事故が起きたとき管理者は何をすべきか? 役割と対応方法を解説|トラブル対策編(第55回)

事故が起きたとき管理者は何をすべきか? 役割と対応方法を解説|トラブル対策編(第55回)

事故が起こったときに管理者がどう対応するかで、事態は大きく変わります。本記事では、トラブルを防ぐ管理者の行動についてわかりやすく解説していきます。

トラブルを防ぐ管理者の行動とは

介護事故が起きたときに現場の職員が謝罪するのと、管理者(責任者)が謝罪するのとでは、家族に与える印象がまったく違います。やはり管理者が出てくることで伝わる誠意や、収まる感情があるものです。

管理者のとった行動によって、事態は大きく変わります。緊急時で混乱していても決して当事者のせいにせず、最終責任は管理者にあることを意識して行動することが大切です。

管理者はトラブルを防止するために、日頃からトラブルに発展しやすい事態を想定し、備えておくよう心がけましょう。そして事故が起きてしまったときは、「判断」「指示」「行動」をもって、管理者の役割を果たすことが大切です。

一般的な事故時に管理者がするべきことは?

一般的な事故時に管理者がすべきこと:判断・指示・行動
判断
トラブルに発展しそうな事故が発生したら、管理者が自分の責任において「対応方針」「事業者の法的責任」などの重要な判断を迅速かつ的確に行う。
指示
管理者は対応方針を決定したら、幹部職員に対して具体的な指示を出す。その都度家族の反応などを確認し、現場の職員任せにせず、最終責任を自分で持つ。
行動
管理者はお客様の矢面に立って行動する。特に謝罪・事故の補償の説明など重要な局面では、職員に任せず、自らが行う。

家族側から金銭を要求されたときの対応

事故が起きた際は相手が納得できるように説明責任を果たし、必要があれば賠償などにも速やかに応じたいものです。

しかし、時には正当な主張の範囲を超え、不当な金銭要求をしてくる家族もいます。事故を起こした責任があるとはいえ、不当な要求まで受け入れてしまってはいけません

説明や交渉を進める中で不当要求に発展した場合は、必ず管理者が直接交渉するようにしましょう。こうした難しい判断を、相談員任せにしているようではいけません。

不当要求だと認識したら、これは強迫に当たる要求であることを相手に通知し、安易に相手の要求を受け入れるような発言をしないことが大切です。その後の家族との交渉は、弁護士や警察と相談しながら進めましょう。管理者にも手に余る場合は、早めに本部対応に切り替えます。いたずらに引きのばさないことが大切です。

不当要求に対して管理者がするべきことは?

不当要求に対して管理者がすべきこと:矢面に立つ・断固拒否する・弁護士や警察に相談
矢面に立つ
交渉の経過で、明らかに根拠のない不当な金銭要求などがあれば、犯罪性が問われる難しい問題です。現場の職員に対応を任せず、すぐに管理者に交代する。
断固拒否する
相手の話をよく聞き、誠心誠意謝罪をすることは非常に大切。しかし、相手の要求が異常値に入った場合は安易に受け入れず、規則にのっとって断固拒否する必要がある。
弁護士や警察に相談
相手の要求が不当要求の域だと認識したら、犯罪性があることを相手に伝える。そのうえで問題が解決しないようなら、顧問弁護士や警察に早めに相談して対策を立てる。 

【事例で解説】訪問介護の利用者による職員へのわいせつ行為

訪問介護での利用者の職員へのわいせつ行為のイラスト

訪問介護の利用者Bさん(男性・66歳)は、糖尿病やうつ病などの疾患があります。そんなBさんがある日突然、介護士の臀部(でんぶ)に触れて「きみって素敵だね」とささやいたのです。別の日には、下着の中に手を入れてきました。「やめてください」と伝えても、あれこれと言い訳をしている状態です。

利用者からのわいせつ行為を訴える職員に対して、「障がいのある人だから我慢して」という所長のイラスト

介護士は事業所に戻ると所長に報告しました。しかし所長は困ったようなそぶりで「Bさんは障害があるから1人で暮らすことはできない。なんとか我慢してほしい。次は危ないと思ったら逃げればいい」と説得してきたのです。頭にきた介護士は、そのまま退職しました。

訪問看護師が刑事告訴を考えていいることをケアマネージャーから聞いて驚く所長のイラスト

それから数ヵ月後、訪問介護の事業所にケアマネジャーから電話が入りました。なんとある訪問看護ステーションが、Bさんに対して強制わいせつ罪で刑事告訴を考えているとのことでした。所長は利用者個人を告訴するという事態は考えつかなかったので、腰が抜けるほど驚きました。

解説1:介護と看護の対応はこんなに違う

問題が起こったときに管理者がどう行動するかによって、職員を守ることも傷つけてしまうこともあります。上に挙げたケースは、その代表例です。

利用者Bさんは、訪問介護と訪問看護の両方を利用していました。そして介護士と看護師の両方に、わいせつ行為に及んだのです。Bさんはうつ病などの精神疾患はありましたが、認知症ではありません。正常な判断力がある状態と言えます。

問題は、事業所の職員がわいせつ行為にあった際、介護の所長と看護の所長の対応が正反対に分かれたことです。

介護の所長が「我慢してほしい」と職員を説得したのに対し、看護の所長はBさんの刑事告訴を検討しました。介護業界は医療業界より、職員の権利に対する意識が低いのが現状です。

解説2:職員の権利を守るのは管理者の役割

では、訪問介護事業所の所長はどのような行動をとれば職員を守れたのでしょうか。

まず、「これは強制わいせつ罪という犯罪行為である」と認識できなかったことが問題です。本人に対処させるのではなく、警察や行政に相談をして強制力をもってその行為をやめさせるように動くべきでした。性犯罪の被害に遭っている職員に我慢させるのは、あまりに無責任な対応と言えます。

介護業界の管理者も「サービス提供拒否の基準」を明確にし、従業員の権利を守るのは務めだという意識を持つことが大切です。そのためには日頃から問題を事業所だけで抱え込まず、警察や市区町村の介護保険課、地域包括支援センターと連携するようにしましょう。

今回の場合は、行政の担当者から利用者に対する説得や説明をお願いし、安心して介護できる環境が整うまでは、サービスの提供を拒否するべきでした。

【事例への対応方法】職員を守るために管理者がとるべき行動はこの4つ

管理者は、職員を守るよう次のような行動をとるべきです。

警察に相談する

警察に施設利用者のわいせつ行為を相談する施設長のイラスト

警察にBさんの実名を出して相談しましょう。相談するときは、具体的に説明して問題の重大さをしっかり伝えることが大切です。また、刑事告訴をする際に必要な書面や手続きについて聞き、準備をするといいでしょう。

サービス提供の拒否

法律に抵触する行為・契約上の信義則違反は許さないイラスト

「契約上の信義則違反(契約相手の信頼を裏切る行為)」と「法律に抵触する行為(特に犯罪行為)」があった場合はサービスの提供を拒否するなど、基準を明確にしておきましょう。職員を守るには、規則から整備することです。

公的機関と連携する

地域包括支援センター・介護保険課・施設管理者が連携することをあらわすイラスト

事業者だけで抱え込まず、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターと連携しましょう。介護を受けられなくなるかもしれない旨や、それでは生活できないという現状を利用者に伝え、間に入って調整してもらうといいでしょう。

2名体制にして警察とも連携

わいせつ行為をしないことを条件にサービス再開する場合、2名体制で行う。警察にも協力を要請しましょう。

Bさんがわいせつ行為をしないことを条件にサービスを再開する場合も、当面は2名体制で行いましょう。また、不審なことが起きたらすぐに警察へ救援を求めることを周知徹底し、警察にも協力をお願いしておくと安心です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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