これは事故防止活動を進めるうえでの原点となる考え方です。「すべての事故を防がなければいけない」という思い込みではなく、「防げる事故=防ぐべき事故」を起こさないという目標設定にシフトすることが大切なのです。
まずは事故を2種類に分ける
事故防止活動を始めるに当たって、原点とも言える大切な考え方があります。「介護事故には防げる事故と防げない事故がある」という視点です。
「防げる事故」とは、やるべきことをきちんとやれば防げる事故のことで、「防ぐべき事故」 とも言えます。
一方、事故には事故防止活動では防げないものもあるので、「すべての事故を防がなくてはいけない」という思い込みは捨てなければなりません。
そして「防ぐべき事故は一件も起こさない」という視点で、あらためて目標を設定するのです。事故が起きたら、一件一件「これは防ぐことができた事故か、防げなかった事故か」を検討して仕分けます。
そこで「防げなかった」に分類されたものはいったん保留にするのです。そうすると、防ぐべき事故を起こさないだけでもいかに大変なことかが見えてきます。
事故を分けるとどう変わるか【1.目標設定】
防げない事故があることを認めたうえで、「努力して、防ぐべき事故の部分はなくしていこう」という目標設定に変わるようになります。
事故を分けるとどう変わるか【2.事故原因の究明】
事故が起こるたびに、まずは「防げる事故か、防げない事故か」という視点が加わるので、容易に「介護職のミス」で終わらないようになります。
事故を分けるとどう変わるか【3.事故の評価】
「骨折事故は重大事故」という画一的な評価から、「同じ骨折事故でも防げるか防げないか」という形で事故の質に対する視点が増えるようになります。
防ぐべきは「施設側に過失のある事故」
では、防ぐべき事故と防げない事故はどのように分けるのでしょうか。これは、ひと言で表すなら「過失があるか、ないか」という点を見ます。
医療の世界では、事故防止活動の対象になるのは「医療過誤」と言われる事故のみです。つまり、病院側に過失があって起こった事故だけが対象となります。
一方、介護の世界では、今でも「介護過誤」という言葉は耳にしません。介護の世界では、過失の有無が明確に区別されてこなかったからです。ここに、介護業界の事故防止活動が効率的に進まなかった根本原因があります。ですから私は、あえて介護事故の中にも「介護過誤」があると言いたいのです。
まずはこの、「やるべきことをきちんとやらなかったために起こった、施設側に過失のある事故」をなくしましょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています