。

【トラブルを誘発したポイント】家族対応の不適切ポイント:施設として利用者家族への賠償責任を果たさず、「自分たちで製造者と交渉してくれ」と突き放した。よくある失敗:機器の構造上の欠陥に気づかず、職員個人のミスとして処理してしまうのも大きな問題。根本原因に気づかないとまた同じような事故が起きてしまう

施設として利用者家族への賠償責任を果たさず、「自分たちで製造業者と交渉してくれ」と突き放すのは、家族対応としては不適切です。

また、機器の構造上の欠陥に気づかず、職員個人のミスとして処理してしまうのも大きな問題です。根本原因に気づかないとまた同じような事故が起きてしまうことなります。

欠陥製品が原因の事故への適切な対応方法は?

欠陥製品が原因でも、多くの場合は職員の取り扱いミスとして処理されているのが現状です。いざというときに介護機器の欠陥に気づけるように、日頃から機器の安全性に対して高い関心を持ちましょう。

まずは、常に注意深く機器を点検することです。そして、少しでも「不便だな」「危ないな」と感じる部分があったら、そのままにしないで製造業者に対して改善を求めましょう

製品の欠陥が原因で事故が起きてしまった場合は、製造業者(または輸入業者)に通知しなくてはなりません。これは同じような被害が拡大しないように、改正消費生活用製品安全法で義務づけられているからです。

通知を受けた製造・輸入業者は、原因調査を行い、必要があれば製品を回収します。

【トラブル回避の適切な流れ】まずは施設側の賠償責任を優先する

【このトラブルを回避する事故対応・家族対応】施設内部での事故の詳しい調査:事故状況の詳しい調査を行う。機器の構造上の欠陥が原因の場合はこの段階で詳細にまとめる。※以下家族への対応。家族に対して事故の説明と謝罪を行う。事故の調査が終わったら、なるべくはやく家族に詳細な報告を行う。たとえ施設側に過失がなくとも、施設に預けたことで利用者が事故にあった事実は変わらないので、誠心誠意謝罪する。→利用者・家族に対して施設バワから賠償金等の支払い:施設は利用者との契約において「安全なサービスを提供する義務」を負っている。そのため、たとえ施設が使用していた介護機器に明らかな欠陥があったとしても施設には利用者に対する賠償責任が発生する。すぐに保険会社や必要があれば弁護士と連絡をとり賠償金を支払う。※以下施設と製造業者とのやりとり。施設内部の調査後。製造調査に対して被害情報を通知する:改正消費生活製品安全法に基づき、製造業者に対して被害情報を通知する。この法律は被害の拡大を防ぐために施工されたもので、消費者を守るために義務づけられている。→製造業者による原因調査:被害情報の通知を受けた製造業者は、原因調査をおこなうことが義務付けられている。→必要があれば、製造業者による被害の公表と製品回収:製造業者の調査によって欠陥が認められた場合は、被害拡大防止のために公表と製品回収を行う。→利用者に支払った賠償金と同額を、製造業者に賠償請求:製品の欠陥が明らかであれば、施設は製造業者の対して製造物責任法に基づき賠償金相当額を求償することができる。ただし職員の扱いミス等あれば減額される。

たとえ施設が使用していた介護機器に明らかな欠陥があったとしても、施設には利用者に対する賠償責任が発生します。なぜなら施設は「安全配慮義務」といって、安全なサービスを提供する義務を負っているからです。万一、事故が起きて利用者が安全でない状況にさらされたのであれば、債務不履行責任(契約違反)として賠償責任が発生します。

たとえ欠陥製品が原因の事故であると判断しても、施設側は間違っても「施設に過失はないから、製造業者と交渉してほしい」などと責任転嫁をしてはいけません。あくまで利用者に対する賠償責任は、施設が負っているのです。

まずは、施設から利用者に対して適切な賠償責任を果たしましょう。利用者に対する賠償が決着したら、製造業者に対してそれと同額の賠償請求を行うというのが、こういう場合の正しい順序です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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