トラブルを回避するために何が必要なのかを理解していますか。中には法令違反になりかねない、ずさんな対応をしている施設もあるようです。本記事で基本的な対応をしっかり学んでください。
法令違反とも受け取られかねない対応って?
介護業界は事故が起きやすいにもかかわらず、事故に対する備えが不十分で、残念ながら最低限の対応もできていない事業者が少なくありません。
では、介護事故が起きた際にとるべき「最低限の対応」とはどのような対応を指すのでしょうか。
「利用者本人や、家族が納得できる対応のこと」だと思いますか? 実は、次のイラストにあるように、「家族が納得する」どころか、法令違反と受け取られてもおかしくないようなひどい対応をしている事業者がたくさんあるのが現実です。
では、法令において、介護事故に対して事業者はどのように対応すべきだと定められているのかを見てみましょう。
介護保険事業者に関する法令とは、おもに「介護保険法」とそれに伴う「厚生労働省令」などのことです。そこでは「賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない」と定められています。
事故に対する介護事業者の法的責任は?
介護保険法では、事故発生時に介護事業者がとるべき対応を次のように定めています。
【1】介護保険法
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号)第35条
「指定介護老人福祉施設は、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない」
【2】介護保険法
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)第37条
「指定訪問介護の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない(通所介護へ準用)」
条文内にある「賠償すべき事故」とは、介護事業者側に過失がある「防ぐことができる事故」のことを言います。防ぎようがない事故については、基本的に法的責任は発生しません。
しかしながら、いくら「防ぎようがない事故だったから」といって、家族が納得できないような対応をするのは問題です。
仮に賠償責任はなくとも、起こった事故に対してきちんと対応をする義務はあります。この義務を怠ったために、怒った家族から訴えられるケースが後を絶たないのです。
つまり、「家族からの問い合わせや賠償請求がなくとも、賠償責任が発生するような事故が起こった際には自発的に家族に伝え、手続きを進めなければならない」ということです。
一般的な契約では、「一方が相手側の過失に気づいて請求しないと、損害賠償は発生しない」ことになっています。しかし介護事業者が提供するサービスでの事故は、「過失があったか」「過失と事故の因果関係」などの詳しい情報を利用者側が摑むことは困難です。施設入所中の認知症の利用者の場合、事故でケガをしても家族は知らないでいる可能性もあります。
ですから、法令においては、介護事業者側と利用者側の情報量のバランスを考慮し、「過失があるのであれば、自ら損害賠償を行わなければならない」と定めてあるのです。
家族への基本対応チェックと事前説明の方法を解説
法令違反にならないように家族に説明さえすれば、「最低限の対応はできている事業者だ」と言えるのでしょうか。それは違います。「法令違反ではない」というラインで満足されてしまっては、安心してサービスを利用することができません。
「事故対応体制チェックシート」を活用しよう
では、事故後の家族対応がどの程度できているかを、次の「事故対応体制チェックシート」で確認してみましょう。
上記シートのNo.8までが、「最低限できていてほしい家族対応」です。この8項中でまだできていない部分がある場合は、早急に対応しましょう。
たとえば利用者が転倒して骨折する事故が起こった場合、皆さんの施設ではどのような対応をしているでしょうか。
こうした家族対応をしっかり検討して手順化しておかないと、 家族には「誠意のない対応」に見えてしまうのです。
家族に介護中のリスクを事前説明する際のポイントは?
一方で、事故が起こる前にしておくべき大切な家族対応もあります。それは、利用を開始する際に行う「介護保険サービスを利用するとは、どういうことか」を理解してもらうための説明です。
家族には「プロに預けるのだから安心」と考えている人が少なくありません。しかし実際は、スタッフが24時間つきっきりで見守るわけにはいきません。家族には、サービス中に避けられない危険があることを理解してもらうことが大切です。
そのためには、
- 避けられない危険があること
- 事故を防ぐために事業者が行っている事故防止策
- 家族にお願いしたい協力
この3つをセットにして伝えましょう。詳しくは次の資料を参照してください。
こうすると「利用者の安全のために、家族と事業者が両輪となって共に支えよう」という意識づくりができるのです。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています