【介護リスクマネジメント】第3回 介護事故には「防げる事故」と「防げない事故」がある

介護事故には「防げる事故」と「防げない事故」がある | 事故防止編(第3回)

これは事故防止活動を進めるうえでの原点となる考え方です。「すべての事故を防がなければいけない」という思い込みではなく、「防げる事故=防ぐべき事故」を起こさないという目標設定にシフトすることが大切なのです。

まずは事故を2種類に分ける

事故防止活動を始めるに当たって、原点とも言える大切な考え方があります。「介護事故には防げる事故と防げない事故がある」という視点です。

【防ぐべき事故と防げない事故】: 医療事故>医療過誤/病院に過失のある事故 |介護事故>介護過誤/施設に過失のある自己 |いずれも「やるべきことをきちんとやれば防げる事故(防ぐべき事故)」→事故防止活動で、防ぐべき事故の部分をなくしていく

「防げる事故」とは、やるべきことをきちんとやれば防げる事故のことで、「防ぐべき事故」 とも言えます。

一方、事故には事故防止活動では防げないものもあるので、「すべての事故を防がなくてはいけない」という思い込みは捨てなければなりません。

そして「防ぐべき事故は一件も起こさない」という視点で、あらためて目標を設定するのです。事故が起きたら、一件一件「これは防ぐことができた事故か、防げなかった事故か」を検討して仕分けます。

そこで「防げなかった」に分類されたものはいったん保留にするのです。そうすると、防ぐべき事故を起こさないだけでもいかに大変なことかが見えてきます。

事故を分けるとどう変わるか【1.目標設定】

事故に対する目標設定についてのイラスト: 「目指せ!事故ゼロ」「やればできる!!」と従業員を鼓舞する上司と、困った様子の従業員/「防ぐべき事故をなくそう!」「こうしてはどうかな?」と従業員に提案する上司と、「なるほど」と納得する従業員

防げない事故があることを認めたうえで、「努力して、防ぐべき事故の部分はなくしていこう」という目標設定に変わるようになります。

事故を分けるとどう変わるか【2.事故原因の究明】

事故原因の究明についてのイラスト: 「この件はきみのミスだな」と従業員をしかりつける上司と、「すみませんでした」と謝る従業員/「この事故は防げた?防げなかった?」「どうしたら防げるのかしら」と一緒に考える上司と従業員

事故が起こるたびに、まずは「防げる事故か、防げない事故か」という視点が加わるので、容易に「介護職のミス」で終わらないようになります。

事故を分けるとどう変わるか【3.事故の評価】

事故の評価についてのイラスト: 「骨折事故などとにかくあってはならん!」と拳を振り上げる上司/「この骨折事故は仕方なかったが…こっちの方は防げたんじゃなかろうか…」と報告書を読みながら状況を振り返る上司

「骨折事故は重大事故」という画一的な評価から、「同じ骨折事故でも防げるか防げないか」という形で事故の質に対する視点が増えるようになります。

防ぐべきは「施設側に過失のある事故」

では、防ぐべき事故と防げない事故はどのように分けるのでしょうか。これは、ひと言で表すなら「過失があるか、ないか」という点を見ます。

医療の世界では、事故防止活動の対象になるのは「医療過誤」と言われる事故のみです。つまり、病院側に過失があって起こった事故だけが対象となります。

一方、介護の世界では、今でも「介護過誤」という言葉は耳にしません。介護の世界では、過失の有無が明確に区別されてこなかったからです。ここに、介護業界の事故防止活動が効率的に進まなかった根本原因があります。ですから私は、あえて介護事故の中にも「介護過誤」があると言いたいのです。

まずはこの、「やるべきことをきちんとやらなかったために起こった、施設側に過失のある事故」をなくしましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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